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ゴブリン、頑張って生きる。  作者: はちみやなつき
Ⅱ 快適な生活を求めて
54/222

54.橋が崩落した理由を聞いてみました。

 あれから数時間経ち、ようやくブルールが目覚める。



『うーん、よく寝た。カンガ、周辺は大丈夫だったか?』

『ああ。多少人間は通ったが、特に問題はなかったぞ』

『それは良かった。じゃあ早速出発するか』



 俺はブルールに乗り、再び移動を開始した。


 もう朝になっているので、夜に比べると人通りは多めである。

 でもインビジブルブレスレットのおかげで茂みに隠れなくても進めるようになった。

 わざわざ回り道しなくてもいいって素晴らしいな。


 もちろん人間と接触をしないようには気を付けてもらった。

 まあ、いくら気づかれないとはいっても、ブルールは人間と一定の距離はとるから心配は不要だった。

 ブルールって結構用心深いからな。


 快調に移動を続けていた俺達。

 だが、そんな俺達はある物に足止めを食らってしまうことになった。

 


『なんだ、この川。おかしいだろ』

『確かにおかしいな。この川は最近穏やかになっていて交通の要所になっていたはずだが?』



 そう。

 川に足止めをされてしまったのだ。

 

 とても巨大な川。

 多分幅は百メートルはあるのではないだろうか。

 でも別にそれだけなら問題はない。


 問題なのは、それが大雨が降ったときのようにひどく荒れ狂った勢いで水が流れている事だ。

 ここ、雨降ってないよな。

 なのにどうしてこんなに荒れているんだ?

 川の上流で大雨でも降ったんだろうか。


 原因はどうでもいいが、どうしたら向こう岸までたどり着くかが問題だな。

 ブルールによれば、俺達の目的地、リザードマンの住処はあの向こう岸のさらに奥にあるらしい。

 となると、俺達はこの川を何らかの方法で渡る必要がある。


 川を渡る一般的な方法は、船を使うことだ。

 でもこんな荒れ狂う状況じゃ現実的ではないな。


 後は橋を渡ることだな。

 この周辺に川を渡る橋はないんだろうか?

 探してみるか。



『ブルール、この川に橋がかかっていたりしないのか?』

『ああ、確かかかっていたはずだ。あっちの方だな。行ってみるか?』

『そうだな、向かってくれ』



 ブルールは橋の場所を知っているようだ。

 全く、ブルールってどんだけ博識なんだよ。

 ブルールってこの世界を旅でもしたことがあるんだろうか?

 廃墟に行ったことがあるとも言っていたしな。



『ブルールってこの辺りにも来た事があるのか?』

『ああ、だいぶ昔にな。昔の事だから、今もその場所に橋があるかは分からないけどな』



 やっぱり来たことがあるのか。

 色々旅していたんだろうな、きっと。


 それから俺達は橋があるであろう場所に向かって移動を続けた。





 移動をしている最中、すれ違った人間の会話の中で気になることが聞こえてきた。



「なあ、橋が壊れたって話って本当か? おれ、これから向こうの町に用があるんだけど」

「ああ、それは残念だな。当分この川は渡れそうにないぞ」

「本当か。それは辛いな。回り道して南東にある山岳地帯を通るのも危な過ぎるからな……」

「そういうことだ。諦めて別の商売方法でも考えるんだな」

「せっかく一儲けできる所だったのに、トホホ……」



 橋が壊れた……?

 その橋ってまさか俺達が目指している橋のことなのか?

 嫌な予感しかしないんだが。


 それからも、残念な顔をして俺達が向かう方向と逆方向に進んでくる人間の姿をちらほら見かけた。

 そしてみんな口々に橋が壊れたことを言っている。

 これ、どう考えても俺達がむかっている橋のことだよな。

 とりあえず行くだけ行ってみるけどさ。



 諦め半分で移動を続けた俺達は、ついに目的の橋のそばまでたどり着いた。

 いや、正確には橋があった所にたどり着いたというべきか。

 もうそこに橋はなかったのだから。


 巨大な木の破片みたいなものが川に沈んでいた。

 そして破片の一部は川の勢いに流され、下流へと流されていく。

 そんな状態でもまだ多量の木の破片が川に残されている。

 つまり崩落したのは最近なんだと予想される。


 橋の跡地には人が集まっていて立ち往生しているようだ。

 ここの橋、交通の要所になってたらしいからな。

 困る人が大勢いるんだろう。


 今の状況を詳しく知りたいので、立ち往生している人の会話を少し聞いてみることにしよう。

 


「昨日の夜、突風が吹いてさ。それで橋が引きちぎられちまったんだよ。本当恐ろしかった」

「そうなんですか。それで犠牲者は?」

「幸い犠牲者はいなさそうだったな。夜に出歩くヤツなんてほとんどいないしな。おれは危うく巻き込まれる所だったが」

「犠牲者がいないのは良かったです。でもこの状況じゃしばらく不便になりそうですね……」



 どうやら昨日の夜に壊れたらしい。

 そして壊れた原因は突風と。

 別に昨日の夜に突風なんて感じなかったけどな。

 この川だけに突風が吹いたんだろうか?



「橋の復旧はいつ頃になりそうでしょうか?」

「分からねえ。いや、この状況じゃ、いつまで経っても直らねえだろ。作っても突風でまた壊されちまう」

「そうですか。突風は夜に吹くものなのですか?」

「いや、そうとは限らねえ。ある時、急に吹くんだ。前触れもなく、突然な。かつて、みんなが”死の風”として恐れていたヤツだ」



 ”死の風”か……

 確かに橋を渡っている途中にその突風が吹いて死ぬ可能性もあるから大げさではないんだろうな。 

 そうなると、俺が考えていたもう一つの川を渡る方法も厳しそうだ。


 考えていたもう一つの方法、それは自分で橋を作る事。

 橋がなければ自分で作ればいいじゃない的な発想だ。

 実際、俺は【加工】の力で簡単に壁を作り出し、橋として利用することができる。

 ただ、そんなことをすると周囲から目立ちすぎるからあまりしたくないのが本音だ。

 せっかくインビジブルブレスレットで姿を隠しても、できた橋は残るからな。

 不思議現象が起きたということで何かしらの警戒感を持たれてしまうだろう。


 しかし、その目立つということを差しおいても、この方法は現実的ではなさそうだ。

 なぜなら、この川では先程聞いた”死の風”が吹くためだ。

 

 橋を作っているとき、もしくは渡っているときに”死の風”が吹くとも限らない。

 そしてそのまま為す術なく、俺達は荒れた川に落ちて死亡。

 そんなことは避けたいよな。


 別に急ぎでもないし、安全な方法をとりたい。

 となると、回り道をするしかないのか……?



「そういえば”死の風”が吹くのにどうしてここに橋がかかっていたのですか? どうして今まで橋は無事だったんですか?」



 確かに言われてみればそうだ。

 ”死の風”が吹くような所なんだったら、そもそも橋をかけた所ですぐ壊れてしまうだろう。

 でもこの橋は交通の要所になっていた。

 つまりそれは長い間、壊れずに利用されていたことになる。

 何か話がかみ合わないんだよな。



「”死の風”はここの所しばらく吹いていなかったんだ。少なくとも十年前まではな」

「十年前まで? どうしてそれまでは吹いていなかったんですか?」

「恐らくだが……”川の巫女”の影響だろうな。十年前、ちょうどこの地に巫女が現れ、それ以降川は穏やかになっていたんだ」

「”川の巫女”ですか。今のその巫女はいるんですか?」

「恐らくな。死んだという話は聞いたことないし、まだ生きているだろう」

「ではどうして川は荒れてしまっているのでしょう?」

「どうだかな。俺にもさっぱり分からねえ」



 ”川の巫女”のおかげで川は鎮まっていたのか。

 すごい力を持っているんだな川の巫女って。

 十年間もこんな荒れた川、そして突風も防いでいたってことだもんな。



「川の巫女様はどこに住んでいらっしゃるのですか? 是非一目お会いしたいのですが」

「ああ、それは止めておけ。あの危険な山岳地帯に住んでいるっていう話だ。しかも正確な場所も分からねえ。自殺行為だ」

「そうなのですか……残念です」



 こうして会話を終えた二人は俺達が来た方向へと向かっていく。

 恐らく橋が渡れない以上、人間達にとっては村に帰る以外の選択肢がないんだろう。

 

 だが俺達はどうする?

 一応そこら辺にいる人間達よりは強い自信はあるんだが。

 山岳地帯に行ってみるか?

 でも危険すぎるか?

 だからといってこのまま住処に戻るのは正直もったいない気がするんだよな。



『ブルール、俺達はこれからどうしたらいい?』

『それをオレに聞かれてもな。カンガはどうしたいんだ?』

『俺はせっかくここまで来たんだし、リザードマンの所に行きたいとは思っている』

『そうか。なら諦める必要はないんじゃないか?』

『そうだよな。じゃあ山岳地帯に行くか? かなり危険かもしれないが』

『行こうぜ。なに、危なかったら逃げればいい話だ。これまでだってそうしてきただろ』



 まあ、確かにそうしてきたよな。

 ヤドカリのときといい、巨大虫にしてもそうだ。

 なんだかんだで俺達は逃げ切っている。

 

 だが、今回もそれでいいんだろうか?

 見知らぬ土地に来ている以上、危険は付き物だが、どうするか……


 川に橋を無理やりかけて渡ってしまうか。

 山岳地帯を通って川を渡らずに向こう岸まで移動するか。


 どちらも危険なことには変わりない。

 安全な方法なんてなさそうだよな。

 

 でもどちらかというと、山岳地帯の方が安全な気がする。

 川の場合はいつ何が起きるか分からないからな。

 ”死の風”こと突風はもちろん、他にもどのような悪天候が道を阻むか分からない。

 逃げ道ももちろんない。

 危な過ぎる。


 山岳地帯はただ人間にとって危ない道というだけだ。

 足場ももちろんあるし、来た道を引きかえせば逃げることもできる。


 決めた。

 山岳地帯に行こう。



 こうして俺達は南東にある山岳地帯に向かうことに決めた。


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