29.ブルールを救出しました。
これで何とかブルールの方にミスリルのヤドカリが行くのは防げたはず。
だが、ブルールは無事なのか?
相手はヤドカリの大群だって言っていたが……
【観察】で調べられないかな?
ちょっと試してみるか。
距離がありすぎるから無理だとは思うがな。
やってみるだけ損はないだろう。
ブルールのことを思い浮かべて……
うーん。
{ 特殊スキル【命名者】を獲得しました。 }
{ 特殊スキル【名付ける者】は【命名者】に統合されました。 }
{ 特殊スキル【命名者】の効果により、被命名者の【観察】を開始します。 }
ブルール【グレーウルフ特異種】lv23
HP 31/221
MP 17/ 61
状態異常 微麻痺
攻撃力 327
防御力 293
魔法攻撃力 216
魔法防御力 205
素早さ 511
スキル
俊敏lv8、観察lv3、隠密lv17、束縛耐性lvMAX、暗視lvMAX、束縛魔法lvMAX、念話lv5
特殊スキル
魔法の心得、暗殺者、被命名者
見れた!
って、こりゃまずいじゃねーか!?
何やってんだよ、あのバカウルフ。
お前強いだろ。
何でこんなに弱ってんだよ。
もっと本気だせよ……
俺はこの状況が信じられなかった。
あの強くて、意地悪で、でもどこか憎めない食いしん坊オオカミ野郎が今にも死にそうだなんて。
だって黒いウルフ3匹相手を寄せ付けないあのブルールだぞ?
それにこれまでずっと1匹で生き抜いてきたらしいしさ。
そんな奴がこんな所で負けるはずがないだろ。
……俺はこの世界を甘く見ていたのかもしれない。
ブルールが確かに強い。
それは紛れもない事実だ。
だけどそれには限界がある。
それは俺自身が知っている。
数の暴力。
俺はウルフ戦のときに嫌と言うほど味わった。
いくら個体差があろうとも、そこを数でカバーされてしまう。
そしてこちらは徐々に消耗し、いずれは窮地に立たされてしまうのだ。
ブルールが助けてくれなければあのとき俺は死んでいた。
数の暴力に弱いのはブルールも同じだ。
それはジャイアントマッシュ戦を見れば分かる。
ブルールにとってのジャイアントマッシュは一対一では楽に勝てる相手だ。
しかし、相手がもう二体増えるだけであれだけ劣勢になってしまう。
となると、ブルールの相手のヤドカリが俺のときと同じく100匹を超える大群だったらどうなるか……
想像したくない。
実際、俺が見たブルールの状態は非常に芳しくない。
HPがわずかしかないのもそうだが、状態異常にもかかっているのだ。
麻痺ということは、ブルールの自慢の足が遅くなり、回避力も落ちる。
もしまだ地上にヤドカリが大量に残っているならば、ブルールに勝ち目はないだろう。
そしてそれはブルールの死を意味する。
あの食いしん坊オオカミの死。
正直信じられない。
いや、信じたくない。
アイツは結構嫌らしい所もあるが、なかなか素直な所もあってどこか憎めない奴だ。
アイツ自身の為だとはいえ、ミスリルの材料探しに最後まで付き合ってくれている訳だし。
根はおそらく正直な奴なんだろう。
ブルールともう二度と会えなくなる。
そして話せなくなる。
そんなのは認められない。
そう考えている間にも刻一刻とブルールに残された時間は少なくなっていく。
俺の頭の中にはブルールの残り体力が表示されている。
残りHP 19
これも【命名者】の効果なんだろうか?
いや、そんなこと考えている場合じゃない。
あれからもうHPが12も減っている。
時間がない。
作戦は変更せざるを得ない。
ミスリルのヤドカリなんて後回しだ。
とにかくすぐにブルールの元へ向かう。
ブルールを救出した後はこの鍾乳洞から一気に抜け出す。
これしかない。
俺は【高速加工】を使って槍のような形をした壁を発生させ、頭上に突き付ける。
そしてその槍は俺の頭上の壁を突き抜けると同時に、このミスリルの穴への出口を作り出した。
それから間もなく、俺は再び【高速加工】を使って長方体の壁を自分の真下に作り出す。
そしてその壁の押し上げる力によって俺自身を地上へと押し上げる。
俺が地上へと向かう間に、何匹かのミスリルのヤドカリが襲い掛かってきた。
だが、もうそんなのは問題にならなかった。
上へと伸びていく長方体の壁からさらに細い槍状の壁を発生させ、ヤドカリを貫き、倒した。
そうすることで、俺はミスリルのヤドカリを振り切り、地上へ出ることができた。
地上へ出ると、周囲に抹茶色の生物がうごめいているのが見えた。
あれが全部ヤドカリなんだろうか?
もしそうだとすると、およそ千匹はいることになるんだが……
そして俺のすぐそばにはボロボロになって倒れているブルールがいた。
そのブルールに対し、数匹の茶色いヤドカリがかみつこうとしている。
そうはさせない。
俺は【高速加工】を使って、それぞれのヤドカリの真下に針状の土壁を出現させ、貫いて倒した。
ブルールの周りの敵を追い払った俺はすぐにブルールに上回復薬を飲ませ、黄金の葉を体に当てた。
すると、ブルールの傷は一瞬にして癒え、かつての元気な姿に戻った。
『大丈夫か、ブルール?』
『ああ、おかげさまでな。そちらは大丈夫なのか?』
『大丈夫じゃない。だから逃げるぞ、ブルール』
『何か事情があるようだな。分かった。背中に乗ってくれ』
俺はブルールの背中に乗った。
そしてブルールはこのクレーター部屋の出口へと駆け抜ける!
しかし、ヤドカリもそう簡単には脱出させてくれないようだ。
千匹以上はいるかというヤドカリから一斉に黄色いものが俺達に向かって発射された!
あれを直撃するのはまずい。
だが今の俺なら防ぐことは容易だ。
俺は【高速加工】をすることで、文字通り巨大な壁を作り出し、黄色いものを全て遮断した。
ついでに壁ができたことで、多くのヤドカリから追跡される心配がなくなった。
こうして何とかクレーター部屋から脱出する俺達。
そこに広がるのは湖。
行きは船で渡ってきたし、それが普通だ。
しかし、今はそんなもたもたしてはいられない。
俺は鉄鉱石の壁に【高速加工】を使うことでそこから鉄の通路を湖の上に出現させた。
『道ができた。ブルール、行ってくれ』
『お、おう……』
ブルールが若干引いていたような気もするが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
とにかく今は逃げることが先決だ。
逃げきれれば、あとはいくらでも色々と考えることができるのだから。




