79.自己紹介をしてもらいました。
「なあ、さっきの話だが……お前と一緒に暮らすのは厳しそうだ」
「えー、なんでよ!? こんな美少女と一緒に暮らしたくないなんて、ゴブリンさんあり得ないよー!?」
「すまないな。お前が俺と一緒に過ごしているウルフとリザードマンと上手くやっていける気がしないんでな」
「うーん、確かに危ないよね。でもさ、襲われそうになったらゴブリンさんが守ってくれるんでしょ? だから大丈夫だよ!」
え?
なんで俺がコイツを守ることになってるの?
意味分からないんだけど。
そもそも、どうして会ったばかり、しかも魔物の俺をそこまで信頼できるんだよ?
おかしいだろ。
「俺、ただのゴブリンだぞ? お前を守る余裕がある訳なんてないだろ」
「えー、そんなぁ。そ、それでも、私、何とかオオカミさんやトカゲさんとも上手くやっていくからきっと大丈夫だよ!」
「言葉も通じないのに?」
「うっ……そ、それはきっと何とかなるもん。なんだったら【念話】の本をもう一回読んでみてもいいよ!」
【念話】の本を読もうとしても結局三ページで諦めてしまうんだろ……
それじゃ意味ないじゃないか。
別に努力するしないじゃなくて、【念話】を使えるかどうかにしか意味ないんだしさ。
例えばコイツが頑張って【念話】をもし使えるようにしたとする。
そうなったとしても、正直コイツがブルールやグリザーと馴染める気がしないんだよな。
性格からしてもだいぶ違うし。
【念話】を使えない今はさらに意思疎通も困難な訳だし、尚更だ。
俺はブルールやグリザーが人間と一緒に暮らすのは無理だと思うのだが、本人はどう思っているんだろうな?
一応聞くだけ聞いてみるか。
『ブルール、グリザー。この人間、俺達と一緒に暮らしたいらしいけど、どうする?』
俺の言葉を聞いたブルールとグリザーは悩ましい顔をする。
ブルールとグリザーにとっての人間は見ず知らずの相手。
そう簡単に信頼なんてできるわけがない。
しかも相手は人間で、言葉も通じない。
そんな相手をどうやって受け入れたらいいんだって話だよな。
当然断るに決まって……
『そうだな……答える前に聞きたいんだが、カンガはどうしたいと思っているんだ?』
ん?
なんでそんな事を聞くんだ?
嫌なら嫌って言ってくれればいいのに。
『どうしてそんなことを聞くんだ、ブルール?』
『人間と話せるのはカンガだけだ。だからカンガがこの人間は信用に値するか判断すればいい。それにそもそもオレはカンガに勝手についてきた身だ。カンガが人間を受け入れたいというのなら、それを拒むことはできないさ』
えっ、判断を俺に委ねちゃっていいの?
俺、そんな人を見極める力なんてねえよ?
そんな責任、とれないぞ?
ちなみにグリザーはどう思っているんだろうか。
もちろん、断るに決まってるよな?
『グリザーはどう思っている?』
『拙者もカンガ殿に任せようと思う。この人間が力になってくれそうだから受け入れるのもよし。信用できないから拒むのも自由だ』
……グリザーも俺に任せると言うのかよ。
はぁ……参ったな。
こんな大事な事、俺が決めなくちゃいけないのか……。
俺自身はコイツを一体どうしたいんだろうな?
あまり考えてなかったわ。
もしコイツを受け入れた場合、メリットも意外と大きい。
まず何と言ってもポテチの存在だ。
ポテチは恐らくこの人間の女が作ったものだろう。
異世界でそのままポテチが売られているとは考えにくいからな。
コイツと一緒にいることができるのなら、ポテチが食える。
ブルールは喜びそうだよな。
あとは人間と遭遇したときに交渉がしやすくなることもある。
やはり魔物の俺達では人間と遭遇したら、警戒されるし、問答無用で戦いになる可能性もあるだろう。
それがもしコイツが一緒にいれば、コイツの交渉次第で戦いを避けることができるかもしれない。
コイツがそううまく交渉できればの話にはなってしまうけどさ。
デメリットは先ほども考えた通り、俺達の関係がうまくいかなくなってしまう可能性が高いことだ。
俺と人間の女は……まあ、言葉が通じるからいいとする。
問題はブルールとグリザーだよな。
一応ブルールは人間と意思疎通できる可能性はあるのか。
ブルールが意思を【念話】で伝え、人間はこの世界の言葉でブルールに返事をすればいいんだもんな。
ブルールは完全にこの世界の人間の言葉を理解している訳ではないが、それでもだいぶ大きいだろう。
問題はグリザーだな。
グリザーはこの世界の人間の言葉を理解しているんだろうか?
そういえば聞いていなかったな。
聞いてみるとするか。
『そういえばグリザー、お前ってこの世界の人間の言葉が分かったりするのか?』
『ああ、分かるぞ。拙者の種族は時々人間と交易をしたりするからな。片言にはなるかもしれないが、話すこともできるぞ』
おっ、そうなのか。
となると、意外と人間との意思疎通ができなくもないのか……?
でも、もし意思疎通ができたとしても、性格的に合わなければ一緒には暮らせないよな。
よし、ここは試しに会話をしてもらうとしよう。
「なあ、お前、この世界の人間の言葉を話せるといったよな? 試しにその言葉でそこのウルフとリザードマンに話しかけてくれないか?」
「えっ? トカゲさんはともかく、オオカミさんも言葉が分かるの?」
「完全とはいえないが、ある程度はな。その二人と話して、それなりに仲良くやっていけそうだったら一緒にいてもいいぞ」
「分かった。私、頑張るね!」
そう言った人間はブルールとグリザーに近づいて行った。
「オオカミさん、トカゲさん、はじめまして。私、これからお世話になります、人間です」
『あ、ああ……オレはブルールという。よろしくな』
『拙者はグリザーと申す。何かあったら頼るとよい』
「あ……お二人とも名前があるんですね! すごい! ブルールちゃんとグリザーさんと呼んでもいいですか!?」
『ブルールちゃ……あ、ああ別に……構わないぞ?』
『グリザーさん……悪くない』
ブルールは何だか戸惑っているようだ。
まさかのちゃん付けだもんな。
そりゃ戸惑うか。
『お前は人間なんだし、名前があるんだろ? 名前を教えてくれないか?』
「え、えっと……うーん……」
名前を聞かれた人間はうなっている。
えっ、そこ悩むとこなの!?
別に普通に答えればいいだろ、普通にさ!
しばらくその場でうなってから、人間は何故か俺の所にやってきた。
「ね、ねえ、ゴブリンさん。ゴブリンさんって【命名者】だから、名前付けられるんだよね? 私にも名前を付けてよ!」
え、ええ!?
なんで俺がコイツの名前を決めないといけないんだよ!?
名前がない魔物ならともかく、コイツには元々名前があるんだろ?
改名でもするつもりなのか?
「お前、元々名前があるんだろ? なのに何故……?」
「確かに名前はあるよ? でもあんまりその名前、好きじゃないのよね……」
「好きじゃない? どういうことだ?」
「呼ばれるとなんかバカにされているような、嫌な名前なのよ。だから名前を変えたいんだけど……」
呼ばれるとバカにされている名前って何なんだ?
想像がつかないんだが。
「ちなみに何て名前なんだ? 言ってみろよ」
「……絶対笑わずにバカにしないって、約束してくれる?」
「あ、ああ。約束する」
「それじゃあ……言うよ」
ごくり。
バカにしたくなるような名前って何なんだよ?
ますます訳が分からないぞ。
「……アホーナ」
あ……アホ?
う、うん。
確かに呼ばれたくない名前だわ。
言わせてごめんな。
「一応アホーという地元の綺麗な花から付けられたみたいなんだけどね。でもアホはアホじゃない? だから嫌なのよ」
「そ、そうか……」
「だから……命名をお願いできないかしら?」
コイツの気持ちも確かに分かる。
アホなんて言われたくないもんな。
でもだったら前世の名前を使うとかはできないのか?
俺は前世の名前を覚えていなかったから無理だったけどさ。
「前世の名前を使えばいいんじゃないか?」
「……私、前世の名前は覚えていないの。この世界に生まれたときに忘れちゃったみたい」
「そ、そうなのか……だったら自分で名前を付ければいいんじゃないか?」
「そんな事ができたら苦労しないよ。一度【被命名者】になった人は【命名者】にはなれないもん。この世界で名前は【命名者】からつけてもらうしかないんだから」
「そ、そうなのか……」
【命名者】しか名前を付けられない?
ということは、人間はどうやって名前をつけているんだろうな?
名前をつける特定の役職の人につけてもらったりするんだろうか?
まあそんなことを知ってもあんまり意味ないけど。
それにしても、既に名前を持っている奴に名前を付け直すことなんて可能なんだろうか?
とにかくやってみるしかない訳だが。




