65.怖面なリザードマンから話しかけられました。
あれから三日。
俺は出された食事を全て食べ、何とか体調を戻した。
しばらく胃に何も入っていなかったからか、初日は思うように食べることができなかった。
少しずつ食べていき、かなりの時間をかけて何とか完食をすることができた。
苦しみながらも食べきることができたのは頑丈な魔物の体だからできたんだろうか?
人間だとこうはいかないもんな。
ほんの少量の食べ物だって受けつけないかもしれない。
実際前世の俺がそういう状態になったことがないから詳しくは分からないけどな。
まあ、問題なく食事をとれるという点では魔物の体に感謝だな。
ちなみにリザードマンの世界の食事は魚料理がメインだった。
この世界でも白身魚は癖がなく食べやすいらしい。
その他に出された食事にも特に変な味がするものがないから食べるには問題なかった。
さて、体調も戻したし、行動を開始するとしますか。
とりあえずは防具を身につける所からだな。
安全は大事だ。
ちなみに俺は起きてすぐに防具をつけようとはしたが、ブルールによればその必要がないとのこと。
まあ、確かにこの宿屋が防具つけないといけない危ない場所だったら、俺が寝込んでいる間に殺されているよな。
50日も寝ていられる場所なんだから安全なのは折り紙付きといった所だろう。
だから外に出るときだけ防具をつければ十分らしい。
外もそれほど危険はないそうだけどな。
俺はブルールに案内され、とある部屋にたどり着く。
その部屋は十畳ほどの空間で、何やら入れ物みたいなものがズラッと並んでいる。
左側には木箱が、右側には木製のクローゼットみたいなものが並んでいる。
木箱の中の一つには俺のバッグが入っていた。
中の道具も無事で、特に荒らされた形跡もなかった。
一つ位なくなってもおかしくないとは思っていたんだけどな。
リザードマンの住処って結構治安がいいんだな。
ちなみにクローゼットの中には俺の防具が入っていた。
服、靴、手袋、帽子。
うん、あるな。
インビジブルブレスレットもしっかりとしまわれていたし。
てっきり伝説の道具とかいう位だから盗られてしまうと思っていたんだけど。
案外盗られないもんなんだな。
まあ伝説のものだから逆に価値が理解されないのかもしれないけどさ。
インビジブルブレスレットはまだ一部に泥がこびりついているみたいだ。
後で洗い流しておかないとな。
泥が付着していると効力がでないみたいだし。
大切に扱うことにしよう。
となると、盗られたものはアダマンダガー位だな。
バッグの中身、防具も無事だったし。
武器以外無事だったのはいいが、その武器が盗られたというのが一番の問題なんだよな。
何とかして奪還できないものだろうか。
まあそのことはゆっくり考えていけばいいだろう。
今すぐ焦って行動してどうにかなる問題じゃないしな。
装備を整えた俺はその部屋から退出した。
そのまま移動し、ブルールと一緒に建物から出ようとする。
宿屋のエントランスに入った所でとあるリザードマンから声をかけられることになった。
「+*‘=^*>+?<」
俺に声をかけてきたのは宿屋の案内係みたいな役割がありそうなリザードマンだった。
だが何言っているのか全く分からない。
恐らくリザードマン語みたいな言葉があるんだろうな。
この世界の人間の言葉とも違うみたいだし。
言語が分からないって本当不便だよな。
でもその話しかけてきたリザードマンの様子を見ると、どうやらどこかを指しているように見える。
その指している方向を見てみると、一人の緑のリザードマンが椅子に座っていた。
そのリザードマンが俺達のことをジロジロと見てくる。
結構頑丈でがっちりした体をしている上、怖面な顔をしているので、そんな奴ににらまれ続けるのはすごく怖い。
触らぬ神に祟りなしだ。
関わらないようにしよっと。
俺とブルールは緑のリザードマンの横を素通りして宿屋から出ようとするのだが……
『そこの者達、待たれよ』
ひっ!?
声かけてきたぞ、コイツ。
相変わらず俺達をジロジロ見てきて怖いんですけど。
せめてもうちょっと優しい顔をしてほしいな。
まあニヤニヤされても逆に怖くなりそうだけどさ。
どうしても会話しなきゃ……ダメですか?
今すぐここから逃げ出したいんですけど。
でも逃げたらそのリザードマンの近くに置いてある槍で貫かれそうだよな。
本当に恐ろしい。
というかこの緑のリザードマン、【念話】を使えるのか。
だから俺でも言葉の意味が分かったんだな。
でもこんな奴と言葉が通じてもあんまり嬉しくないな。
むしろ嫌だわ。
だって言葉が通じないから話さないっていう逃げ道がなくなった訳だしさ。
もしかしたらリザードマンは俺が【念話】を使えることを知らない可能性もある。
だけど【念話】で話しかけられている時点でその可能性は薄いか。
変に不審に思われるのは避けたい。
はあ。
仕方ないから話しかけるか。
『何か俺達に用でもあるんでしょうか?』
『ああ、そうだ。やはりお主もそこのウルフ殿と同様、【念話】を使えるのだな。拙者の目に狂いはなかったか』
あー、完全に俺達目的か。
人違いだったら良かったのにな。
まあ宿屋から出て行こうとしているのは俺達だけだから間違いようもないんだけどさ。
万が一ということもあるだろ?
所詮、淡い期待に過ぎなかったが。
というか、このリザードマン、ブルールが【念話】を使えることを知っているだと?
話し方からそう読み取れるよな。
どういうことなのかブルールに聞いてみるか。
『ブルール、このリザードマンと知り合いなのか?』
『ああ。俺が目覚めてから、色々と情報を提供してくれたのがこの人なんだ。結構頼りになるぞ』
あ、そうだったんですか。
道理で言葉が通じないこの場所でもブルールが色んな情報を持っている訳だ。
光水球の情報とか、ここが湖の底であるということとかさ。
全部この緑のリザードマンから教わったことなんだろうな。
でもこの緑のリザードマン、どこかで見たことがあるような気がする。
どこで見たんだっけ?
うーん……
あ、そういえば、俺達に魔法を放ってきたリザードマンの中に緑の奴がいたな。
もしかしてこいつ、俺達を殺しかけた奴の一味か!?
だとしたら許せないよな。
しかも短剣まで盗っていくしよ。
一言言ってやらないと気がすまないな……。
『なあ、もしかして俺達に向かって竜巻の魔法を撃ってきた奴のうちの一人なのか?』
『そうだ。あのときはすまなかった』
『……わざとやったのか?』
『いや、そんなことは決してない。何かがヒラメにくっついていることは分かってはいた。でもそれが生物かどうかは確認できていなかった。分かっていれば別の手段を考えていたのだが……』
どうやら魔法を放ったときには俺達の存在をハッキリとは認識できていなかったらしい。
まあだからといって許す理由にはならないんだけど。
『大変なことをしてしまったことは分かっている。だからこそ、拙者はゴブリン殿やウルフ殿が宿屋に泊まれるよう手配をしておいた』
宿屋に泊まることができていたのはこのリザードマンのおかげなのか。
誰かが働きかけなければ宿屋にいるなんてあり得ないとは思っていたけどさ。
『カンガ、そういう事だ。このリザードマンのことは信用してもいいと思うぞ』
『え、でもそんな簡単に信用するなんて―――』
『実はこのリザードマンが説得してくれなければオレ達は殺されていたらしいんだ。だからオレ達の命の恩人だとも言える』
『殺されていただって? それってどういう意味なんだ?』
『その経緯は本人から直接聞いてみるといい』
緑のリザードマンがいなければ殺されていた。
それは一体どういう意味なのか。
やはり種族が違う強力な魔物は脅威になるから排除するとかそういう意味なんだろうか。
こんな厳つい奴に話しかけるのは気がひけるが、勇気を振り絞って事情を聞いてみることにしよう。
ゴブリン生活九十三日目終了。
現在九十四日目。
ステータス表示は全く変化がないので省略させて頂きます。




