71.これからどうするか選択をしてみました。
カンガ視点に戻ります。
緑のリザードマンが出て行ってからしばらく待つ俺達。
だがなかなか戻ってはこないようだった。
調理室の片付けを終えた俺は、ブルールと一緒にエントランスの椅子に腰かけていた。
『なあ、カンガ。この隙にここから逃げるということも出来るんじゃないか?』
まあ、逃げようと思えば逃げられるのかもしれないな。
警報が鳴っていたからリザードマンはそちらの何かをすることに精一杯になっている可能性もあるし。
でも俺は逃げない方が良いと思っている。
ここで逃げたらあのリザードマンに悪いし、何より俺の短剣を取り戻しにくくなってしまう。
蒼水晶は諦めるとしても、短剣を取り戻さずに帰ることだけは避けたい。
どんな風に使われるか分かったもんじゃないからな。
『いや、ここで待っていよう。短剣の件もあるし、下手に不審に思われる行動はしない方がいい』
『そっか、分かった。カンガがそうしたいならそうするか』
待つことに決めた俺達はその場でさらに十分程待った。
すると緑のリザードマンが慌てた様子で宿屋の中に入ってきた。
『お、戻ってきたのか』
『ハァ……ハァ……ゴブリン殿、ウルフ殿……伝えたいことがある』
『伝えたいこと? 聞かせてくれ』
警報が鳴ったと同時に出て行ったリザードマン。
そしてそのリザードマンが息を切らせながら戻ってきた。
あまり良い知らせでないことは確かだな。
多分警報の内容に関することだろうしさ。
『間もなく災厄がこの町に降りかかる。その前にお主達にはこの町から逃げてほしいのだ』
え?
それってどういう事だ?
確か町の外に出てはいけないってコイツ言ってたよな。
何で急に外に出てもよくなるんだ?
許可でも下りたんだろうか?
『お前、確か以前に町から出てはいけないと俺達に言わなかったか?』
『ああ、その通りだ。種族としての決定はその認識で間違いない。だが、拙者はお主達に生き延びてほしいのだ。お主達はまだ若い。ここで死ぬには惜しすぎる』
『ということは、リザードマンという種族に逆らえと言うのか?』
『……そうなってしまうな。だが、今逃げてしまえば恐らくお主達に追手はいかないだろうし、逃げ切れる可能性が高いのだ』
リザードマンに逆らってでも逃げろという緑のリザードマン。
それほど緊迫した状況ということなのか。
このままここで待っているだけでは危ないほどのことが起ころうとしているんだろうな。
そして恐らくその原因は……
『もしかして、例の魔物が……』
『ああ。病魔のヒラメが間もなくこの町に襲い掛かろうとしている。恐らく総力戦になるだろう。故にカンガ殿が逃げた所でそれを追う余裕は拙者達にはない。そういうことだ』
病魔のヒラメ。
一度かかったら死ぬ病をもたらす。
しかも脅威の再生力で倒すことが困難。
そんな奴を相手にリザードマン一丸となって挑もうとしているのか。
ということはコイツも……
『お前もそのヒラメと戦うのか?』
『ああ、もちろんだ。カンガ殿には言っていなかったかもしれんが、拙者はリザードマン軍の隊長を務めておる。隊長が尻尾を巻いて逃げてどうするという話だろう?』
リザードマンにとって戦いは避けられない問題。
逃げだしたら故郷が破壊されてしまうんだから当然だよな。
勝つことが厳しいと分かっていても、逃げ出す訳にはいかないんだろう。
特に兵士を束ねる隊長クラスのコイツなら尚更だ。
逃げ出したくても逃げ出せない。
辛いだろうな……
『お主達と出会えて楽しかった。では、拙者は町の東部で戦いに挑んでくる。お主達はその反対側の西部から町を抜け出すと良いだろう。それでは、な』
寂しげな表情をしたままリザードマンは宿屋から出て行った。
こんな短い時間しか話せないほど切羽詰まった状況なんだろうな。
俺達も急いで行動した方が良さそうだ。
だが俺達はどう行動すればいい?
緑のリザードマンが言うように逃げた方がいいのか?
そうすると短剣の件はどうなる?
それに恩があるアイツを見殺しにしてしまっていいんだろうか?
でもだからといって、助けに行こうとした所で俺に何が出来るかって話だよな。
リザードマンと違って強力な魔法は使えないしさ。
ヒラメを倒し切るほどの強力な攻撃手段を俺は持ち合わせてないからな。
最悪足手まといにもなりかねない。
さて、どうしたものか……
『ブルール、俺達はどうしたらいいと思う?』
『うーん、難しい問題だよな。とにかく外に出て状況を見てみるか?』
『ああ、そうするとするか』
俺達はとりあえず外に出てみることにした。
外に出ると遠くに多くのリザードマンの兵士らしき人がどこかへ向かっていくのが見えた。
多分そいつらが向かっている方向が町の東部なんだろうな。
リザードマンが向かう方向に向かってリザードマンを手助けするか。
それとも逆側に向かって逃げ出すか。
うーん、やっぱり悩むな。
とにかく、どちらの選択をするにしろ、姿が見える状態で行動をしたくないよな。
インビジブルブレスレットを起動させよう。
今ならリザードマンに見られない所でそれを作動させることが出来るからな。
ヒラメに襲われているときは泥がついていて作動できなかった。
だが今なら水で洗い流されているから使うことができる。
ちなみにインビジブルブレスレットは付け外しをしなくてもオンオフの切替ができることが分かった。
インビジブルブレスレットを強く三回押し込むと、オンオフの切替ができるのだ。
もっと早く気付ければ良かったな。
建物の陰に隠れてからインビジブルブレスレットを作動させた俺達。
さて次の行動はどうするか。
今の俺達は姿が見えない。
それはリザードマンだけでなく、恐らくヒラメの目にも見えないだろう。
それなら案外ヒラメの所に行っても脅威はないんじゃないか?
このまま逃げ出すのは正直どうかと思っている。
緑のリザードマンの安否が気になるし、何だか悪い気がするんだよな。
短剣の件も諦めることになるし、あまり良くない気がするのだ。
でもだからといって戦いに堂々と参加するのも良くないよな。
緑のリザードマンによれば、リザードマン全体からすると、俺達はあまり歓迎されていないらしい。
そんな俺達が戦いに参加しようとしても不信感を煽るだけだろう。
下手するとかくまってくれた緑のリザードマンに更なる迷惑をかけてしまう可能性がある。
ではどうしたらよいのか。
そのどちらでもない選択をすれば良いのだ。
それは―――姿が見えない状態で戦場に向かうことだ。
表立ってリザードマンに協力することはしない。
でも万が一緑のリザードマンに命の危機が訪れるようであれば、助ける。
俺には加工で作ることができる壁、【水操作】のスキルがある。
攻撃を防御する位のことはできるだろう。
そうすれば緑のリザードマンへの恩返しもできるし、俺達の命の危険も少ない。
だからそうするのがベストなように思えるのだ。
ブルールと相談したら、ブルールもその方が良いと賛成してくれた。
こうして俺達はリザードマンの人混みから離れる形で町の東部へこっそり向かうことにした。




