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第34回:春雛の1日ママ

【SIDE:西園寺恭平】


 如月春雛、俺の幼馴染にして立派な膨らみ(Eカップ相当)の持ち主だ。

 いわゆる旧家のお嬢様で、ふたりの姉に甘えさせられて育ってきた。

 だから、見た目的にはクール系に見えても結構甘えたがりだったりする。

 俺にとってはよく出来た妹みたいな存在だ。

 そんな彼女から緊急SOSのメールが届いたのは秋も半ばの9月後半の日曜日。

 朝からのんびりとちょいとHな雑誌を眺めていた時だった。

 

「春雛、どうした?俺に何か用事か?」

 

『キョウ、今日は暇?暇なら私の家に来てほしいんだけど』

 

「何っ!?家族がいないから自宅にお誘い?つまりはそう言う意味で……」

 

『私、そう言う下品な冗談は嫌いなの』

 

 ツーンとちょっと低めの声で言われると怖い。

 春雛を怒らせたどうなるか、俺は過去に身をもって知っているので大人しくしておく。

 

「で、俺に用事って何だ?デートのお誘いか?」

 

『ふぅ、少しだけ似ているかも。とりあえず、暇なら私の家にきてよ』

 

「オッケー。すぐに行くから待っていろ」

 

 俺は出かける準備を始めようと私服に着替えている最中。

 

「お兄さん、少しパソコンを借りてもいいですか?」

 

 珍しく麗奈が俺の部屋を訪れる。

 俺に会いに来てくれる確率はなきに等しいが。

 

「いいけど、俺は出かけてくるから好きにしていいよ」

 

「ありがとうございます。猫の習性について調べておきたくて……」

 

 我が家でパソコンが出来るのは俺の部屋しかないからな。

 部屋に入ってきた麗奈がなぜか足を止める。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

「……そーいうの、男の方ですから見てもおかしくはありませんが、せめて義妹の前くらい隠す努力をしておいてください。デリカシーがないですね」

 

 冷たい目でこちらを牽制する、その理由は俺が先ほどまで見ていたグラビア雑誌だ。

 水着姿の巨乳のお姉さんが魅惑的なポーズをとっている、堂々と開きっぱなしです。

 

「……ごめんなさい」

 

 俺は即それをベッドの下に放り込んで、なかったことにしようとする。

 

「別に胸の大きい人が好きならそれはそれでいいんですけど。私には関係ないですし」

 

 どこか拗ねた口調の麗奈がちょっと可愛かった。

 

 

 

 

 春雛の家は俺の自宅から歩いて約5分とそれほど離れてはいない。

 相変わらず立派な日本家屋の屋敷に入ると、俺を待ち構えていたのはふたりの影。

 綺麗に手入れされた日本庭園、そこに響くのは幼女の甘える声だった。

 

「うぅ、抱っこして~」

 

「いいよ、葵。ホントに甘えたがりなんだから……」

 

 何という事でしょう。

 俺の目の前に広がる光景が信じられない。

 春雛が庭先で小さな女の子を抱きしめて遊んでいた。

 大和撫子と言える春雛は微笑みを浮かべ、幼女の手を握り締めている。

 

「……ま、まさか……そんな馬鹿な……」

 

 俺は今までにない衝撃に震えている。

 これは初めて麗奈に『お兄ちゃん』と囁かれた時と同じくらいの衝撃だ。

 

「まさか……春雛に子供がいたなんて」

 

 俺の人生でもこれほど痛いショックなのは久しぶりだ。

 俺は愕然としながら立ち尽くしていると、春雛が俺に気づく。

 

「ん?あら、キョウ。来てくれたんだ、ありがとう。どうしたの、そんなに顔を引きつらせて?何かあった?」

 

「えっと……春雛に子供がいた事に衝撃を受けてます」

 

 俺の視線の先には無邪気な笑顔の子供がいる。

 視線の意味と俺の言葉に春雛は慌てて否定する。

 

「ち、違うわよ。この子は親戚の子。彼女の両親が海外に旅行に行っていて、数日前から預かってるの」

 

「それはホント?実は隠し子とかいう設定があったりして」

 

「うぅ、からかわないでよ。そういう冗談、私が好きじゃないって言ったでしょ」

 

 春雛の言葉にホッと一安心。

 信じてなかったけどホントだったらかなりショックだ……。

 だって、春雛は巨乳だから普通に子供がいてもおかしくないし。

 ……すまん、胸の大きさは子供と関係なかった。

 

「と……冗談はおいといて。春雛、この子の名前は?」

 

 女の子は2、3歳と言ったところだろうか。

 リボンを髪につけてる可愛らしい子供、将来はいい感じになりそうな子だ。

 俺の方を興味ありげに見つめる幼女。

 

「この子は如月葵(きさらぎ あおい)。私の従姉の子供なの。ほら、葵、挨拶して」

 

「こんにちは~」

 

 元気よく俺に挨拶してくれる葵ちゃん。

 いいなぁ、この無邪気さ、全くもって悪意がない。

 

「――おじちゃんはだぁれ?」

 

 俺はぶっと思わず噴出しそうになった。

 何か今、とんでもなく聞きなれたい言葉を告げられた気がしたんだが気のせいか?

 

「……お、おじちゃん?この若くてピチピチした美少年の俺がおじさん?」

 

 俺はまだ17歳の少年と呼ばれる年齢ですが?

 春雛は苦笑いを浮かべて、葵ちゃんの頭を撫でる。

 

「あっ……。葵、違うの。この人はお兄ちゃん。キョウ、ごめんね」

 

「おにいちゃん?おじちゃんじゃないの?」

 

「……お兄ちゃんの名前は西園寺恭平っていうんだ。お兄ちゃんだよ」

 

 お兄ちゃんを強調、そこがかなり重要です。

 俺はまだおっさん呼ばわりされるほど老けてはない。

 何気に心に大ダメージ、悪意がないからこそ、心にグサリと来る一撃だった。

 俺、そんなに年上に見えるのかな……?

 

「春雛お姉ちゃんのおともだち?」

 

「えぇ。そうよ、私のお友達。キョウは幼馴染なの」

 

 何だか母親みたいに葵ちゃんに接する春雛。

 春雛って母性本能に溢れているんだな……。

 彼女の優しさは全てのものを包み込んでくれる。

 

「春雛。今日はその子の相手をするのか?」

 

「うん。昨日はお姉ちゃん達も手伝ってくれていたんだけどね。今日は都合が悪く手ふたりとも無理なの。どうしようかなって……」

 

「なるほど。確かに子供の面倒はひとりじゃ大変だ」

 

「……キョウが来てくれて嬉しい。子供の相手って、ひとりじゃ大変だもの」

 

 苦笑いをする春雛に俺は仕方ないなと思う。

 春雛は結構大人しい子なので人と積極的に接するのは苦手なタイプだ。

 それが子供ならなおさら、母性はあるけど付き合い方が苦手だと困る。

 

「葵ちゃんとこれからどうするんだ?」

 

「今日はピクニック日和じゃない。近所の公園にでも遊びに行こうかなって思ってる」

 

「それに俺も付いていけ、と?」

 

「ねぇ、私と葵を公園に連れて行ってよ。キョウしか頼れる人がいないの」

 

 くっ……春雛が何だか駆け引きって言うのを覚えだしました。

 基本的に俺は女の子に弱いのに、そう言われたらどうにもできません。

 

「……いいよ。俺も付いていくから」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 ……春雛が嬉しそうだからいいか。

 というわけで、何やら子連れでピクニックという事になりました。

 整備された児童公園、葵ちゃんは春雛にぴったりくっついて離れようとしない。

 すっかりと懐かれているようで、微笑ましいのだが。

 

「おじちゃん~」

 

 幼女とはいえ、俺の事をそう呼ぶのはやめてくれと思います。

 子供って1度覚えた事は中々変えてくれないだよなぁ。

 いい天気だ、俺達は日陰のベンチに座りながら葵ちゃんがはしゃぐのを眺めていた。

 麦藁帽子をかぶり、子供らしくはしゃいでいる姿を見つめている。

 

「春雛って子供とか好きなのか?」

 

「大好きよ。ああやって笑ってくれると可愛いし。ただ、相手するのは苦手と言うより、どうすればいいのか分からないのはあるけど。キョウは小さい女の子とか好きでしょ。貴方の顔にそう書いているわ」

 

「――お、俺はロリータコンプレックスの危ないおじさんじゃないです!」

 

 一応言っておくが、俺はロリ好きじゃない。

 あくまでも“巨乳好き”なだけだ、エレナが好きだったのはそのためです。

 年下すぎる女の子だからOKなんて事は……多分、その、ないと思います(弱気)。

 春雛はそんな俺にくすっと笑いながら、

 

「嘘よ。そんなに困った顔をしないで。からかっただけだから」

 

 それ以上は何も言わずに彼女はまた葵ちゃんを眺めている。

 

「ねぇ、お姉ちゃんも遊ぼうよ」

 

「いいわよ。怪我しないように気をつけてね、葵」

 

 葵ちゃんが春雛の手を引いてブランコに乗ろうとする。

 彼女は母親のように幼女を抱きしめてブランコを揺らす。

 

「楽しいね~、お姉ちゃん」

 

 戯れる幼女と美少女、どこからどう見えても親子にしか見えません。

 春雛から新妻オーラが漂うぜ……さすが、巨乳(まだ言うか)。

 俺もゆっくりとふたりに近づいて彼女たちと共に遊ぶ事にした。

 

 

 

 

 お昼時になって、春雛が手作りしたサンドイッチを3人で食べる。

 ベンチに座ると自然に葵ちゃんが俺に近づいてくる。

 

「おじちゃん、次はこれ欲しい」

 

「はいはい。口開けて、葵ちゃん」

 

「あ~ん。んぅっ、美味しいよ」

 

 俺の膝上に乗りながら葵ちゃんはサンドイッチをねだる。

 よく彼女のお父さんにしてもらってるらしい。

 

「甘いの好き~」

 

 葵ちゃんはどうも人から食べさせてもらうのが好きなようだ。

 俺がサンドイッチを口に入れてあげると美味しいそうに彼女は食べる。

 

「おいしいね。おじちゃんもおいしい?」

 

「うん。春雛の料理は美味しいからな」

 

 何だか、小動物に餌をあげている気持ちになるなぁ。

 春雛特製のサンドイッチは生クリームとフルーツの合わさったフルーツサンド、子供用に甘い生クリームがたっぷり入ってる。

 甘過ぎるのはあまり好きじゃないがたまにはいいか。

 

「……葵はキョウにも慣れたみたいね」

 

「そうみたいだな」

 

 葵ちゃんが俺の膝上から離れようとしない姿を春雛は優しい表情で、

 

「葵は恭平お兄ちゃんのこと好き?」

 

「……うんっ。おじちゃんのこと、大好き。だって身体があったかいもんっ」

 

 おじちゃんと呼ばれるのにも慣れた、ていうか諦めた。

 人間、時には諦めも大事……ここはひとつ家族ごっこを楽しもう。

 いつしか葵ちゃんは眠りについている。

 

「こういう寝顔は子供って可愛いよな。手間かかる分だけ可愛いって奴か」

 

「それ、普通のパパの台詞だと思うわ。キョウも将来はいいパパになれるかもね」

 

 将来ねぇ、俺も子供が出来たらこういう風になるのだろうか。

 今は想像しかできないけれど、いつか現実になる可能性だってある……。

 晴れ渡る穏やかないい天気、こうして春雛と同じ時間を過ごすのもいいな。

 

「たまにはこういう休日もいいでしょう?」

 

「まぁな。たまにはのんびり過ごすのも悪くない。というわけで、俺も春雛に膝枕なんてしてもらえたら嬉しいんですが……どうだ?ひざを貸してみる気はない?」

 

「残念ながら大きな子供の面倒をみるつもりはありません」

 

 あっさりと断られてしまった、ぐすっ。

 葵ちゃんと一生懸命に接している春雛を見ていたら、この子は将来、いい母親になるという確信めいた想像ができる。

 ただ、無邪気な子供に「おじちゃん」と呼ばれ慕われる事に、少し自信は失ったけどな。

 終始、笑顔を浮かべるふたりに俺もほのぼのとした気持ちになれた。

 

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