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婚約破棄宣言は没落の扉。嵌められた元王太子は華麗に王宮に舞い戻る  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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器の事情

 水音がする。

 小川のせせらぎだろうか。


 ああ、そうだ。

 小さな白い花が咲く丘。王宮のそばにある、清らかな場所。

 丘の下には小川が流れていた。


 あの方は、小川の水を掬って、花にかけていた。

 水滴に光が当たると、宝石みたいに輝いた。


 あの方は、なんと言っていたっけ……。


――水には人の想いが残るの。血も同じ。先祖の想いを受け継いだもの


 もう一つ……。

 もう一つ何か言っていた。


――想いは石にも宿るの。だから……。



 ちくりとした痛みで、トールオは覚醒した。

 指先が怪我をしているようだ。

 水音に聞こえたのは、己の血が滴るものらしい。

 

 亀裂に飛び込んで、意識を落とした。

 そのまま、自分の命が落ちることを願いながら。


 どうやら、生き延びてしまったらしい。

 ここはどこだろう。

 王宮内の一室か。


 揺らぐロウソクの灯りの向こう、見慣れた女の顔がある。

 その横には、ハリネズミのような風体の男の姿。


 トールオは目を伏せる。

 最悪な気分だ。

 生き延びてまた、王妃の手の中に戻ったようだ。


「あら、目が覚めたのね」


 柘榴の様な唇を歪め、女は笑う。

 トールオは椅子に座っていた。

 この女が、落ちていたトールオを拾って、自分専用の部屋に確保したのだろう。


「あなたがドアの前に落ちて来たので驚いたわ。でも儀式を手伝ってもらう必要があるから、丁度良かったの」



 ふと、トールオは女の背後に、白い布が被せられた何かを見つける。


「さて、儀式の説明をするわ」


女は背後の白い布を取る。


「!」


 トールオは声にならない叫びを上げた。

 布の下から現れたのは、婚約者のロゼリアだった。


「ふふ。驚いた? 丁度良い器が手に入ったわ」


 どうしてロゼリアが。

 鳥たちは……。


「先ほど、お邸に帰りになりそうだったので、お連れしてもらったの」


 トールオは奥歯を噛んだ。

 この女、王妃が、トールオの婚約者を狙う可能性は念頭にあった。

 独占欲と執着心が並外れている女なのだ。


 政略的な結婚であっても、トールオがロゼリアを気遣う素振りを見せると、王妃は不愉快さを隠さなかった。


 そもそもは国王の愛がヴィエーネに向けられていることが、王妃は許せなかったのだ。

 だから、時間をかけて、ヴィエーネを亡き者にした。


 薬か、あるいは王妃の術なのか、ロゼリアは目を開いたまま喋らない。

 体も、ピクリとも動かない。


 王妃は今、なんと言った。


「器」


 何の器だ。

 ロゼリアをどうする気なのだ!


「あなたは知っているわよね、トールオ。あそこにヴィエーネの魂の一部を、封じ込めているって」


 トールオは返答しない。したくない。

 それに構わず、王妃は喋る。


「ヴィエーネの肉体は滅んだけど、魂は不滅。彼女の魂は悔しいけど価値があるわ。だから、新しい人型の器を用意して、その中に入れ直そうと思っているの」


 そんな!

 新しい人型って、ロゼリアのことなのか。

 人間の肉体に、別々の魂が共存できるものなのか!


 訝しむトールオの顔を見て、王妃は唇を舐める。


「トールオ。母の言うことに、逆らったりしないわよね」


 しないというよりも、トールオは、それが出来ないようにされている。


 ポンと王妃はトールオに投げる。

 見れば黒い矢じりだ。


「簡単なことよ。トールオ」


 王妃は唇を真横に引く。

 亀裂な様な笑みである。


「あなた、それを、ロゼリアの心臓に突き刺しなさい。大丈夫。ロゼリアは目を覚まさないし、あなたの好きな彼女の体は、そのまま残るから」


 王妃は両の掌を軽く掃う。

 鳥の羽がぱらりと落ちた。


 トールオは咽喉の奥に、冷気が吸い込まれた。

 矢じりを持つ手が震えている。


 王妃の隣の国王は、既に瞳が動いていない。


 トールオはガクガクしながら立ち上がり、歯を食いしばりロゼリアの左胸に、矢じりを振り下ろす。





その瞬間。

ドアが大きく開いた。

次話。

あの二人が登場、か!


すみません、あともうちょっと……。

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