82.引越し先を決めてみました。
もたもたしていたらまた人間が来そうだ。
早くここから移動を始めた方が良さそうか。
ただ、引越しするとしても、引越し先をどこにするかが問題だよな。
俺、この世界の地理に疎いし。
どこに行けば分からないから、場所はみんなに決めてもらおうか。
まずブルールから。
『ブルール、人間があまり来なさそうな隠れ家に最適な場所って分かるか?』
『人間が来ないといえば、やはり最北の大陸、ゴワン大陸だろうな』
『そうなのか。でも最北という位だし、寒いんじゃないか?』
『ああ。とても寒いらしいぞ。だからこそ人間も近寄らないんだ』
ブルール……
人間が来ないのはいいが、それだと寒すぎて俺達も暮らしていけないだろ。
もっと暮らしやすい温度の所がいいんだけどな。
次はグリザーに聞いてみよう。
『グリザー、お前はどこが最適だと思う?』
『そうだな……拙者が知る限りでは、南の大陸、サワン大陸の中央部なら人は立ち寄らないだろう』
『へえ。どうして人が立ち入らないんだ?』
『それはだな……その一帯が砂漠になっていて、植物さえほとんど生えない不毛の地だからだ』
砂漠……
うーん、それだと食料に困りそうなんだよな。
フワンタクサ草が生えていればまだ何とかなりそうなんだが。
ブルールの案よりは可能性はありそうだが、これもちょっとな……
となると、残るはケロマだけか。
うわぁ、期待できねぇー。
一応聞いてみるけどさ。
もっとひどいこと言ってくるんだろうな、きっと。
『ケロマ、お前の考えを聞かせてくれ』
「うーん、そうね……フワン大陸の南西部の熱帯森林地帯なんてどうかしら?」
あれ?
何かまともなことを言っている気がする。
熱帯雨林という位だからちょっと暑くてジメジメしていそうだが……
でもブルールやグリザーの案よりは現実的に思えるな。
もうちょっと詳しく聞いてみるか。
『その場所はどうして人が来ないんだ?』
「それはね……とても暮らしにくいからよ」
『暮らしにくい……? それはどういうことだ?』
「とにかくむし暑いらしいの。湿度も高くて、温度も高いんだって。それに野生の魔物が多数生息するから危険らしいわよ」
湿度も高くて、温度も高いか。
やはり熱帯雨林の生えるだけのことはありそうだ。
でもそれは我慢すればいい話だろ?
あの日本のジメジメして不快な夏に慣れた俺なら耐えられるかもしれない。
自慢じゃないが、貧乏時代は扇風機さえつけずに暑い夏を乗り切ったこともあるからな。
人間、やればできるものだ。
今の俺は人間じゃないけどさ。
とにかく、温度や湿度は何とかなるとして、問題は魔物だよな。
どれ位の強さの魔物なんだろうな?
ウルフ程度の強さなら全然余裕だが、荒野地帯にいるような魔物、ワイバーンクラスになると歯がたたないぞ。
『ケロマ、その辺りの魔物の強さってどれ位なのか分かるか?』
「そうね……大体Bクラス位かしらね。今のブルールちゃんより少し強い位かしら」
『結構辛そうだな……でも逆にいればそれ位の強さがあれば何とかなるんだな?』
「絶対とは言えないけどね。Bクラス位のギルドの人がそこで死んだという話は聞いたことないから。まあ、そもそもそこに依頼なんて滅多にないし、あったとしても受けるひとはほとんどいないけどね」
……まあ、そうだよな。
頻繁にギルドに依頼が来るような場所だったら、人が来るということになるし、俺達にとっては良くないもんな。
多少の情報不足は仕方がないか。
これでみんなの意見は出揃ったな。
果たしてどこにすればいいのか……
『みんな、合計で三カ所、候補地を言ってもらった訳だが、どこがいいと思う?』
『……まあ、決まっているだろうな』
『そうだろう。実際に唯一行けそうなのは』
「私の案、熱帯雨林地帯ね」
まあ、そうなるよな。
俺も薄々気づいてた。
ちょっと不快で危険かもしれないが、他の二つの案よりかはマシだもんな。
消去法で自然とケロマの案が残るだろう。
出会ったばかりのケロマを信用してもいいのかということもあるが、こればかりは信用するしかないだろうな。
信用しないとした所で、砂漠地帯に行くのかという話になるしさ。
もし熱帯雨林地帯に住むのが厳しそうなら、それから砂漠地帯に向かえばいいだろう。
「でも実際に行けそうなのが」とグリザーは言ったよな。
となると、他の場所は行けないのか?
その辺りも聞いてみるか。
『グリザー、お前が言ったサワン大陸には実際に行けそうにないのか?』
『ああ。フワン大陸とサワン大陸の間には海が広がっていて、そこを渡らなければならない。拙者達にはそれを渡る手段はないだろう?』
『船とかが必要になるということか?』
『そうだ。でも船は人間が持っている物。だから大陸間を移動するのは基本的には人間だけだ。人間と交流のある拙者の同胞は例外的に大陸間を移動する者もいるが』
そういうことか。
広大な海を渡るにはそれなりの乗り物が必要だよな。
小さい船程度じゃとても太刀打ちできないだろう。
だから荒波にも耐える立派な船を作り、それで海を渡るしかないんだろうな。
もしケロマの案が駄目だったら、そういうことも考えないといけないか。
まあ、それはそのとき考えればいいだろう。
ともかく俺達の目的地は決まった。
後はそこに向かうだけだな。
『では、その熱帯雨林地帯に今から向かおうと思うんだが、みんな準備はいいか?』
『ああ、大丈夫だ』
『拙者も問題ない』
「え、ええ!? ちょっと待って、今から急いで準備してくるから!」
そう言ってケロマはポテチがあった辺りの袋に近寄り、ガサゴソし始めた。
やっぱりあの辺りの荷物はケロマのものだったのか。
結構な量があるけど、まさか全部持っていく気か?
絶対持ちきれないと思うんだけどな……
しばらく待つこと、数十分。
「お待たせ、準備できたよ!」
そう言って俺達の前に現れたケロマは普通サイズのリュックサックを持っていた。
あれ?
もっと大きな荷物を持っていこうとしていると思ったんだが、意外だな。
まあその方が旅に向いていていいとは思うんだけどさ。
『そんなものでいいのか?』
「うん。大丈夫。お金はある程度あるし、いざとなったら町で買い足せばいいからね」
なるほど。
食料を大量に持ち込まなくても、町で買えばいい、か。
確かにそれが普通なんだよな。
人間にとってはさ。
俺は魔物だからそんなことはできないけど。
これで大体の準備は大丈夫そうだ。
さて、後はあの道具をケロマに渡しておかないとな。
『ケロマ、これを腕につけてみてくれ』
「え? これ、私にくれるの? まさか、プロポーズ!?」
『な、なんでそうなるんだよ!? 俺とお前じゃそもそも種族が違うだろ! 冗談言っていないで早く着けてみろよ!』
「わ、分かったわ……」
ケロマは何だか不満そうな顔をしながら例の腕輪を身につける。
すると、ケロマの姿が透明になった。
まあ【命名者】や【被命名者】の関係にある俺達にとっては、透明になっても姿を認識できる訳だが。
そう、ケロマに渡したのはインビジブルブレスレットだ。
俺達と一緒に旅をする以上、ケロマにも着けてもらわないと困るからな。
俺達三人が透明化していてケロマだけ姿が見えていたら不自然だしさ。
特にケロマは人間の中では戦闘しない人という扱いになっているから戦っているのを見られたくないだろうし。
あって困ることはないだろう。
ちなみにこのインビジブルブレスレットはケロマが荷物の整理に気をとられている間にこっそり作っておきました。
「つけたけど、何か意味があるの?」
『これをつけると自分の体や身につけているものが透明化するんだ。自分だと実感できないかもしれないけどな』
「そ、そうなんだ……透明化する道具なんて聞いたことがないんだけど、どうやって手にいれたの?」
まあ普通疑問に思うよな。
さて、どう説明したものか……
嘘をついて後々バレると気まずいのは分かっている。
でもケロマにも本当のことを話してもいいのか?
……まあ一応仲間になった訳だし、隠し事は良くないか。
仕方ない、話そう。
ケロマも自分のスキルの秘密を話してくれたしな。
口が軽そうなのがとても怖いが。




