部下たちの事情
御者として、マキシウスとソファイアを王宮に連れて来たラントルは、ソファイアの筆頭部下であり、リスタリオ国内では爵位も持つ者だ。
執事も御者も、時に暗殺も出来るという優れた部下である。
ラントルの身長は成人男性の平均、髪の色も瞳も、何処の国でも平均的な茶色である。
よって、変装しやすいし、誰の印象にも残らない。
斯様、諜報活動に向いている人材だ。
フォレスター国の内情を探るために、ラントルは自分の手駒を十数名送り込んでいた。
メイドや調理人、庭師たちに扮して、王妃と新王太子の動向を探っていたのである。
元々リスタリオ初代国王は、遠い東の果てから竜に乗って、この地に辿り着いたという逸話がある。
竜はともかく、初代国王は一代で、深い山中、強力な軍事力を誇る国を作り上げたというのは事実だ。
初代国王が娶った女性は、祈りの力で人々の病を癒すだけではなく、天候までも操ることが出来たそうだ。その女性すなわち初代王妃の御業を見た人々は、頭を深く垂れて崇めた。
聖女様と。
以来、王族の血を引く者の中から、聖女の力を持つ者が現れる。
ソファイアは、現リスタリオ国王の王女であり、その力は初代王妃に匹敵すると言われている。
ラントルはソファイアよりも一回り年齢は上である。
彼はソファイアの体術の師匠であり、父親代わりであり、絶対的な聖女の信奉者である。
ソファイアは聖女としてだけでなく、次期女王になる逸材だ。護衛も付くが、己のみでも敵を退ける力を欲した。
ラントルが教えて数年で、ソファイアの体捌きは彼を越えた。
聖女ソファイア様は天才だ!
ラントルは実の親である国王よりも、ソファイアを慈しみ育て上げた。
マキシウスが鉱山にやって来た時に、ソファイアが気にする男の力をラントルは見極めようとした。
つまらない男なら、その場で斬り捨てようと思っていた。
王太子でありながら、追放されるような体たらく。
腕利きの部下を数人混ぜて、鉱山の荒くれ野郎どもをけしかけた・
結果、ラントルの部下も含め、あっという間にマキシウスに叩きのめされた。
――コイツは、本物だ!
今回、マキシウスとソファイアが、フォレスター国の罠とも言える招待に乗った時、諜報活動を裏で取り仕切っていたラントルが、二人と共に姿を現わしたのは、ソファイアへの忠誠以上に、マキシウスの敵討ちを援助したかったからである。
そのラントル、マキシウスとソファイアが庭園から会場内へ戻った時には、王宮を囲むように部下を配置していた。ソファイアから伝授された「悪しきモノを縛る」術を展開するためだ。
「ラントル様、一人連絡がつきません」
「誰だ」
「王妃付メイドとなった者です」
「女か……。そやつ、輝石は持っているか?」
「はい」
一人足りないと術は不完全だ。
ここは自分が……。
ラントルが黙考していると、王宮から轟音が響く。
「爆発か!」
火薬の臭いはない。
むしろ、音としては山の崩落に近い。
ソファイアとマキシウスが気がかりなラントルである。
だが、ソファイアから託された六方向からの術も絶対必要だ。
どうする……どうする!
「ラントル様」
庭師として忍びこんでいた男が、ラントルに声をかける。
「すぐに、ソファイア様とマキシウス殿を追って下さい」
「だが……」
「弟を連れて来ています。僭越ながら、我が弟も術の行使が可能です」
「そうか! 任せる」
すぐさまラントルは建物の中に消えた。
庭師役の男は、控えていた弟を伴い、ソファイアの術を六方向から起動させるために精神を研ぎ澄ました。
裏ではこんなことが起こっていました。




