表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄宣言は没落の扉。嵌められた元王太子は華麗に王宮に舞い戻る  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

夜会の事情

 トールオの立太を祝うパーティには、リスタリオ以外の国からの招待客もたくさんいた。

 客たちはそれぞれ祝いの品を持ち、トールオとその隣に立つロゼリアに挨拶をする。


「へえ、綺麗なお姉さんだね。新王太子の隣のひと。婚約者さんかな」

「綺麗? そうか?」


 ソファイアの囁きに、マキシウスは首を傾げる。

 女性の美醜基準がいま一つ、マキシウスには分からない。


 しかも、ロゼリアはキンキン響く声で、マキシウスを責め立てた女だ。

 それどころか、マキシウスとトールオを秤にかけて弟を選んだ。


 あの時の鬼女のような目つきを思い出すと、今でもマキシウスはげんなりする。

 できれば本日も、顔を合わせたくないのだが。


「ところでソフィ。他の客は皆、何か品物を渡しているが、何か贈答品を持ってきたのか?」

「ああ、お祝いは予定してる。ま、品物じゃないけど」

「そうか」

「協力してね、兄さん」

「?」


「次の方は、リスタリオ国第一王女、ソファイア殿下とその婚約者の方です」


 宰相がトールオに伝えると、トールオの目がすうっと細くなる。

 ソファイアはヴェールを脱ぎ、綺麗な淑女の礼を執る。


「豊かな実りに恵まれていた、フォレスター国の時期陽光、王太子殿下と殿下妃となられるお二方様へ、我がリスタリオ国からのお祝いを捧げます」


「ほお、それは有り難いことです」


 相変わらず、感情を隠すのがトールオは上手いとマキシウスは思う。

 瞳の奥には、熾火がチロチロと蠢いているようだが。


 控えていたラントルは、マキシウスに剣を渡す。

 気色ばむ護衛騎士にソファイアは、「芸事用の刃を潰してあるものです」と微笑む。


 常日頃、子猿のようなソファイアが、妖艶とも言える笑みを浮かべたことにマキシウスの鼓動が騒ぐ。


 ソファイアは、マキシウスの心中を知ってか知らずか、彼の耳元に囁いた。


「あたしの動きに適当に合わせて、空中を切って」


 切る?

 空中を?


「この王宮内の澱んだ空気を、切り裂いてね、マキ兄さん」


 甲高い笛の音が広間に響いた。

 ラントルが横笛を吹き始めたのだ。

 いろいろ器用な男だ。


 タ――ン!


 マキシウスの肩よりも高く跳び上がったソファイアは、身に纏うドレスの裾を持ち、会場の中央で踊り始める。


 ソファイアは、薄紅色のショールを手首に巻き、生き物のように動かす。

 ショールがくるくると動く度に、会場内にはキラキラと何かが降りてくる。


 マキシウスはソファイアの動きにしばし見惚れたが、笛の音が変わったところで、剣を抜いた。

 豪華な装飾が施された剣をマキシウスが天にかざすと、会場からため息が漏れる。

 ほとんどの参加者が初めて見る、リスタリオの舞踊が始まった。


 ソファイアの眼差しに合わせ、マキシウスは剣を揮う。

 会場に巣食う闇を、端から切っていくように。


 ひと際高い笛が鳴ると、ソファイアはマキシウスの胸に飛び込んだ。

 二人の胸は同じ様に速くなっている。


「さすがマキ兄さん、良かった。だいぶ祓えたよ」

「お前の踊りも、その、き、綺麗だった」


 抱き合う二人の姿に、会場からは一斉に拍手が沸いた。


 トールオもロゼリアも、拍手をしている。


「素晴らしい。殿下と未来の王配殿に、感謝いたします」


 トールオは、意味ありげな視線をマキシウスに向ける。


「できれば、お美しいお顔を、拝見したいものですね」


「せっかくですが、わが国のしきたりなので」


 ソファイアはしれっと答えた。


 その後も諸外国の招待客と、フォレスター国内の貴族らの挨拶が続き、酒が振る舞われた。


 グラスを手に、マキシウスは壇上を見る。

 国王と王妃が不在のまま、パーティは進んでいる。

 何か、あったのか。

 それとも、今宵はトールオに全て任せるのか。


「リスタリオの王女殿下。ご挨拶してよろしいか?」


 ソファイアは笑顔で答える。

 声の主を知っているマキシウスは、緊張する。


「わたしはネロス。近衛騎士団の元団長」

「お目にかかることが出来まして、光栄ですわ。ネロス、公爵様」


「さすがによくご存知であるな。リスタリオの聖女殿」

「ふふ。恐縮です」


「先ほどの剣舞、見事であった。……時に、殿下の婚約者殿よ、わたしは貴殿の剣筋を、何処かで拝見している気がするのだが」


 マキシウスは顔を上げる。

 ネロスは嘗てのマキシウスの剣術師匠。誤魔化せないものだ。


「少しばかり、話が出来るだろうか」


 ネロスは二人を、バルコニーに誘った。

 夜空には、月が昇っていた。

王妃は何処へ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ