表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/106

約束の日

 幕が下りた。

舞台が暗転する。

拍手と共に劇は終了した。

しかしこの後みんなで挨拶があるのでぞろぞろと2-1のメンバーが舞台に上がっていく。


 暗い中見つめ合う二人もお互いの顔が見えなくなった。

 

 それでも剣也の口に感じる柔らかかった感触。

レイナの真っすぐな告白が耳に残る。


「レイナ…」


「わ、私…ごめんなさい!」  


 レイナは逃げるようにその場を離れようとした。

しかし直後手を掴まれる。

その手は思い人から伸びた手、まっすぐと力強くレイナの手を握る。


「レイナ…後夜祭で返事をするから。ちゃんとさせてほしい」


「剣也君…」


 そして陽気な音楽が流れだし、幕が再度上がる。

一人ずつ名前を呼ばれて舞台にでる。


「2-1素晴らしい劇をありがとうございました。メンバー紹介! 神官役 大和田君!」


「ありがとう!! 皆さまありがとうございます!!」


 大和田が前にでてお辞儀する。


「続いて悪神 早乙女さん!!」


「ありがとう!!」


 次々とメンバーが紹介される。


「そして素晴らしい演技を見せてくれました。 魔王役 御剣剣也並びに勇者役 蒼井レイナ!」


 二人は手をつないで前にでる。

レイナは顔を真っ赤にしながらそれでも少し嬉しそうに恥ずかしそうに挨拶をする。

剣也もお客さんに笑顔で答える。


 こうして2-1の劇は終了した。

文化祭も終わり、後は後夜祭。


 クラスのメンバーはやり切ったという満足感を舞台裏で楽しんだ。


「素晴らしい演技でしたぞ御剣氏。装備品の反応も上々でしたな!」


「あぁ、ほんとによかった」



「レイナあんたもしかしてキスした?」


「……はい」


「やるじゃん! びっくりしたよ。角度的に私しかわからなかったと思うけどね。まさかみんなの前でキスするほどとは。さすが勇者。勇気あるね」


「ま、舞い上がってしまって。実は私結構大胆なのかもしれません…」


 剣也達と離れて早乙女とレイナが会話する。

よしよしと早乙女に撫でられて、レイナは手で顔を覆ってやってしまったという状態。


「後夜祭で決めてやれ!」


「はい!」


 そして文化祭も終わり、日も暮れる。

後残すところも後夜祭のみ。


 今日だけは日が暮れていても下校しなくてもいい特別な日。

グラウンドの真ん中に大きな装飾を施されたまるで夏祭りの舞台、その上には和太鼓部の出し物。


「では、皆さん!! 後夜祭の始まりです!!」


ドンドンドン!!


 和太鼓の音と共に一斉にライトアップ。

暗い校庭を明るく照らす人口の光。


 周りには多くのカップルたちが太鼓に合わせてダンスを踊る。

もちろん男同士、女同士もたくさんだ。

男女関係なく楽しむのがこの学校の伝統の後夜祭。


 そしてここにも一組の男女が。


「み、美鈴様良いのですか!?」


「はぁ…いいよ。先輩レイナさんと踊るみたいだし。あーあ、なんかむなしい…」


「美鈴元気出しなよ…」


 レイナを見つめる美鈴はため息を吐く。

横で奈々が元気を出せと頭をなでる。

大和田が空気を読まずにダンスに誘うが、自暴自棄になっている美鈴は了承する。


「好きです! 美鈴様!」


「あーごめんね? 私剣也先輩好きなんだ」


 それでもあっさりと大和田の告白を断る美鈴。


「諦めませんぞ!」


「あーはは、がんばってね」


 答えはわかり切っていた大和田。

それでもあきらめないと告げる。


 美鈴は適当に、大和田は張り切って太鼓に合わせてダンスを踊る。

美鈴の視線の先は剣也なのだが、大和田にとってはそれはそれ。

いつか振り向いてくれるように努力するのみ。


 そして二人は。


「レイナ…あの時の返事をさせてもらってもいい?」


 手を取り合って音楽に合わせて踊る剣也とレイナ。


「はい…」


 レイナの心臓が張り裂けそうだ。

もしふられたら…。

剣也の答えを早く聞きたい、聞きたくない。

そんな葛藤の中宙に浮いたようにダンスを踊る。

足が震えてうまく動かない。


「レイナにとって僕は、たまたま目の前にいて、たまたま助けてもらった人だと思ってた。運よく不幸な人を助けれただけの人だと」


「そんなこと…ないです」


「だからこの気持ちを伝えるのは卑怯なんだ…」


「……」


 レイナはうつむく。

剣也の言動が、多分拒否するような言葉だったから。

とたんに視界が暗くなる。

涙があふれてしまいそうだ。


「でももう僕も抑えられない」


「え?」


 剣也がレイナの手を引いた。

抱き寄せるようにレイナを抱く。


「レイナ、君が好きだ。あの髪飾りを上げた日からかもしれない。本当はもっと前からかもしれない。いつかなんてわからないし、理由なんてわからない。でも」


 レイナの目を見てはっきりと告げる。


「君が好きなんだ、もうこの気持ちを抑えられない」


 剣也はまっすぐと伝えた。

自分の気持ちを彼女に。

曖昧な表現もあやふやな態度もやめて、心の底からレイナが好きだとはっきりと伝える。


 その言葉を聞いたレイナが両手で目頭を押さえる。

溢れる涙が止まらない。


「はい……はい! 私も! 私も大好きです!」


 レイナが剣也に抱き着いた。

唇を向けて剣也にせがむ。

剣也の気持ちを形にしてほしくて、確かめるように。

気持ちに応えてほしいと。


 剣也は焦りながらも求められていることを理解する。

だからしっかりと気持ちを返した。

今度のキスは長かった。

レイナからの情熱的なキスの返答。

驚きながら剣也も返す。


 長く続く二人の気持ちのやり取り。

お互い初めての行為なので辞め時もわからない。

でもこの幸せで気持ちいい時間がやめられない、もっとしていたい。


 それでも息が続かなかったレイナが離れる。


「はぁ…ふわふわします、剣也君。少し息が苦しいですけど」


「息止めてたの?……僕もよく知らないけど息しながらすると思うよ?」


「知りませんでした。こ、今度はうまくやって見せます。……だから…ね?」


 満面の笑みで顔を赤らめ、息を切らしてレイナが答える。

もう一度とねだるレイナ。

糸でつながった二人、そして糸が切れて再度つなぐ。


 何度も何度も繰り返した。


 周りでは、気づいた何人かが指をさしているのもお構いなく。

秘めていた気持ちを伝えるように、抱き締めあって一つになろうと。


 今日二人は結ばれた。


 勇者と錬金術師、少女と少年。

世界トップレベルの強者二人が結ばれる。


 今日は運命が交差した日。

二人にとっての分岐点、そして世界にとっても分岐点。


 少年と少女が愛を誓った約束の日。


そして…。


 世界が滅びへ向かった日。


「な、なんだ!?」

「キャァァ!!」

「うわぁぁぁあ!!!」


 直後強烈な揺れが彼らを襲う。

震度がいくらかなどわからない。

まるで世界自身が揺れているような。


 止まっていた針は動き出す。

今までの時間を取り戻すかのように激しく回る。

世界が揺れて、頭が割れそうなほどの金切り音があたりに響く。


「レイナ!」

「剣也君!」


 二人は装備品の力で空を飛ぶ。

何が起きたとあたりを見渡す。


 地震で倒壊した建物や、煙を上げる町。

しかしそれよりも二人の視線は吸い寄せられるようにダンジョンへ。


 天を貫く巨大な塔が光り輝く。

まるで鳴動するかのように不思議なオーラを放っては消える。


 その光が空を照らし、地上を照らす。

その灯りに照らされて、剣也達が見たものは。


「…なんだあの光、いやそれよりも……あれは…嘘だろ」


 空を飛ぶ龍や、鳥の化物、地上を歩く巨大な鬼。

間違いない、地上に魔物が現れた。


 そして光り輝く塔、まるでオーロラのように怪しい光を放っては消える。


 この日世界は一変し、平和な日常は終りを迎える。


 止まっていた時間は動き出し、神話の物語は現代へと繋がった。


 そして世界は思い出す。


 この星の本当の支配者は誰なのか。


これにて第三章完結!


そしていよいよ、最終章 神話の続き編 開幕です。

物語もクライマックスへ。


だらだらと続けるつもりはありません、予定していた通り書きたいことを書ききって終えたいと思ってます。


自分の中では熱い展開山盛り。


ぜひ最終章も楽しんでいってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 漫画化めっちゃしてほしいです!!!!
[一言] まさかあの神話が空想じゃなくて実際に起こったことだっただなんて...
2022/02/20 20:31 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ