表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/106

少女は一人、雪につぶやく

「うわ、全然寒くない。すごいなこの装備」


 前回同様スキーウェアを着ていた剣也達。

しかし剣也は装備品の銀熊の毛皮小手を付けているので、試しにスキーウェアを脱いでみた。


 すると全く寒くない。

これが温度耐性 弱の力のようだ。


どうも気温程度なら温度を無効化するこの装備。

昨日試しにコンロの火を触ろうとしたら普通に熱かったので無効化できる温度は限界があるようだ。


「先輩なんでそんな恰好で寒くないんですか?」


「新しい装備が温度耐性 弱ってのがついてるみたいで無効化するんだよね。すごい快適だこれ」


「えーず、ずるい。私も欲しい。それ付けたらずっと生足だせますよ? どうですか?」


「なにがどうですか、なのかはわからないけど必要になったらあげるよ。今はスキーウェアで十分だろ」


「なんか先輩最近私の扱いが雑…」


「剣也君の装備は気温を無効にする装備ですか、すごく人気がでそうですね」


「実生活でもすごい便利だよこれ。それで、レイナ新しい武器はどう?」


「はい、鋼の剣とは比べられないほどに力の上昇を感じます。ステータス!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:蒼井レイナ

DP:16230pt

職業:勇者

・勇なる者Lv2:次のレベルまで10万pt

(Lv*1000能力値上昇)

・生命回帰LvMAX:(未開放)


◆装備品

武器:【名もなき剣Lv1】

頭 :【大精霊の髪飾りLv1】

胴 :【騎士の胸当てLv1】

手 :【騎士の小手Lv1】

足 :【騎士の具足Lv1】

アクセサリー:【なし】


◆ステータス

攻撃力:2000(+4000)

防御力:2000(+1000)

素早さ:2000(+1000)

知 力:2000(+3000)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 レイナの攻撃力は6000の大台に到達した。

全能力+2000は勇なる者のスキル。

そして大精霊の髪飾りで1.5倍つまり、全ステータス+1000と知力が+2000されている。


 そして例の剣はというと。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

装備説明 

・名もなき剣Lv1(Lvによる上昇なし)

まだ何も成し遂げていない者のまだ名もない剣


 Aランク レア度★★★★

能力

・攻撃力+3000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 古びた剣から、名もなき剣へと進化した。

剣としては西洋の剣という感じの大きな剣だ。

装飾はなく、シンプルで真っすぐな刀身が美しくレイナが装備するとまるで西洋のジャンヌダルク。

Aランクにしては性能が少ししょぼい気がするが、まだ進化可能みたいなので今後が楽しみだ。


 白熊と白猪達をものともせずに無人の荒野を行くがごとく進軍していく。


 あっという間に第25階層。

中ボスの部屋へ。


「なんかダンジョン攻略ってこんな感じでしたっけ? ってぐらいサクサク進みますね」


「まぁこの階層の推奨武器はCランクだからね。レイナの職業とAランク武器だとこんなものかな」


 20~30階層はCランク推奨、30~40階層はBランク、40~50階層はAランク推奨となっている。

ならばCランク推奨のこの階層に勇者+Aランクのレイナでは相手にならないというものだ。


「とりあえずサクッと倒そうか…」


 そして剣也は25階層への扉を開く。

いつもの中ボスの部屋。

そして中央には、一体の魔物。


 こちらを見据えて叫びをあげる。


ザシュッ


 5秒で倒した。

巨大な白熊の首が飛ぶ。

中ボスは、一回り大きな白熊だったが特に特筆するようなこともなく終了した。


「えーっとアイテムは、大白熊の毛皮小手か。まぁ今度進化してみるか、温度耐性があれば嬉しいし」


「今日中に30階層へといけそうですね」


「そうだね、このペースならいけそうだ」


 白熊の毛皮小手と同じような能力の装備を拾い美鈴のアイテムボックスに入れる。

進化させて温度耐性がつくならば、きっと上位の階層でも使えるはずだ。


 そして26階層へと剣也達は赴く。

現れる魔獣を次々と討伐し、二人の歩みは止まることはない。


「さすがだね、レイナ。ここまですべて一撃?」


「そうですね、これぐらいなら。でも剣也君でも余裕でしょう。私達なら50階層までいけそうですね」


 レイナと剣也は笑い合う。

並び立つ二人、どちらもお互いを信頼しお互いの強さを認め合う。

その後ろでそれを眺めて少し遅れて歩く少女。


 その足取りはどこか寂しそうで。


「私必要ない……かな…」


 誰にも聞こえない声で少女はつぶやく。


 美鈴は、不安だった。


 このギルドの中で特別じゃない自分が。

押しかけるような形で彼の家にきて、居座って、いつの間にかこのギルドに入って。


 そんな自分はこのギルドに必要のない存在のような気がして。

日に日にその不安は増すばかり。

気だけに明るく振舞っているが不安はぬぐえずふとした瞬間暗くなる。


「特別になりたい…」


 奈々は剣也の妹だ、それにこのギルドの雑務をこなしている。

唯一無二の肉親で、剣也が最も大事にしている人の一人。


 レイナさんは、綺麗だ。

美鈴から見ても優しくて、頼りになって、勇者で、綺麗で。

多分先輩の心はもう…。


 美鈴は不安で不安でたまらなかった。

いつか剣也に捨てられてしまうのではないか、いつか不要だとこのギルドから追い出されてしまうんじゃないかと。

家族といっても血のつながりなんてない名ばかりの家族だ。

いつかまた捨てられてしまうんじゃないか。


 だって自分は親にだって捨てられた子供。

自分の価値なんて、若いこの身体しかないんじゃないか。


 求めてほしい、どんな形でもいいから。

捨てないで欲しい、この温かい家族のような関係から。


 どうか、どうかお願いだから、もう奪わないで欲しい。

やっと見つけた私の居場所を。


 だから毎日のように剣也を誘惑する。

求めてもらいたくて、安心したくて。

そんな方法しか知らなくて。


 でもそれも最近は空回る。

でも私にはこの方法しかないから。

私には、男の人の気を引く方法なんてこれしか知らないから。


「せんぱい…」


 楽しそうにレイナと笑いあい並び立つ二人。

その背中を追って少女はつぶやく。

しかしその声は届かない。


 二人の歩幅は大きくて、とても速くて見失いそうで……。


 それでも追いつきたくて、走る。

追いついては、離されて。

追いついては、また離されて。

手を伸ばしては、引っ込めて。


「このまま私がいなくなっても気づかないのかな……」


 考え出すとどんどん悪い方向に行ってしまう。

いつしか追いかける足は止まり、立ち尽くす。

雪のせいだけではなく、確実に足が重くなった。

眺める背中、遠くなる笑い声。


 美鈴は眺めていた。

楽しそうに会話する二人の背中を。


 でもいつか振り向いてくれるんじゃないかと。

自分のことに気づいて振り向いてくれるんじゃないかと。

きっと先輩なら私のことを…。


 怠惰で、俗物的で、我儘で。

でもそんな少女の本当の願いは、一つだけ。


(お願い先輩……振り向いて……)


 祈るように願うように。


 静寂が美鈴を包む。

雪が吹雪いてきて、視界も悪くなる。


 いつしか背中を見つめる少女の瞳に彼の背中は映らなくなった。

残されたのは、真っ白な雪と選ばれなかった自分だけ。


「そっか……」


 少女は一人、雪につぶやく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 美鈴…(T ^ T) 大丈夫!読者のほとんどは、よく分からない薄っぺらいレイナよりも人間味があって一生懸命な美鈴の方が大好きですよ!! もしこれから作者が美鈴を暗黒面に落としたらファンはブチ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ