56.山頂の小屋の中に入ってみました。
ぜえぜえ……
はあはあ……
ブルールの荒い息だけが聞こえる。
それだけ辺りは静まり返っていた。
ブルールが何とか頑張ってくれたおかげで山頂付近まで無事にたどり着いたようだ。
ひとまず安心といった所か。
周辺に魔物もいないし、この辺りで小休止してもいいかもな。
『ブルール、お疲れ様。この辺りで食事休憩でもするか』
『おお、いいな! 是非そうしてくれると助かる!』
さっきまでの疲れが嘘のように声を弾ませるブルール。
やっぱりブルールの食欲は相変わらずだな、うん。
俺はいつもの通り【料理】を行った。
今日の料理はというと―――
{ 兎肉と野菜の煮込みを入手しました。 }
そう。
先程見かけたマウントラビットを使った料理だ。
ウサギって前世でも一部地域で食べられているらしいし、結構いい食材になりそうだもんな。
俺は食べたことがなかったけど。
ただちょっと不安なのが、マウントラビットが鉱石を食べるということだ。
もし消化しきれていない鉱石が料理に混ざったら大変なことになりそうだもんな。
果たしてどうなるか。
さて、いつも通り料理を並べて、いただきます、と。
ブルールはいつものように三秒で料理を平らげてしまった。
『ブルール、味の方はどうだ?』
『とてもうまかったぞ。疲れがとれた。ありがとな』
いやいやそれほどでも。
そして毒味ごくろうさま。
俺も安全を確認してから料理を食べ始めた。
結構腹黒いな、俺。
ちょっと良心が痛むわ。
ブルールに異常がなかったことは救いだったな、うん。
でも実際俺が食べてみても全然変な所はなく、美味かった。
もしかすると【料理】のスキルによって変な異物はなくなったりするのかもしれないな。
何しろなかったものが現れるようなスキルだ。
その逆が起こってもおかしくはないよな。
こうして俺は無事ウサギ料理を完食することができた。
さて、腹ごしらえも済んだことだし、先に進むとしますか。
俺はブルールの背中に乗り、ブルールは移動をゆっくりと始めた。
山頂付近にたどり着いたからか、もう上り坂はなく、平坦な道が続いた。
そしてその途中、気になる建物を発見した。
どうしてこんな所に建物があるのか気になるな。
ちょっと中の様子を見てみたくなってきたかもしれない。
『なあ、ブルール。あの建物って何だ?』
『あんな所に建物なんてあったのか。全然気づかなかったぞ』
『ちょっと気になるし、行ってみないか?』
『別に構わないが、あまり長居はできないぞ』
まあそりゃそうだよな。
もたもたしていたら、霧に覆われてワイバーンに襲われる環境になってしまうかもしれないからな。
ちょっとのぞいたらすぐに先へ進むとしよう。
俺達はその建物に向かうことにした。
建物は木造一階建てでこじんまりとした家だ。
ちょうど何故かドアが開いているし、ちょっと中に入ってみるか。
俺とブルールはそっと家の中に入ってみることにした。
家の中は外観から想像したよりも広く二十畳位の広さはあるだろうか。
中には机や椅子や本棚など家具がおかれていて生活感が漂う。
そしてその部屋には二人の人間がいた。
一人は見た目四十代位の女性で、何やら慌てた様子をしている。
もう一人は二十代位の女性で、布地のベッドで横になっていた。
あ、何か話をしているみたいだ。
ちょっと耳を傾けてみるか。
「ああ、どうしましょう!? タロスが出て行ってしまったわ!? この時期は不安定で危ないのに……」
「お母さん、タロスはどこに行ったの? 私が助けに……ゴホッ、ゴホッ」
「ターニャは無理しないの! あなたはただでさえ危ない状態なんだから、自分の事を優先しなさい!」
「でも……」
「大丈夫、安心しなさい。私がタロスを絶対助けてみせるから! ここで安心して待っていなさい」
「え? でもそれじゃお母さんが……危険すぎるよ!? だから私も一緒に……ゴホッ、ゴホッ」
「そんなに心配しないで。こう見えても私、昔はギルドの中でも一流の魔導士として活動していたのよ。だからそこんじょそこらの奴らには負けないわ」
「でももしワイバーンに会ったら……」
「その時はその時よ。大丈夫。決して無理だけはしないから。だから安心して待ってて、ね?」
「うん……分かった、待ってる」
そう会話を交わすと、四十代位の女性、恐らくターニャの母親は大急ぎで外へ出て行った。
何かかなり緊迫した状況に出くわしちまったな。
多分話の内容から考えるに、タロスが外に出て行ったから、ターニャの母親が連れ戻しに行くといった所か。
どうしてタロスが外に出たのか、どうしてソイツをターニャの母親が助けに行くのかはよく分からないけど。
とにかく、俺達は下手に関わらない方が良さそうだな。
『ブルール、この件には関わらない方が良さそうだ。先へ進もう』
『そうだな。オレ達の出る幕はなさそうだ』
まあこんな状況じゃなくても俺達は完全に部外者だけどな。
だって俺達、魔物だし。
全然人間と関係ないし。
ここに立ち寄ったのも単なる好奇心につられただけに過ぎない。
別に人間を助けようとかそういう立派な精神でここに来た訳じゃない。
だからここは関わらずにそっと立ち去る他ないだろう。
こうして俺達はそっとこの建物を後にし―――
「待って、そこのゴブリンさんとウルフさん」
ひっ!?
何で俺達の存在に気付いているんだよ!?
まさかインビジブルブレスレット付け忘れてなんかいないよな?
一応確認っと。
うん、つけてる。
間違いなくつけてる。
なのに俺達のことを分かるんだ、この女は?
この女は危ない。
さっさと逃げるに限るだろう。
俺達はその場から逃げようとするのだが―――
「待って、逃げないで! あなた達を悪いようにはしないから! ね、お願いだから!」
この女、どうやら俺達に敵意はないようだ。
でもどうする?
明らかにこの女は奇妙なスキルを持っている。
油断した俺達を殺そうとするかもしれない。
一応俺達、勝手に家の中に入ってきてしまってるしな。
殺す理由はなくはないだろう。
『俺達がこの部屋の中に入ってきたことが許せないのか?』
「そんなことない! いえ、むしろ逆なの。私達を助けてほしいの!」
俺の【念話】が通じたようだ。
あ、そっか。
【念話】って、別にスキルがなくても聞くことはできるもんな。
確か【念話】を持ってないときの俺でもブルールの【念話】の声を聞くことができたからな。
というか、どうしてこの女、俺達に助けを求めているんだ?
普通怖がって逃げたり殺そうとする対象だろ、魔物って。
そんな相手に助けを求めるってどういうことよ?
まあ、敵意がないヤツの話なら少し聞いてみるとするか。




