表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/106

魔王と勇者 少年と少女

「はわわーこれどうなっちゃうの? 魔王になっちゃったの?」


「う、うん。多分悪い神に騙されたんだ…。いや、騙されてないか。願ったのはユグドだし」


「わかります、世界を恨む気持ちを。私には彼の気持ちがわかる」


 大切な人を失った悲しみを知っているレイナは、涙を流していた。

しかし最後まで見届けようと真っすぐと映像を見つめる。



◇新訳ラグナロク続き


 魔王となったユグド。


「ユミル…」


 牢に触れて、鉄格子を簡単に引きちぎる。

まるで力を入れていないようにも見えるほどの力。


 警備の者達が止めようとするも、なすすべなく殺される。

牢から出て真っすぐ向かうのはユミルが燃やされた場所、生贄の祭壇。


 そこで彼が見たものは、燃え尽きた灰のみ。

それを見た彼の中で何かが壊れた。


「うわゎぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 力を解放したような衝撃であたりがすべて吹き飛ぶ。


「殺す、殺す、殺す」


 正気を失い、ただ目に付くすべてを滅ぼした。

神官も、ユミルを助けなかった人間達も。


「憎い、憎い、憎い」


 怨嗟の言葉を吐きながら人類を滅ぼそうと心に決めた。

自分から大切な人を奪った奴らすべてに復讐するために。


 彼の力は、魔王と呼ぶにふさわしかった。


 彼は二つの力を持っていた。


 ひとつ、すべての魔物は彼の命令を聞き、彼を崇め、彼を護る。

フェンリル、ヨルムンガンドも例外ではない。

彼のもとにすべての魔物は集まり、個であった魔物達は一つの大きなうねりとなって世界を飲み込む。


 ふたつ、彼の支配下にいる魔物の力はすべて彼のもの。

これが彼を最強たらしめる力。

すべての魔物の合計ともいえる強大な力を魔王は持つ。

その圧倒的な力の前では彼を倒すことは不可能だった。


 魔王と銀狼と大蛇。

ユグドとフェンリルとヨルムンガンドの侵攻を止めることは人間達にはできなかった。


 世界は絶望し、戦意は喪失した。

あとは滅びを待つだけだと誰もが思った時それは現れた。


 全身を金の鎧に身を包み、神々しいまでの光を纏う。

天から舞い降りたその戦士は、さらに眩い一振りの剣を持つ。


 顔は甲冑で隠れており見ることはできないが、その聖なる光は人々の心まで照らした。


 その戦士は神に使わされし神の兵。


 滅びの中に現れた一筋の光。

人々は魔物の軍勢に立ち向かう勇気をもらう。


 魔物と戦う勇気を与えてくれた戦士。

勇猛果敢なその鎧の戦士をこう呼んだ。


 『勇者』と。


 勇者の力は圧倒的で、魔物を次々と滅ぼした。


 人々の作戦は、魔王を倒す前にフェンリルとヨルムンガンドを滅ぼすこと。

魔王の弱体化を図るためだ。


 そしてヨルムンガンドとの死闘が始まった。

海を割り、大地を割り、天を割る。

その戦いは、天地を引き裂くほどの戦い。


 しかし勇者は一人ではない、神器を持った多くの兵士と共にヨルムンガンドに立ち向かう。

最後には、勇者の輝く一振りによりヨルムンガンドは首を一刀された。


 二柱の一つが折れた。


 そしてもう一柱、狼の魔物。


 フェンリルとの闘いは、暗闇の中行われた。

その魔物が現れると太陽が月に食われ、世界を闇が包む。

その暗闇の中次々と戦士達は食い殺されて、悲鳴だけが闇に消える。


 唯一勇者の輝きは衰えることなく光輝き、フェンリルの影を照らし出す。


 三日三晩続いたその暗闇の中、多くの他の神兵が犠牲になった。

しかし、最後にはフェンリルの喉を勇者の剣が切り裂いた。


 人類の反撃は、勢いを増し世界中の魔物が次々と討伐されていく。


 最強の二柱は二つとも折れた。


 そして最後に唯一残った魔物達の王。

これを倒せば世界は救われる。

だから立ち向かうのは当然その鎧の剣士。

 

 勇者と魔王の戦いは始まった。


「いらないこんな世界…彼女のいない世界なんて」


 戦いの中魔王は正気を取り戻しつつあった。

しかし勇者はなにも語らない。


 聖剣と魔剣の火花が散る。


 その戦いに他の人間はついてこれなかった。

衝撃だけで人が死ぬ、


 地形を変え、大陸を割り、世界の地図を作り変えた。


 どれだけ戦ったかはわからない。

しかしお互い体力は消耗する。

既に限界を迎えていた。


「わ…た…しが、あなた…をと…める」


 勇者は最後の力を使う。

自らの命と引き換えに力を得るスキルを。


 魔王も使う。

魔王だけに許された最強のスキルを。


 衝撃でそこには巨大な穴ができた。

大地が二人の戦いの余波で消し飛んで、見渡す限りの穴ができる。

海水が徐々に穴をふさいでいく。


 その穴の中央に立つ二人。

 

 両者の胸を、剣が貫く。

それは魔王の剣と、勇者の剣。

それぞれが貫いたのは、お互いの胸。


 両者血を吐きながら意識を取り戻す。

死の間際、二人は正気を取り戻した。


「俺は負けたのか…。まだ全員殺していないのに…」


 まるで何かにとりつかれたように戦ってきた二人。


 その最後の一瞬だけ感情を取り戻した。


 直後、黄金の鎧が割れる。

勇者の顔があらわになった。


 その顔を見た、魔王の瞳に生気が戻る。

その目はまっすぐと勇者の目を見つめていた。 


「ごめんね、ユグド」


 その目は何度も何度も見てきた最愛の人の目。

彼女のために戦ってきたのに、鎧を破って現れたのはその彼女。


 彼女のために戦ってきたのに、貫いているのはユグドの剣。


 生贄にささげられた彼女は、神の国に受け入れられた。

半神となり、聖剣と鎧の神器を与えられた彼女は勇者の力を覚醒させる。


 ただしその力と神器の引き換えに魔王を倒すことを契約する。

自分のせいで魔王となった愛する人を止めるために、ユミルは承諾した。

世界を滅ぼしかけた魔王を必ず討伐することを神に誓い、契約を交わし意識を手放した。


 死の間際その契約が果たされた。

つまりユグドを打ち取ったと見なされて契約は終了し、正気を取り戻す。


「ユミル…どうして…」


「ごめんね、ごめんね」


 少女の血にまみれた手が少年の頬をなでる。


「私のせいで、ごめんね。こうするしかできなくて…。ごめんね」


「違う、俺は…違うんだ。君に…君を殺した奴らを…」


 正気を取り戻した少年。

しかし両者の傷は深くすでにもう命の灯は消えようとしていた。


「わかってる。ごめんね、ユグド…恨まないで、世界を」


「そ、そんなのできない! できないよ、ユミル!」


「ごめんなさい…もうお別れみたい…愛している、ユグド。いつまでも」


「俺も! 俺も愛してる。俺もずっと君を!」


 二人は血まみれの身体で抱き締めあう。

最後には微笑みをかわし、口づけをかわす。


 画面は暗転し、映像は終わる。

その意味するところは、二人の死。


 最後に二人が何を思って死んだのか、それはわからない。


 世界への憎しみか、自ら愛する人を手にかけた憎しみか、後悔か、懺悔の気持ちか。


 魔王が去った世界には、平和が訪れ人類は繁栄する。


 人々は歓喜する。

死んだ二人とは対照的に。


これが神話ラグナロクの物語。


 少年と少女の悲しく儚い戦いの物語。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ”ラグナロク”小話は、余分というか、無い方が良かったですね。 陳腐過ぎて、これまでの面白さが台無しです。 後の伏線かもしれませんが、これでは、、、
[一言] そもそも生贄が無ければ魔王発生も無かった、神々とやらが増えすぎた人間と魔物を間引きし、残った人間から妄信という名の篤い信仰を得る為のマッチポンプの役者として選ばれたのが2人というわけか、救え…
[一言] 人も神もクズだなというストーリーですね。細かい設定があるかもですが。 救われないよぉー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ