51.慎重に移動してみました。
『カンガ、どうしたんだ? ボーっとして?』
ブルールが心配そうに俺のことを見てきた。
あっ、そっか。
他の人から見たら、今の俺ってボーっとしているようにしか見えないんだな。
まあ、【命名者】のスキルの影響は俺にしかなさそうだし、当たり前か。
『大丈夫だ、問題ない』
『本当に大丈夫か? 辛いならもう少しここで休んでいってもいいんだぞ』
いや、別にそこまでじゃないから。
そもそも体調が悪い訳でもないしな。
それより早くここから移動した方がいい。
人間の村の近くにずっといるなんて、俺を見つけてくれと言っているようなもんだからな。
さっさと村から離れた方がいいだろう。
『ブルール、早くここを抜けよう。人間に気付かれるとまずい』
『それはそうだが……まあカンガが大丈夫ならそうするか』
こうして俺達は移動を始めた。
もちろんただ移動する訳ではない。
周辺に細心の注意を払い、人間が見ていないかを警戒しながら進んだ。
人間が見当たらなさそうだったら近くの茂みや木陰に移る。
これの繰り返しだ。
このような進み方なので、一人でも人間を見かけると先に進めない。
全ての人間が周囲にいないことを確認してから再び移動を開始することができる。
なかなか思うように進むことができないので焦る気持ちばかりが募る。
でもこうなってしまうのは仕方ないとも言える。
こんな所で人間に見つかって襲われたらどうなるか考えただけでも恐ろしい。
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ウルフに乗った謎の白い魔物の討伐
ランクE
報酬100
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こんな感じで冒険者ギルド的な所に依頼が出されかねないからな。
そんなの絶対嫌だわ。
だから見つからないようにしないといけないんだが。
さすがにここまで進みが遅いともどかしいよな……
結局あまり進まないうちに日が暮れて夜を迎えてしまった。
しかし、逆にこれはチャンスだ。
夜になって、辺りは暗闇に包まれている。
恐らく前世の日本のように、夜になっても明かりがある訳じゃないんだろう。
都市部はまた事情が違うのかもしれないけどな。
そんな暗闇の中でも、俺やブルールには【暗視】のスキルがあるから夜の間も問題なく移動できる。
一方で恐らくだが、人間は明かりがないと周りが見えないだろう。
明かりで見えない範囲を移動すれば、近くを通ることもできるかもしれない。
もちろん【暗視】持ちの人間がいたら話は別だけどな。
一応見かけた人間には不用心に近づかない方がいいだろう。
【観察】で【暗視】がないことを確認できれば安心なんだが、そううまくいくとも限らないしな。
俺達は夜の暗闇という環境に感謝しつつ、移動を早めることにした。
しばらく進むと、とある問題が発生した。
ぐぅ~~~
沈黙の中、響き渡る腹の虫の声。
そういえば昼前に食べたポトフ以来飲まず食わずだったっけ。
一応ブルールは野菜の肉詰めも食ったけどさ。
さすがにそろそろ食わないとまずいな。
『そろそろメシにするか?』
『お、待ってました!』
『ただこの周辺は人間の目がある可能性が高い。ブルールは周辺の警戒に徹してくれ』
『ああ、分かった』
本当はこんな人間の村に近い危険な場所で食事なんて避けたいんだけどな。
でもそんなこと言っていたらいつまで経っても食えなくなってしまう。
だから比較的余裕のある夜である今、食べちまった方が良さそうだ。
そしてもちろん作る料理もすぐに食べられるものにしておいた。
『ほい、お待たせ』
『おお、早いな! これは、野菜サンドだな』
『その通り。よく分かったな』
『そりゃ朝も食った物だし、覚えているに決まっているだろ』
やっぱり持ち運びもできて楽なのはサンドイッチだな。
今日の朝も作ったが、別に少し位同じ物食った所で飽きはしないだろう。
ブルールは一瞬で食べられるからいいとして、俺は食べるのに時間がかかる。
だからサンドイッチを手に持ちながらブルールの背中でゆっくりと食いたいんだよな。
そうやって手に持って食える食べ物ってマジ便利。
ブルールはいつものように料理を3秒で食べつくす。
俺はそんな早く食えないので、ブルールの背中に乗りながら野菜サンドを食べることにした。
ブルールが移動するさなか、俺は愚痴をこぼした。
『人間に見つからないようにするってこんなに大変なんだな。全然進めなくてすごいもどかしいんだが』
『夜になってだいぶマシにはなったけどな』
『そうだな。それでも全速力でつっきる訳にもいかないし、やっぱり不自由だ』
『まあ、こればかりは仕方ないよな。オレ達が魔物である以上、避けられない問題だからな』
『そうだよな。でも見つからなければいいんだからさ、透明化できるような物があれば一気に進められるのに……』
『透明化できるもの……そういえば聞いたことはあるぞ』
え?
そんな便利なものがあるの?
それをもっと早く教えてよ、ブルールさん!
『何て言う物なんだ?』
『確かインビジブルブレスレットっていう名前だった気がする。身につけると姿が見えなくなるんだとか』
『そんな便利な物があるのか!? もっと早く教えてくれよ!』
『存在すると言っても、言い伝えに過ぎないし、実在するかは分からねえぞ。言った所で現状は変わらないだろ』
いや、変わるんですよね、それが。
俺には【加工】と【考察】という便利すぎるスキルがある。
この二つを使えば、色々な物が作れるのはもう分かってる。
そしてそのインビジブルブレスレットというものもどこかにあるはず。
だから、加工リストを早速チェックだ。
えっと、インビジブル、インビジブル……っと。
あれ、ない。
おかしいな?
大体欲しいものはあるはずなんだけど。
あ、そっか。
ブレスレットって腕輪だし、装飾品か。
なら【加工】じゃなくて【細工】で作るものじゃん。
何やってんだろう、俺。
という訳で細工リストを探してみよう。
インビジブル、インビジブル……と。
あった。
多分これで合ってるだろう。
インビジブルブレスレット
エリュミュスのどこかに存在すると言い伝えられている伝説の装飾品。
これを身につけたものは衣服などを含めて姿が見えなくなると言われている。
うん。
まさしくブルールの言った通りの性能みたいだ。
早速作ろうか。
『ちょっとブルール、その辺で休まないか?』
『え? さっき休んだばかりだろ? どうしたんだ?』
『ちょっと食べてすぐに移動して気持ち悪くなっちゃってさ。少し休みたいんだ』
『そうか。それは大変だな。少し休むか』
こうしてブルールは茂みに入り、俺を下ろしてくれた。
俺は残った野菜サンドを口に放り込み、その辺にあるいくつかの植物を採取した。
定番のフワンタクサ草に加え、フワンプチポイズ草というものをな。
フワンポイズ草があれば早かったんだが、この辺りには見当たらなかった。
まあ、フワンプチポイズ草からフワンポイズ草を作れそうだからいいんだけど。
『カンガ、休むんじゃなかったのか?』
『ちょっとやりたいことがあってな。まあ少ししたら休むさ』
俺はブルールから見えないような姿勢を取り、【調合】と【細工】を始める。
まぜまぜ……
まぜまぜ……
チギチギチョキチョキ……
{ 生気の薬を入手しました。 }
{ 黄金の葉を入手しました。 }
{ 超極上綿花を入手しました。 }
そう。
この三つがあればインビジブルブレスレットが作れるのだ。
生気の薬と黄金の葉はフワンタクサ草から。
超極上綿花はフワンポイズ草から作れるからな。
さて、後はその三つを合わせて【細工】をすればいい訳なんだが。
何かすごい嫌な視線を感じるのは気のせいだろうか?
『カンガ、なんでわざわざ隠そうとする。何かやってるのは分かっているんだぞ』
ブルールが不満そうな顔をしてこちらを見てきていたのだ。
うーん、まあ一緒に旅する仲なのに隠し事をされたらそりゃ不愉快になるよな。
でもあんまり見せたくないんだよなぁ。
ブルールには俺のスキルについてある程度話してあるけどさ。
まあブルールになら少し位見せてもいいか。
『ハハ、ごめんな。ちょっと集中したかったからさ。今、仕上げの作業を行うんだが、見るか?』
ブルールはこくりとうなづいた。
よし。
じゃあとっておきの【細工】をブルールに見せてやろうじゃないか。
腕が鳴るぜ。




