25.ひたすら登山をしてもらいました。
ぜえぜえ……
ブルールの息が荒い。
それもそうだろう。
ずっとここの所、山を登りっぱなしだからな。
しかも軽いとはいえ、俺を乗せながら走っているし。
辛いに決まっている。
それでも文句一つ言わないのは不思議だ。
ブルールの性格なら、ちょっと辛いだけで「背中から降りろ」とか言いそうなんだけどな。
何か理由でもあるのか?
『ブルール、辛いなら無理しなくてもいいんだぞ? 俺、自分で歩けるし』
『大丈夫だ、問題ない。早くミスリルの所まで行こう』
『本当に大丈夫か? 息切れ切れだぞ? それとも何か急ぐ理由でもあるのか?』
そう俺が聞くとブルールは立ち止まった。
何事かと思った俺はブルールから降りてその様子を観察する。
ブルールはどこか遠くを見ながらよだれをたらしていた。
は?
なんでよだれなんか垂らしているんだよ?
このミリル鉱山に美味そうなものなんてないだろ?
あ、もしかして、俺が約束したからか?
ミスリルを採掘し終わった頃に料理を作るっていう約束。
まさか、そのためだけにこんなに急いで進もうとしているのか?
どんだけ食に執着しているんだよ。
それで体壊したら元も子もないというのにな。
コイツ、美味そうと思ったら毒物でも躊躇なく食いそうだよな。
大丈夫か?
なんか不安になってきた。
『ブルール、大丈夫か?』
『は!? オレは今何を? あ、カンガ、早く背中に乗れ。行くぞ』
ブルールは背中をかがめて俺に乗るように合図してくる。
なんか疲れているのに申し訳なくは思うが、俺はブルールの背中に乗ることにした。
赤ん坊の俺の体では自力で山を登りきる体力がなさそうだからな。
可哀想だが、もう少し頑張ってもらおう。
その代わり、今度はちょっと多めに料理を作ってやるか。
ちょっとだけならいいだろう。
多分。
それからはひたすら登ったり下ったりの繰り返しだった。
一体どれだけ歩いただろう?
歩いているのは俺ではなく、ブルールだが。
ひたすら同じような岩肌、山道が続く。
所々に洞窟みたいな所があるが、ブルールは通りすぎていく。
ああいう洞窟みたいな所の中にありそうだけどな、鉱石って。
でもブルールは通り過ぎたんだから、ミスリルはあの中にはないのだろう。
それにしても長いな。
もう日が暮れそうだぞ。
あとどれ位でミスリルのある所まで到着できるのかブルールに聞いてみるか。
『ブルール、あとどれ位でミスリルのある所まで到着するんだ?』
『……えっ、もう着いているぞ?』
『えっ、どういう事だ?』
『ミスリルが取れると言われている山、ミリル鉱山にもうオレ達は着いているぞ?』
おい……
まさか。
まさかな。
そんなことある訳ないよな?
『ブルール、もしかしてミリル鉱山のどこにミスリルがあるか知らないのか?』
『ああ、そうだが。それがどうした?』
やっぱり……
あーあ、やっちまったな。
完全に時間の無駄しちまったよ。
もしかしたら通りすぎた洞窟にミスリルあったかもしれなかったじゃないか。
とんだ無駄足だよな。
なんかやりきれないぞ、俺。
てっきりブルールが自信満々に連れて行ってやるとかいうから信じちまったよ。
それがまさか、ミスリルのとれる鉱山を知っているという意味だとはな。
嘘は言っていないんだろうが、これはあんまりだ。
でもブルールを責める訳にもいかないよな。
ブルールはずっと歩き詰めな訳だし。
俺がもっと早く気づいてやれなかったのが悪い。
はあ。
とりあえずここからミスリルのありそうな所を探すしかない訳だ。
何か近くに洞窟みたいになっている所は―――あった。
たまたまひっそりと空いている穴を見つけた。
ただ穴はだいぶ狭そうだ。
高さはブルールに乗った俺がぎりぎり大丈夫な程。
幅はブルール2匹分といったところか。
かなり狭い。
それに入口が大きな岩で隠れていて非常に見つけにくい。
俺が目を凝らして見つけてなかったら、まず発見できなかっただろう。
こんな小さな洞窟にミスリルがあるとは思えないが、行くしかないだろう。
どこにあるか分からない以上、手当たり次第に探すしかない。
はあ、心折れるな。
どんなに探してもあまりに見つからないようなら適当に理由つけて帰るか。
別に俺にとって、ミスリルの採掘はできなくても問題ない訳だし。
ちょっとしたお土産感覚に過ぎないからな、所詮。
だがせっかくここまで来たんだ。
できることなら本物のミスリルを見て、取って帰りたいよな。
だから数カ所位はしっかりと探そうと思っている。
その記念すべき一カ所目が、今突入した小さな洞窟だ。
正直、ここにミスリルはないだろうな。
あまりに狭すぎるし。
小規模な洞窟だろうから、すぐ行き止まりになって引き返すことになるだろう。
だからそんなに調査に時間はかからないだろうな。
そう思いながら俺はブルールに乗って奥の方へと進んでいく。
俺とブルールは洞窟内を歩き続けた。
すると俺の予想通り、俺達は洞窟の行き止まりにぶつかった。
これ以上進めそうにないな。
『ここで行き止まりか。仕方ない。ブルール、引き返すぞ』
『ちょっと待て。クンクン……ここが怪しいな』
そう言ったブルールは行き止まりの場所の右の壁を見つめ、突撃態勢を整える。
まさかブルールの奴、その壁にタックルしようとしているんじゃないだろうな?
おいおい、背中に俺乗ってるんだぞ!
殺す気か!?
俺の心配をよそに、ブルールはそのまま壁にタックルを決める。
すると、壁が回転し、俺達は別のフロアに侵入することに成功した。
へ?
どうなってんの、これ?
俺は目の前の光景に息をのんだ。
そこにはまるで前世でいう鍾乳洞みたいな光景が広がっていた。
無数のつららみたいな形のものが天井からぶらさがっている。
また目の前に広がる広い地底湖みたいな水溜りが怪しい光を放っていた。
そして何より驚いたのは、この空間、とても広い。
先程までの俺とブルールがギリギリ通れる位の狭さはどこいったんだよ?
カモフラージュなのか?
そうなのか?
だとしたらこの場所かなりミスリルありそうじゃね?
これ、喜んでいいよな。
よくやった、ブルール!
『こんな空間があるなんて驚きだな。ブルール、すごいな』
『オレもまさかこうなってるとは思わなかった。ちょっと空気がもれているから気付けたが』
『空気がもれている? そんなことにも気づけるのか』
『まあな。それ位できないといち早く危険を察知できないからな。伊達に一人で生き抜いてきてないさ』
すげえな、ブルール。
これぞ野生の勘ってやつなんだろうな。
俺には絶対無理だわ。
俺も人間から見れば野生のゴブリンに過ぎないんだろうけどさ。
そうだとしても俺、野生歴短いし。
『ここにミスリルはありそうだよな』
『どうだろうな。とりあえず探してみるしかないだろう』
『そうだな。そうしようか』
俺とブルールは二手に分かれてミスリルを探すことにした。




