狼と蛇
日曜完結に向けてガンガン投稿します。
読み飛ばさないようにお気をつけて。
剣也達がダンジョンの最奥を目指して二日後。
その間も人類と魔物の戦いは激化した。
日に何度も地震が発生し、そのたびに魔物が現れる。
そして徐々に強くなる魔物達。
「くそっ。もう40階層レベルだぞ」
そこには天道龍之介と巨大な鳥の魔物の死体。
天道龍之介が日本各地を回りながら強敵となる魔物を狩っている。
今いる場所はダンジョンがある東京湾から東京を超えて埼玉。
埼玉ー東京ーダンジョンという構図。
そこでは現れる魔物の強さはすでにゴブリンキング級すら現れだした。
「龍之介……胸騒ぎがするの。言葉にできんが……悪い予感がする」
一緒に魔物を狩っていた佐々木一心。
その老獪な剣豪が、空を見ながら声を漏らす。
昼なのに暗い。
まるで太陽が食われてしまったかのような天気。
「じいさんもか、俺もなにか…!?」
それは突然起きた。
初めて魔物が現れたときと同程度。
歴史に残る大地震といっていいほどの巨大な地震。
日本中、いや世界中が揺れる。
そして現れた大量の魔物。
明らかにレベルが一段上がっている。
すでに金級でなければ対処は難しいレベルへと。
しかしそんなことは些細な事だとすぐに気づくことになる
「ぐっ!!」
「なんじゃ!?」
まるで隕石でも落ちたような衝撃が起きる。
風圧で吹き飛びそうになるが、さすがに世界トップの二人。
驚きはするものの微動だにしない。
そして煙が腫れて二人が見た光景に絶句する。
「なんと……これは…」
青白い鱗の巨大ななにかが突如現れる。
その体は長く目では終わりが見ることができない。
太さは一軒家ほどはあるだろうか。
何処までも続くその長い体と太い身体。
鳴動し、ゆっくりと動くまるで壁はきめ細かい鱗のようなものが見える。
「へび…なのか」
遠くに見える山。
その山まで続く巨大な身体。
そしてその山から顔を出すのは蛇の顔。
雲を突き抜け世界を見下ろす強大な蛇。
その強大な身体は規格外で地上のどんな生物も、どんな建物よりも大きくて。
まるで巨大な山だった。
「オオオオオオ!!!!!」
その山がうなりを上げる。
怒りをあらわにするように。
「龍之介!」
「どうも味方ではなさそうだな、一体何が起きてるってんだ。あれじゃまるで……」
…
「ヨルムンガンド……まるで神話の蛇だな」
その緊急事態にまずは報告と天道が真っすぐ東京の田中のもとへ。
至急埼玉県は放棄することに決定し、避難は開始された。
幸いにも蛇は追ってこずにあたりかまわず当たり散らしているのみ。
今は怒りで何も見えていないのかもしれない。
しかしあの化物がひとを襲うことになったらと思うと。
「勝てるか? 龍之介」
「わかりません……動きは遅そうでしたが、なんせあの巨体ですからね」
動くだけで地形が変わる巨大な蛇。
戦闘能力自体は高くないのかもしれないが範囲攻撃は恐ろしい力を持っている。
それこそこの国を壊滅させるほどの強大な力を秘めている。
天道の分析結果は、宵の明星全員であたってなお止めることがやっと。
「そうか……」
会議室が静まり返る。
対抗手段のないその巨大な魔物に。
すでに職員も連日徹夜で対応しており心身共に限界が近い。
終わりの見えない戦いに心折れるものも多かった。
そこに現れた巨大な蛇。
このままでは首都東京すら放棄することになりかねない。
そうなったらこの国は終わるだろう。
指揮系統を失い、魔物になすが儘の地獄のような国へと。
「核兵器の検討も視野にいれなければならんな」
それは人類の最終兵器。
近代兵器が効果のない上位の魔物達。
しかし核兵器ならばと八雲防衛大臣が声を漏らす。
「それは本当に最後の最後です。この国にまたそれを落とすわけにはいかない」
「ならばどうする」
「……」
すると一本の電話が鳴る。
「は、こちら東京緊急災害指令室! ……な、なんですって!? 誤報では…ないんですね……わかりました。お伝えします」
一人の職員がその電話を取り青ざめる。
生気の抜けたあきらめの表情で、電話を切る。
「どうした!」
田中がその様子を見てただ事ではないことを理解する。
これ以上悪いニュースが重ならないで欲しいと願いながらも声を上げる。
そしてその職員が声を震わせて答えた。
「大阪が…大阪で防衛していたギルド【日輪】が……」
もう一つの指令室。
日本を右と左に割り、左は大阪が担当している。
そしてそこにはトップギルドの一つが守りを固めていた。
ギルド日輪、そして代表の望月宗近。
多くの避難民を守り、魔物を狩っている。
人数だけで見れば日本最大のトップギルド。
そのギルドが。
「壊滅しました」
「なんだと!?」
田中が机を強く叩き立ち上がる。
信じられないという声で冷や汗を流す。
「そして団長の望月さんは……戦死、他のメンバーも死亡したとのことです」
「なぜだ! 何が起きた!」
すると巨大モニターに映像が流される。
「本日正午。襲われた避難所の映像が残っていたそうで、今モニターに映しています。幸いケガ人は多くなく被害者は探索者のみ。
正確に言えば装備品を付けていたものだけだそうです」
そこには、望月含む多くのギルドメンバーが剣を構えている。
そして昼間だというのに、まるで夜のように暗かった。
映像では何が起きているかわからない、まるで夜のように暗い。
かすかにそこに人がいることがわかる程度。
「お前ら! 背中合わせろ!」
「はい! だんちょ……グハッ!」
「おい! 沢田? 沢田ぁぁぁ!!」
「明かりをつけろ!! スマホでもなんでもいい!」
そして貫かれる一人の探索者の胸。
一瞬光る画面に映るのは獣。
漆黒の毛をなびかせて、体躯は成人男性の2倍ほどだろうか。
まるで狼だが、2本の足で立っている。
狼男という表現が正しいのだろうが、神聖さすら感じる美しい毛並みがその男の血で赤く染まる。
「ウォォォォンン!!」
そして遠吠えと共に灯りが消えて再度暗闇へと。
次々と探索者を殺していく、悲鳴だけが聞こえてきた。
その映像は見るものを絶望させる。
望月宗近はトップ探索者と言ってもいいほどの探索者だ。
天道ほどではないにしても十分人類の強者。
50階層到達者。
その望月が相手にもならずに他の探索者同様に一撃のもと胸を引き裂かれる。
「嘘だろ……あんな化物まで現れたのか」
「もう無理だ……」
その映像を見た多くの職員が膝をついて地面に座り込む。
疲労困憊、精神も弱っている。
巨大な蛇に対する対応策もないというのに現れたのは一級探索者すら瞬殺する狼人の魔物。
「神とやらがいるのならこの試練を乗り越えろとでもいうのかい」
田中も冗談をいって精神を保とうとする。
しかしすでに彼の頭の中では読み切っていた。
この状況が続いた先この国が迎える結末を。
「巨大な蛇。ヨルムンガンドとくれば、次に現れるのはフェンリルか。さすがにこれは参ったね」
田中が座り込もうとする。
諦めの表情を浮かばせて、力なく。
*
「だからそれまでは田中さんこの国をお願いします!」
*
しかしすんでのところで踏みとどまる。
思い出すのは少年の言葉。
(何をしているんだ、私は!)
田中が思い浮かべるのは二人の子供。
自分に子供が生まれていたら、あれぐらいの年になってもおかしくはない。
それぐらい一回りも二回りも小さな子供。
老婆心で世話焼きしてしまった二人の子供。
子供だと思っていたのに、最後に見たその目は諦めなど微塵も感じさせないほどに熱く燃えていた。
すべてを手に入れるとまで豪語していた少年。
(ふふ、お願いされたというのに……すまない剣也君)
座り込む寸前で膝に力を入れなおす。
真っすぐと背筋を伸ばして立ち上がる。
今田中は世界トップギルドの宵の明星のトップ。
つまり最高戦力を抱える司令官。
彼が折れることは日本が折れることを意味する状況にある。
ならば、選択は一つしかないだろう。
「よし!」
大きな声で気合を入れる。
その声を聞いた職員たちがこちらを見る。
「諦めるな!」
まるで自分に言い聞かせるように。
「膝をつく暇などないぞ! どうした! みんなそんな老けた顔で! さぁ立ち上がろう!」
(今は私がこの国を導こう、だから剣也君。そちらは頼む)
田中は鼓舞した。
今にも諦めてしまいそうな職員たちを。
「世界を救ってやろうじゃないか!! 証明しよう、私達は」
無精ひげを手でさすり、よく通る声で高らかに。
「まだまだ若い!」
そして田中一世の立案による緊急対策会議が始まった。




