儀式の事情
マキシウスとソファイアは、儀式の際、リスタリオの正装の一つ、薄衣のヴェールを頭から被り儀式に向かうことにした。
念のため、マキシウスは金色の髪を、ソファイアと同じ黒に染めた。
「くれぐれもお気をつけ下さい。王宮内に待機している配下の者もおりますが、何分、マルティア王妃の動静を掴み切っておりません」
僧服を着た男が、綺麗な細工の付いた、細長い金具をマキシウスに渡す。
「これは……」
「刻みタバコを吸うためのもの、キセルというものです」
「俺はタバコ喫わないが……」
僧服の男は、タバコを入れる小皿の辺りを引っ張る。
すると、皿が外れた管の先には、細い刃が出現した。
「王宮内では、帯剣不可にもなりますゆえ、護身具は必要でしょう」
マキシウスが刃の先に親指を軽く当てると、痛みなく血が滲んだ。
「かたじけない」
懐にキセルをしまったマキシウスは、ソファイアに訊く。
「お前は、大丈夫なのか? 護身用に、何か持たなくても」
「うん」
朗らかにソファイアは答えた。
「攻撃は最大の防御って言うけど、極めた防御は最強の武器だから」
「そうか」
ほっとするマキシウスに、僧服の男が囁いた。
「お二人は婚約者として出席されますので、マキシウス様は、ソファイア殿下のエスコートを、しっかりとやってください」
「はあ……」
エスコートの機会は、王太子だった時に何度かあったが、鉱山生活で忘れかけていた。
そっとソファイアの腰に手を回し、マキシウスは自分の方へと引き寄せる。
「こんなもんか?」
マキシウスの顔がソファイアに近付くと、ソファイアは「ぎゃっ!」と声を上げ、マキシウスを突き飛ばした。
二人の様子を見た僧服の男は、目を閉じ頭を振った。
リスタリオ国の紋章が付いた馬車で、マキシウスとソファイアは登城した。
僧服の男も、正装に着替え同行している。
装飾扉から儀式の間に案内される。
会場は、既に八割がた埋まっていた。
儀式の間に入る前に、腰に差していた剣を預けた。
僧服の男の事前の指示は、的確だった。
ふと、自分の時の儀式はどうだったかと、マキシウスは思う。
あの時は神殿で、国内外の王族や貴族が適当に参加していたような気がする。
儀式は司祭がマキシウスの頭に、水をぱらっとかけて終わった。
マキシウスが低年齢だった為か、儀式後のパーティもなかったはずだ。
「懐かしい?」
座席に案内されたソファイアが上目使いでマキシウスに訊く。
玉座が見える。
間もなく国王がやって来るのだ。
「いや」
「本当なら、兄さんが……」
マキシウスの頬が緩む。
「アイツの方が、トールオ第二王子の方が向いてるさ」
会場の前方に並んでいる、楽隊が一斉に金管楽器を吹く。
「第二王子入場!」
左端からトールオが姿を現わした。
王族としての正装が眩しいほどだ。
さすがに緊張した表情だ。
会場に座す招待客が、一斉に頭を下げる。
国王が玉座に就いた。
やや遅れて、王妃マルティアが国王の横に座った。
「第二王子トールオ」
「はっ」
トールオは玉座に向かって進む。
「第七十三代、王太子に命ず」
「謹んで承ります」
国王は王妃から渡された王冠を、トールオの頭に乗せる。
「うっ!」
ソファイアが、小さな悲鳴を上げそうになる。
「どうした……」
小声でマキシウスが訪ねると、ソファイアは蒼ざめた顔で囁いた。
「王冠……あれだ。あれに呪いがかかって……」
ソファイアの声が届きでもしたのだろうか。
玉座の前のトールオは、すぐに王冠を外し、王妃に返す。
「こちらは、このあとの祝賀会にて、着けさせていただきます」
「そうか、そうだな……」
国王は、第二王子の振る舞いを咎めることなく、胸の飾りを取る。
「では、次期国王となる息子への餞を渡そう」
国王自ら、トールオの胸に、きらりと光る飾りを付けた。
王妃はきつい目でトールを見ていた。
ソファイアは小さくため息を吐いた。
彼女の冷たくなった指先を、マキシウスはずっと握っていた。
次話、ようやく夜会です。
何が起こるのでしょう……。
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