59.俺の考察さんはやはりチートでした。
ワイバーンを倒し切ったからなのか、辺りの霧が晴れて見通しが良くなった。
ワイバーンって霧を出すスキルでも持っているんだろうか?
よく分からないけど。
その景色の変化を見て、ターニャ達三人はその場に座り込む。
安心して、どっと疲れを感じているんだろうな、きっと。
「あーなんとかなったね。本当に良かった」
「本当によかったわ。それもターニャのおかげよ、ありがとう」
「本当、その通りだ。ターニャ、ありがとな」
「えへへ、それほどでもないよ」
ターニャは若干照れているようだ。
危機を回避したことでとても安心した表情になっている。
さて、もうターニャ達の心配はいらなそうだな。
そろそろ先へ進むか。
ワイバーンはターニャ達が倒してくれたから、もう心配はいらなそうだしさ。
俺はターニャ達から目を離し、ブルールに乗って先に進もうとするのだが―――
「ちょっと待って!」
視線をそらして逆側を向いた瞬間、目の前にターニャの姿があった。
え?
なんでこんな所にターニャがいるの?
一応二十メートル位は離れていたと思うんだけど。
それにさっきまで談笑していたよね?
何が起きているの?
訳が分からないんですけど。
「お母さん、タロス! 私が助かったのはここにいるゴブリンさんとウルフさんのおかげなの!」
「ターニャ、何言ってるの? どこにもそんな魔物見当たらないわよ?」
「そうだぞ。寝ぼけてるんじゃないのか?」
ターニャの母親とタロスは走ってこちらの方へやってきた。
どうやら二人には俺達の姿が見えていないようだ。
いや、それが普通のはずなんだけどな。
【心眼】なんてチートスキルを持っているヤツがごろごろいたらたまったもんじゃない。
何のためのインビジブルブレスレットだって言いたくなる。
「ゴブリンさん、ウルフさん。お願いだから透明化の効果を外してくれないかしら?」
『え? でもそんなことしたら俺達殺されるんじゃないか? だって俺達、魔物だぞ?』
「この二人なら大丈夫。それにもし二人がそうしようとするなら私が守ってみせるから。ね?」
うーん、そこまで言われてしまうと断りにくいな……。
確かにターニャは他の二人よりもレベルが一段と高いから説得力があるんだよな。
下手にターニャを敵に回したくないし、ここはターニャの言う通りにしておくか。
俺は自分とブルールの分のインビジブルブレスレットを取り外すことにした。
すると俺達の姿が三人の前で明らかになる。
「わあ、急に魔物が現れたわよ!?」
「敵か!? ターニャ、下がってろ!」
二人とも俺達に向かって警戒心をむき出しにしている。
うん、普通こうなるよな。
「二人とも、話聞いていなかったの? このゴブリンさんとウルフさんに命を助けられたんだって言ってるじゃない!?」
「え? まさか本気で言っていたの?」
「てっきり寝ぼけて言ってるんだとばかり……」
「二人ともひどい! 私、寝ぼけてなんかいないわよ!」
ターニャの言葉を二人はずっと聞き流していたんだな。
だからターニャが必死に言っていることを二人は把握していなかったのか。
どんまい、ターニャ。
「でもあんな重度の呪いを一体どうやって……回復魔法でも治せないほどなのに」
ターニャの母親は不思議な物を見るような目で俺達のことを見てくる。
へえ。
状態異常の重さによって回復魔法で治せる治せないがあるのか。
知らなかったわ。
そんなこと関係なく治せる黄金の葉はやはりチートアイテムだな。
さすがは全ての悪い状態を正常に戻す効果があるというだけあるわ。
それはつまり、どんな重度の状態異常でも治してしまうということだもんな。
「ゴブリンさんが私にくれた金色に輝く葉っぱで一瞬にして治ったの。私もビックリしたわ」
「金色に輝く葉っぱって……まさか、黄金の葉!?」
「なにお母さん、その葉っぱのことを知っているの?」
ターニャの母親は驚きの表情を浮かべている。
なに?
そんなに黄金の葉ってすごいの?
確かに説明文には大層なこと書いてあったけどさ。
「伝説の道具だよ。実物を見た者はいないと言われている。まさか本当に存在するとはね。そんなものを使ったのなら、ターニャの呪いが一瞬にして治るのも理解できるわ」
「伝説の道具……そんなものをなぜこのゴブリンが持っている? ターニャ、知っているのか?」
「いえ、まだ何も聞いてないわ。聞こうとしても教えてくれなかったもの」
すると三人はじーっと俺達の方をにらんでくる。
そ、そんな表情をした所で俺の秘密を教えるつもりはないからな!
さっさと逃げようぜ、ブルール!
「ターニャ、聞かなくてもいいわ。【観察】を見て分かったわ。このゴブリン、ただ者じゃない」
え?
このターニャの母親って【観察】を使えるんだ。
まあブルールも使えるほどだから【観察】を使える人間がいた所で何の不思議もないけれど。
「このゴブリン、【調合】のレベルが26と非常に高いのよ。【調合】のレベルが10を超える人だって少ないのに26よ?」
え?
そうだったの?
【調合】とかのスキルって結構簡単にレベル上がったから、てっきりレベル10を超える人がごろごろいると思っていたんだけど。
「それに何より不思議なのはこのゴブリンの【考察】。私でさえレベルを把握できないの。それはつまり、一般的に言われるスキルのレベル30の上限を突破しているということ」
「え? スキルってレベル30が上限じゃなかったの?」
そうだよな。
俺が既にレベル最大になっているスキルは全部レベル30だしな。
俺もてっきりスキルのレベル上限は30だと思っていた。
違うのか?
「そう。大体のスキルはレベル30が上限になっている。でもごく稀に上限が30じゃないスキルがあるのも最近判明したのよ。【考察】がまさにその例ね」
「どうしてそんなことが分かったの?」
「賢者スーフォス。彼が【考察 lv31】を達成したのよ。そして彼を【観察】した者は誰一人、彼の【考察】の正確なスキルレベルを把握できなかった」
おおう。
何か賢者の話まで出てきちまったよ。
この世界に賢者とかいるんだな。
何か色んな魔法とか使えそうで強そうだよな、賢者って。
恐ろしいな。
「そっか。だから【観察】のスキルレベルが最大のお母さんでも見れないっていうことは……」
「そう。このゴブリンの【考察】はレベル30を超えてるって訳。恐ろしいわよね」
やっぱり俺の【考察】さんってすごかったんだな。
道理で使っても使ってもなかなかレベルが上がらなかった訳だ。
というか1レベルも上がってないんだけどさ。
俺の【考察】さんって一体何レベルなんだろうな?
気になるわ。
「【考察】のスキルレベルが高いと不思議な現象が起きるって聞いたことがあるかしら?」
「え、そんなの初めて聞いたわ。どういうこと、お母さん?」
「賢者スーフォスは【考察】のレベルも高いけれど、【調合】のレベルも高いのは知ってる?」
「うん、有名な話よね」
「そのスーフォスがあるとき、フワンタクサ草から回復薬を作り出すことに成功したの」
「え、フワンタクサ草から作っちゃったの!? それって革命じゃない!?」
「そうなのよ。そんなことができたらフワンタクサ草の価値が跳ね上がるわ。でもそんなことは簡単にできないらしく、成功したのは未だにその1回だけらしいわ」
「そっかー。それは残念」
え?
フワンタクサ草から回復薬って普通作れないものなの?
俺、普通に作ってますけど。
しかも回復薬どころじゃなくて黄金の葉とかも作れますよ。
ほとんど成功するしさ。
なんか俺の常識とターニャ達の常識が全然かけ離れているんですけど。
やっぱり【考察】さんってスゲーんだな。
「だから【考察】のレベルが高いとそういう不思議な現象が起きるの。【調合】と【考察】のレベルが高いゴブリン。そんなゴブリンが黄金の葉を持っていた。それが意味することは……分かるわよね?」
そのターニャの母親の言葉の後、三人は俺の方をまじまじと見てきた。
何?
俺、何も言ってないよね?
ただボーっと突っ立ってただけだよ?
何も悪い事なんてしてないからね?
しばらくすると、三人は急に表情を変えて、なんか俺に向かって土下座をし始めた。
へ?
何が起こっているの?
「ゴブリン様、いえ、あなた様はゴブリンの姿をした神様でいらっしゃるのですね!? とんだ無礼を申し訳ございません!」
「ただの魔物なんていう扱いをして申し訳なかった。どうか、お許しください!」
「私もなれなれしく話してしまってごめんなさい! 私、あなたの偉大さに気付かなかったもので……」
なんか大変なことになってるんだけど。
三人が俺をまるで神様みたいに崇め奉ってくるんだが。
一体どうなっているんだ?
「ただのゴブリンがそんな大層なスキルを持つわけがない。その段階でもっと早く気付くべきでした。私のバカ!」
「私も、透明化の道具を持っている時点で気づくべきだったわ。私のバカ!」
「ゴブリンがこんな山奥に来るなんて普通あり得ないもんな。その時点で気づくべきだった。おれのバカ!」
なんか自虐し始めたんですけど。
何か見ていて痛々しいからもう止めてくれないかな?
それに俺、神様みたいな大それた存在じゃないし。
ただのゴブリンの赤ん坊だからな、俺。
『なあ、ブルール。ブルールからも何か言ってくれないか?』
『………………』
え?
ブルール、何黙ってるの?
それに何ニヤニヤしているの?
何か嫌な予感しかしないんですけど……




