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第24回:誘惑?ラブラブ!?

【SIDE:西園寺恭】

 

 俺は朝からテンションハイな出来事に感動していた。

 ……この歳になって、こんなにも感動できる事があったなんて。

 

「どーしたの?恭平おにーたん?」

 

 エレナが不思議そうな顔をして俺にそんな甘い言葉を囁いた。

 揺れる金髪に誘われて、俺は興奮に心の涙を流していたのだ。

 事の始まりは、朝、エレナが俺の事をどう呼ばれたいかと尋ねてきた。

 俺は……悩みに悩んだ末、ひとつの答えをだした。

 

『おにーたんっ♪』

 

 全国500万人の妹大好き症候群の皆の夢をここに叶える。

 とびっきり可愛い美少女に“おにーたん”と呼ばれたい!

 お兄ちゃんでもなく、お兄様でもなく、お兄さんでもない……。

 それは幼さ属性が絶対条件の幻とさえ言われる呼び方、おにーたん。

 人生で女の子に一度は言ってもらいたかった台詞。

 もうここで朽ち果てても悔いはないぜ。

 

『……おにーたん。私にチューして(はぁと)』

 

 エレナの薄桃色のぷっくりとした可愛らしい唇を突き上げてくる。

 

『おにーたん、大好きだよぉ』

 

 吸い込まれそうなほど純粋で潤んだ瞳。

 

『おにーたん、ラブぅ~愛してるぅ~』

 

 守ってあげたくなるその幼さ。

 ピュアという名の未熟な青い果実。

 

 (゜∀゜)o彡゜おにーたん!おにーたん!

 

 ……すまん、少し興奮しすぎたようだ。

 

「それでエレナ。俺に何か用事があったんだろう?」

 

 気を取り直して、エレナに話しかけると、

 

「恭平おにーたんと遊びにいきたいなって。麗奈ちゃんとホントは行くつもりだってけど、用事でいけなくなったの。この街を案内して、おにーたん?」

 

「……任せてくれ。どこにだって連れて行ってあげるぞ」

 

「ホント!?えへへ……ありがとう」

 

 愛らしく微笑むエレナ。

 ……可愛いなぁ。

 デート、デート、小学生とデートだぁ♪

 浮かれた俺は後悔する、この後にあんな衝撃的な事件が起きるとは……。

 

 

 

 というわけで、エレナを街の繁華街に連れていくことになった。

 女の子の向けの店を紹介すると、彼女は適当に物色している。


「うわぁ、可愛い。この色のリップ欲しいなぁ」

 

 ……なんかいいぞ、こういうデートっぽいの。

 麗奈とはあまり買い物に誘っても、素っ気無いし。

 あの子らしいと言えばそうなんだけど……なんか物足りない。

 それ比べて、エレナは素直だし、可愛いし……。

 

「ねぇ、恭平おにーたん。これ、買って……?」

 

 美少女に上目遣いでお願い事されて断る男がいるか、否、いない。

 

「……ダメ?」

 

「いいよ。好きなものを買ってあげよう。なぜなら俺はエレナおにーたんだからさ!」

 

 ファンシーグッズが数点、値段を確認しても千円くらいの雑貨だ。

 小学生だからか高額の物は選んでいない。

 

「ありがとう。おにーたん、大好きっ」

 

「……おにーたんは、可愛いエレナが喜んでもらえたらそれでいい」

 

 この笑顔を見られるだけの価値はある。

 

「それじゃ、次の店に行こうよ」

 

 そんな風に俺の手を引いて次々と店をめぐるエレナ。

 その度にいろんな物をねだられてしまうが、可愛いから許す。

 

「恭平おにーたんも何か買えば?服なら選んであげるよ」

 

 エレナはそう言って俺の服を選び出す。

 

「これなんかおにーたんに似合いそう。試着してみてよ」

 

「これか?……中々いいチョイスだな」

 

 服を選ぶセンスもいい……というか、慣れている感がある。

 やっぱり、可愛いから男の子とデートとかしてるんだろうね。

 俺がエレナの選んでくれた服を試着してみると、

 

「さすがおにーたん、カッコいいよ」

 

「思わず惚れちゃいそうか?」

 

「うん……って、もうっ。おにーたん、何を言わせるのよぅ」

 

 赤く頬を染めるエレナ。

 照れた素振りも可愛い……つい、相手が小学生だという事を忘れてしまう。

 俺はすっかりとエレナの魅力にハマっていた。

 

「ふふっ……ホントに恭平おにーたんは優しいの」

 

 最後は人気のクレープ屋のクレープをふたりで食べながら、

 

「うーん。このイチゴのクレープ美味しい。すっごく甘いの」

 

「こっちのマンゴー味のクレープも中々いけるぞ」

 

「ホント!?それじゃ……少しちょーだい♪」

 

 かぷっとエレナの唇がついさっき、俺が食べた場所のクレープを食べる。

 

「うん。マンゴー味も美味しい」

 

「……そ、そうか?」

 

 小学生と間接キッスしちゃってもいいのか?

 俺はエレナの唇が触れた場所のクレープを食べる。

 ほんのりと……甘さが増した気がしたんだ。

 

「あっ……おにーたんと間接キスしちゃった。恥ずかしいよぅ」

 

 自分の行為に気づいたのか、エレナは口元を小さな手で押さえる。

 小学生らしい恥じらいの表情。

 近くで見た彼女の綺麗な青い瞳が潤んでいた。

 

「えへへ、間接でもキス、初めてしちゃったよ」

 

 お、俺を萌え殺す気でしょうか……。

 身体が感動と衝撃に震えている。

 ダメだ……この子、可愛すぎ。

 襲っちゃいそうになるのを必死に我慢する。

 理性を保て、ここで負けたら……犯罪者だ。

 

「……私の初めての相手が恭平おにーたんなんだね。嬉しい♪」

 

 ――俺、犯罪者になってもいいですか?

 今、禁断の果実に手を伸ばします。

 俺は理性を完全に壊されて、魅惑の美少女の肩に手を伸ばそうとしていた。

 

「――何でアンタがここにいるの?」

 

 明るく繁華街に響く女の声に俺はドキッとさせられた。

 まさか……この声はまさか……?

 

「しかも年下の女の子と一緒なんて。恭ちゃん、ついに犯罪に手を染めたのね?」

 

「……なっ、何で久遠がここに!?」

 

 俺はエレナに伸ばそうとした手をサッと引っ込める。

 まずい人に見つかりました、隊長!

 

「恭ちゃん。分かってるわよね?」

 

 ニヤリと微笑みを見せる久遠……その笑みが俺を天国から地獄へと叩き落す。

 冷や汗が止まらない、これはピンチ、どうする……どうすればいい?

 幸せな時間は万事休す、絶体絶命の状況へと変化する。

 

「別に幼馴染がロリコンに走っても関係ないけどさぁ。麗奈にバレたらどうするつもりなのかしら?むしろ……バラしてみるのも面白そうかも」

 

「おやめくだされ、久遠様。堪忍してぇ……」

 

 俺は深々と頭を下げて久遠に下手に出る。

 いけない、これは本気でやばいです。

 

「あのぅ、恭平おにーたん。このお姉さんは誰なの?」

 

「おにーたんって、本気でそういう相手?……ごめん、見なかったことにしてあげる」

 

 冗談好きの久遠がマジでドン引きして、冷静な顔で俺に言う。

 ……あの久遠を黙らせるっていうのもある意味、考え物です。

 

「あのね、キミも若いんだからそう簡単に危ないお兄さんについて行っちゃダメよ」

 

「違うんです、恭平おにーたんは悪くないんです」

 

 俺の事を守ろうとしてくれるのか、ホントにエレナは優しい子だ。

 感動よりもまずは事情を話すことが先だ。

 

「えっと、エレナ。彼女は遠藤久遠、俺の幼馴染だ」

 

「私、赤羽エレナといいます。麗奈ちゃんの従妹なんですよ」

 

「麗奈の従妹?……恭ちゃんがナンパした女の子じゃなくて?」

 

「数日前から俺達の家で暮らしてる。夏休みの間だけ、預かってるんだよ。ほら、この間の電話の奴だよ。忘れたか?」

 

 詳細を話すと久遠も納得してくれたようだ。

 エレナの顔を彼女はマジマジと見つめる。

 

「へぇ、そう言われてみれば麗奈と同じ蒼い瞳をしてる。その金色の髪は地毛?」

 

「はい。そうですよ」

 

「ごめん、恭ちゃんが普通にロリに走ったんだと思ってたわ」

 

「俺って相当に信用がないんだな」

 

 俺たちってホントに幼馴染なのだろうか……。

 久遠にも納得してもらえた所で、俺は彼女に言う。

 

「俺達はまだデートの続きなんだ」

 

「……デートねぇ。私も混ぜてもらおうかな?」

 

「おいおい、どういうつもりだ?」

 

「ここで恭ちゃんを見張ってないとエレナを襲っちゃいそうだし。さすがに幼馴染を犯罪者にはしたくないもの。いいかしら、エレナ?」

 

 エレナは戸惑いつつも「いいですよ」と答える。

 久遠はエレナに許可を得てしまう。

 ちっ……ふたりっきりのデートなのに。

 

「それじゃ、行きましょう。今日はすべて、恭ちゃんのおごりね?」

 

「……なんで、俺が?」

 

「私の口が麗奈に喋っちゃうかもよ?ロリに手を出そうとしてた、と」

 

 俺に向けて穏やか過ぎる笑顔を見せる久遠。

 悪魔がいるぜ、本物の悪魔が……。

 その横でエレナは俺に同情してくれるように、

 

「恭平おにーたんも大変そうだね」

 

「分かってくれるか、エレナ」

 

 うん、この子はいい子だよ。

 

「何してるの?ほら、早く行きましょう?今日は楽しめそう。恭ちゃん、愛してるぅ♪」

 

 あ、悪魔め……ちくしょー。

 そんな感じで俺は更なる出費をするハメに……。

 久遠なんて嫌いだ、ぐすんっ。

 

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