21.鹿料理をひたすら作ってみました。
ブルールは全然食べ足りなかったようだ。
結局この後、俺はひたすら高級鹿肉盛り合わせを作るハメになった。
どんだけ食べ足りないんだよ、コイツ。
それにどうして全然飽きないんだよ?
いくら美味い料理でも、同じ物を食べ続けたら普通飽きるだろ。
人とオオカミじゃその辺りも違うのか?
まあ、ブルールが大丈夫ならいいけどさ。
食への執着を見せたブルールは、次々に鹿を狩っては俺の所に鹿肉を持ってくる。
俺はその鹿肉を料理する。
そしてブルールが全て食べ尽くす。
これの繰り返しだった。
もうあの森の鹿を全て狩り尽くしてしまうんじゃないかという勢いだ。
本当に鹿さん、ごめんな。
恨むならこの食いしん坊ウルフを恨んでくれ。
俺は悪くねぇ。
多分。
でもそのおかげで【料理】のスキルがlv20まで上がった。
例によって極意シリーズを取得できたし、より料理を作るのが楽になるな。
俺一人しかいないときは。
ブルールが見ている所だと遅くしないといけないから面倒なんだよな。
せっかくのスキルレベルアップの恩恵を受けられない。
はあ。
本当に面倒だな。
でもこれを疎かにすると大変なことになるから手は抜けないけど。
手を抜くことの手をな。
紛らわしいことこの上ないが。
俺の料理を食べて満足したのか、ブルールはその場で横になって寝てしまった。
ブルールのお腹はポッコリと膨らんでいて、とても動きにくそうだ。
こんなんで移動できるのか?
俺は一人、今後の事を憂いていた。
結局ブルールは夕方までずっと寝ていた。
一体どんだけ寝ているんだよ!?
これじゃ確実に野宿一泊追加コースじゃねえか。
いや、本当に一泊追加だけで済むのか?
何かそれも怪しくなってきた。
起きたブルールはとても動きにくそうにしている。
そりゃあれだけ食えば腹も出るわな。
半日経った今でもはち切れそうな腹をしているブルール。
こりゃ今日のうちに移動はできそうにねえな。
はあ。
参ったな。
『さあ、そろそろ行くか。ゲプッ』
ブルールが立ち上がってそう言った。
いや、行けないだろ、お前。
もし今の状態のまま進んだら確実にお荷物だぞ、コイツ。
俺、コイツのことを助ける余裕なんてねえよ?
だって俺、ただのか弱いゴブリンの赤ん坊なんだぞ。
なんで赤ん坊が大の大人を守らなきゃいけないんだよ。
おかしいだろ。
まあ、ここはちょっと大人な対応をしてやるか。
赤ん坊の体をしている俺だけど。
『無理すんな。今日はここでしばらく待機だ。明日出発しよう』
『すまない、カンガ。ちょっと無茶しすぎた。次からは気を付ける』
本当、無茶しすぎだよな。
それにコイツ、この調子だと、俺が料理を作る度にこうなりそうだよな。
作る側としては全部キレイに食べてくれるのは嬉しいけどさ。
もうちょっと心を鬼にして、おあずけしないとダメだな。
しっかり反省しているみたいだし、今日の所は許してやるか。
{ 【念話 lv3】を獲得しました。 }
うん。
スキルアップもしたことだし、いい感じだ。
さて、今日はここから移動できない訳だ。
暇を持て余すのもどうかと思うので、ブルールから話を聞いてみるか。
『なあ、ブルール。ここからミスリルのある鉱山まではあとどれ位かかるんだ?』
『そうだな。順調に進んであと1泊2日で到着できる位か』
『あの森林地帯を越えたらその鉱山にたどり着くのか?』
『そうだ。森林地帯を越えた所で1泊。その後で鉱山地帯に突入だな』
ふーん。
後はあの森を越えれば目的地に着くのか。
長い旅もようやく終わりが見えてきたって所か。
いや、全然終わりじゃない。
だって帰りがあるからな。
ミスリルとってもまた同じ道を戻らないといけないんだからな。
まだまだ先は長そうだ。
まあ、俺自身の目的はこの世界の探検だ。
別に長旅になってしまっても構わない。
形式上の目的はミスリルの採掘だが、別に俺にとって必要ではないしな。
ある意味、観光の土産みたいなものだ。
これからのことは分かった。
あと気になるのはブルール自身のことについてだ。
ブルールってこの辺りの地理にやけに詳しそうだよな。
俺の住処付近からだいぶ離れているのにどうして詳しいんだ?
人間と違って本とかも読めないだろうし、自分の目で確かめる他ないと思うが。
『ブルールって、どうしてこの辺りのことについて詳しいんだ?』
『理由か? なに、単純なことさ。この辺りに俺が住んでいる時期もあるからだ。自分の住んでいる所だったらそれなりに知識あって当然だろ?』
『そうなのか? でもブルールって、俺の住処周辺に棲みついているんじゃなかったのか?』
『確かに今の時期はカンガの住処がある所に棲みついているな。だが俺は時期によって棲みつく場所を変えているんだ』
時期によって棲みつく場所を変える?
何か渡り鳥みたいだな。
確か夏は涼しい所に行って、冬は暖かい所に行くんだっけ。
ブルールもそんな感じなんだろうか?
『俺の住処がある場所ってすごく寒くなったりするのか?』
『いや、そんなことはないはずだ。あの周辺はそこまで冷え込まない』
『ならすごく暑くなるのか?』
『いや、それもない』
『だったらどうして……?』
暑くも寒くもない。
それならわざわざ移動する必要はなくないか?
いや、食料となる魔物を狩り尽くさないようにするためなのか?
ブルール、すごい食欲だしな。
『カンガの住処がある所は乾季と雨季があるのさ。乾季はいいが、雨季になるとずっと雨が降っていて、オレにとってはとても住みにくい地になる』
『それが理由で移動していたのか』
『そういうことだ』
雨が降っているときに、雨宿りする所もなくずっと外にいたくないよな。
冷たいし、風邪ひくしで嫌なことしかない。
確かにそんな状況なら、ブルールが場所を移動するのも納得だな。
まあ、俺の場合は屋根のある住処があるし、雨季でも問題ないとは思うが。
日が沈み、夜もだいぶ更けてきた。
それ位になって、ようやくブルールの調子が元に戻ったようだ。
『待たせたな。じゃあ早速行くとするか』
『いいけど、もう夜だし、少し寝かせてもらってもいいか?』
『ああ、別に構わない。その間一気に駆け抜けて遅れを取り戻しておいてやるからな。任せてくれ』
ブルールはやる気に満ち溢れている。
よほど普通に動けるようになったことが嬉しいんだろうか?
やる気になって、張り切ってくれるのは良い事だ。
だが、ブルール。
少しは俺の事を考えてくれよ。
全力で走って、寝ている俺を振り落とすなんてことしたら許さないからな。
ブルールのことだからそれが冗談じゃなくあり得そうなのが怖い。
こうして俺はブルールの背に乗り、森林地帯へと足を踏み入れたのだった。




