最奥へ
「剣也君……」
剣也は灰になった闘鬼を見つめる。
その手の中に少しばかり残った灰が最後の一つが消えるまで。
その手を強く握った剣也は、立ち上がる。
「託されたんだ、短い間だったけど本当にいいやつで…本当に優しくて…」
「はい……だから絶対に最上階に行かなければいけませんね」
そして闘鬼がいた場所からゲートが現れた。
しばらく休んでから62階層へと向かうことにする。
食料等補充するため一度外へ。
地上の状況も気になるので田中さんに一言伝えてから一気に70階層へと目指すことにする剣也達。
まだその手には感触が残る。
魔物を切ったのには違いない。
しかし確かに意思疎通、心すら交わした相手を切った。
初めての経験で、それは剣也達の心に大きな傷を残す。
どこかで言っていた気がする。
痛みこそが成長を促す。心への傷とは心への負荷。
疲弊した心はまるで筋肉のようにもう一度大きく膨らんでより強靭な心ができる。
(まかせてくれ、闘鬼)
剣也は一人心に決める。
必ず最後までたどり着いて見せると。
…
「そうか、61階層を突破したか」
「はい、とても強くて…優しいやつでした」
ここは緊急対策本部。
田中一世をはじめとするダンジョン関係者や、国のトップが指揮を行う。
「そんな存在が……今日はゆっくり休むといい。明日から62階層へと向かうんだろ?」
「はい。奈々と美鈴の様子だけみて明日から真っすぐと向かおうと思ってます」
「頼むよ、剣也君」
「それで状況はどうですか?」
「何一つ好転しないね。避難している人たちの心も限界が近い」
全国でいくつも作られた避難場所。
経済活動はすべて停止し、国からの供給で耐えている状態。
それは日本だけではないのだが、国民全員を食わせる備蓄も余裕はない。
いつ破綻してもおかしくないか細い糸の上で成り立つ状態。
「そうですか……」
「あぁ、だからもしこの状態が続くのなら都市部以外は放棄することになるだろう、リソースは限りある。辛い決断だがね」
護り切れる範囲以外は国として放棄する。
当然といえば当然なのだがそれが意味することは、多くの人の家、故郷すべて捨てることになる。
それは国を失った難民と同じこと。
すると田中さんが立ち上がる。
剣也の肩を叩いてはっきりという。
「この決断は私の願いで八雲大臣にあと一週間延ばしてもらっている。この意味がわかるな」
「……そこがリミットですか」
「あぁ、急かすようで悪いがそこが限界ラインだ」
「わかりました。必ず! だからそれまでは田中さんこの国をお願いします!」
「任せておけ、君が塔に集中できるよう頑張ろう」
そして剣也はその場を後にする。
自宅に帰るが水道も電気も通っていないため休まることもできない。
服だけ着替えて美鈴達のいる避難所へ。
「先輩!」
剣也の学校の体育館を使って作られた避難所で剣也を見つけた美鈴が飛び込んでくる。
いつもばっちり化粧の美鈴は少し元気がなさそうで少しメイクも崩れている
心労なのか、彼女もまた戦士として避難所を守っていたからだろう。
「美鈴…よかった。無事で」
「先輩こそ……」
「美鈴?」
「もう少し、もう少しだけ……充電させて。そしたらもっと私頑張れるから」
その言葉を聞いて剣也は美鈴を強く抱きしめる。
気丈にふるまっているがまだ高校生、誰かを守るなんてプレッシャーは疲弊を加速させていた。
「ごめんな、美鈴。まだ終わってないんだ。すぐに行かないといけない」
「そうですか……」
美鈴が剣也をより一層強く抱きしめる。
「はい! 充電完了!」
直後美鈴が剣也から離れる。
キラキラした笑顔でもう大丈夫と剣也に笑いかける。
強がっているのは剣也にもわかっている。
それでもお願いするしかない。
「お任せくだされ、御剣氏! ここは私が守って見せますぞ!」
「私より弱いくせに」
「み、美鈴様~」
「ふふ、期待してるね。オタク先輩」
大和田も相変わらず元気のようだ。
彼も銀級冒険者へと至っている探索者で十分戦力だ。
きっとみんなを助けてくれる、装備品もより上等なものをつけているので30階層レベルでも倒せるだろう。
その日は休むことにする。
簡易的な巨大なお風呂に入る。
ビニールシートで作られたお風呂は快適とは言えないがそれでも疲れを癒してくれる。
「御剣氏世界はどうなってしまうんでしょうな」
大和田と一緒にお風呂に入る。
彼もまた高校生とは思えない傷を負っていた。
脱いだら結構すごい大和田は鍛えあげた戦士のようだった。
「僕にもわからない。でも昔は魔物がいたそうだ、神器と呼ばれる装備品も。今はそのころに戻りつつあるという状況なのかな」
「ほう……それはどこで?」
「あの塔で出会ったんだ、教官に。いいやつだったがそいつに聞いた」
「まるで新訳ラグナロクですな。神話がもとですからな、そもそもその神話自体が本当にあった話を未来へ伝える手段だったのかもしれません」
物語として語り継がれた神話。
遠い未来に過去起きたことを伝えるために誰かが作ったものなのかもしれない。
「じゃあ、やっぱり最後の敵は…」
「だとしたら強敵ですな」
「そうだね」
最後の敵は魔王。
そして相対するのは勇者。
ならば錬金術師の自分はなんなんだろう、自分にできることはなんなんだろう。
考えても仕方ないし、そもそも魔王がいるのかもわからない。
その日はゆっくりと眠り明日からの攻略に備える。
この国を、世界の行く末が自分の手にかかっている。
その事実を理解することはまだできていない。
それでも自分の役割はあの塔を攻略することだから。
自分にできることがあるはずだから。
闘鬼のように、自分にも役割があると。
「あの塔の先にはなにがあるんだろう」
戦士は思いをはせて静かに眠る。
…
「じゃあ行くよ」
「はい!」
そしてレイナと剣也はダンジョンへ。
「頑張ってね! お兄ちゃん!」
「頑張るのよ、レイナちゃん」
「いってらっしゃい、先輩!」
「ここは任せて安心して攻略してくるのですぞ!」
美鈴、奈々、大和田、早乙女。
他にも多くの学校の友達達に見送られる。
まるで戦時だ。
かつて戦争があった時代の見送られる兵士とはこんな気分だったのだろうか。
命を懸けるはずなのに、怖くもあるが少し誇らしくある。
自分の手でこの人達を守ることができるかもしれないのだから。
「いってきます!」
…
そして剣也は61階層へ。
「やっぱりいないか」
闘鬼はいない。
61階層は、何もなかった。
綺麗な草原の真ん中にポツンとあるのはゲートのみ。
寂しくないと言えば嘘になる。
でも託された思いは確かに剣也の中に残っている。
そして剣也はゲートへと歩く。
この先にいる敵はなんなのか、この塔の奥にはなにがあるのか。
「行こうか、レイナ!」
そして転移するは62階層。
目の前に立つのは、牛の化物。
あまりにも有名だ。
その化物の名前はあまりにも有名。
誰でも知ってる迷宮の化物。
「ミノタウロスか」
「ブモォォォl!!!!」
牛の化物ミノタウロス。
相対するは剣也、敵は62階層の化物。
今まで戦ってきた誰よりも強いはず。
剣也の手には光が集まる。
ステータスを錬金する。
爆ぜる地面と空気の音が階層にこだました。
まさに神速一閃。
首が飛んで血が噴き出す。
切られた本人すら気づいていない。
剣を振るって血を払う。
「さすがですね、剣也君」
そして灰になる魔物を見て剣也はつぶやいた。
「闘鬼の方が100倍強い」




