表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/106

お風呂会はサービス会

「おにいちゃん、火の準備できた?」


「もうちょっと!」


 くねくねするレイナを不思議に思いながらも僕は火の準備をする。

炭が焼けるぱちぱちという音が心地いい。


「はい! 野菜切りました先輩!」


「……これは? 俺の知ってるBBQの野菜じゃないが?」


 美鈴が切られた野菜を運んでくる。

しかし普段から料理をしない美鈴が切った野菜たちは、あまりに歪だった。


「なんですか? 包丁で切るだけ…ですよね?」


「ピーマンは縦に切るもんだろ、なんで横? それにこれなに? らっきょ?」


「玉ねぎ…」


「玉ねぎなのか…」


 真横に切られた不格好のピーマンと、むかれ過ぎてもはや一口サイズの玉ねぎ。

そういえば、今までこいつに一切料理させなかったな。


「あ、味は保証しますから!」


(そりゃ、味は変わらんだろう。調理してないんだから)


「はーい、お兄ちゃんお肉だよー」


 すると奈々が不格好な野菜などどうでもよくなるような高級肉を皿に盛った。


「すごい霜降りだな…」


「へへっ。今日は引っ越しお祝いだからね」

「美味しそうですね…」

「うわー高そうー、食べ放題じゃお目にかかれないお肉だー」


 そして始まるBBQ。

すでに日は落ちているが、バルコニーはライトに照らされて明るい。

この最高層では、羽虫すら現れないため快適なBBQライフを過ごせる。


「なにこれ! とろけるんだけど!」

「奈々! ご飯お替り!」

「私もいいですか?」

「はーい、10合炊いたからいくらでもどうぞ!」


 霜降り肉が次々と焼かれていく。

美鈴が切った歪な野菜たちも焼いてみると味は変わらない、当然だが。


「BBQか…。実際初めてだな」

「そうだね、お母さん仕事で忙しかったしそもそも貧乏だったし」


 剣也と奈々はBBQは初めて。


「私も。でもなんか、すごい幸せな気持ち」

「わかります。すごく温かい…」


 ここにいる4人。

奇妙な縁で一緒に暮らすことになった4名の共通点。


 剣也と奈々は父を亡くし、母は闘病中。

美鈴は、両親を知らず、レイナは両親を失った。


 ならばこのギルドが、みんなの居場所になれるはず。

血は繋がっていないけど家族にだってなれるはずだ。


「そうだな…家族…か」

「なんかいいね、お兄ちゃん。こういうの」

「うん、ほんとほんと。我が世の春が来たって感じ。まじで美味しい。私ここの家の子になる」

「私も剣也君と家族に…」


 美鈴が肉をむさぼり、ハムスターのように頬を膨らませる。

レイナはもじもじ何か言っていたが小声だったのでよく聞こえない。


「美鈴、最近学校はどう? 中学から変わった?」

「うざい男によく絡まれるぐらいかな、もう5回ぐらい告られた…高校は私服でいいとこが気に入ってるぐらいかな」

「相変わらずモテるね」

「まぁねーでもガキには興味ないんだよねー。ねぇ先輩、私モテるんです。どう思います?」

「なんで僕に言うんだ? そりゃモテるだろ。可愛いんだから」

「もっと! もっと頂戴! かわいいって! もっと言って! 承認欲求を満たして!」

「アホ」「あう!」

「剣也君、私はどうですか?」

「レイナは可愛いというか、綺麗って感じだけど…」

「可愛いと綺麗…どっちがいいんだろう…どっちを目指すべきですか?」

「目指すとかあるのか?」

「お兄ちゃん私は?」

「お前は兄からの可愛いが欲しいのか? 兄から見ても美人だよ」

「知ってる」

「なんで聞いた!?」


 他愛もない会話。

でもこんな日常こそが求めていたもの。


 美味しい焼肉会も終わり、腹が満たされる。

ならば次は身体を綺麗にするためにお風呂に入らなくては。


「じゃあ僕がBBQコンロ片付けておくよ」

 

「了解! じゃあ、美鈴、レイナさん片付け手伝ってくれる?」


「りょ!」「わかりました」


 そして剣也を残し、3人は部屋に戻って皿などを片付ける。


「美鈴さん、奈々さん、お話があります」


「ん-?」「なんですか?」


「先ほど剣也君が、みんなで一緒に露天風呂に入りたいと…」


「まじですか?」「ほ、ほんと!?」


(小学生以来だけど…。ま、まぁあの露天風呂めちゃくちゃ広いから4人でも行けると思うけど…)


「はい、私がいいですよと言ったらすごくうれしそうでした」


「先輩ハーレムを望んでるの!? 英雄色を好むってやつなの!?」


「やだやだ! 私、高校生だよ? お兄ちゃんとお風呂なんか入る妹いないよ!」


「今日、たくさん我儘きいてくれたのに?」


「うっ」


 奈々としても買いすぎたと少しだけ後ろめたい気持ちが、背中を押す。


「ま、まぁ今日ぐらいは贅沢させてもらったし背中ぐらいは流してあげでもいいか…」


 しぶしぶ奈々も了承した。


 驚きながらも一同は了解する。

妹は、家族として、妹として、少しの後ろめたさから。

美鈴は、そもそもの性格が、自分にとってもご褒美として。

レイナは、剣也に明確な好意をもって、恥ずかしくも望まれることはしてあげたいという奉仕の心。


 レイナは、すでに自覚している。

剣也に対するこの気持ちはきっと恋なのだろう。

本来は、もっと幼い頃に自然と気づいて、自然と知るはずだった感情。


 だからこれが恋かは確信していない、でも。


(剣也君と一緒にいたいし、剣也君に触れたい…多分これが恋って感情なのかな?)


 わからなくても、なんとなくわかる。

きっと自分は彼に恋してしまっていることを。

でもそれを伝えて拒絶されたら生きていけないほど傷つくこともわかる。


 この居心地がよくて暖かい家族を失うことが怖い。

だから今はまだ秘めておく。

もちろん今日みたいにぽろっと言葉がでることはあるだろうが。


 いつか剣也から求められるのを夢見て、淡い初恋をレイナは秘める。


「コンロ片付けたよ! それで相談なんだけどみんな露天風呂使いたいよね? 入ってもいい?」


「先輩本気なんだよね?」「お兄ちゃん…入りたいんだよね?」

「先ほど私から剣也君の気持ちは伝えておきました」


(それにしては、二人とも何か覚悟を決めたような目をしてるけど…露天風呂入るだけだよ?)


「う、うん。二人は入りたくないの?」


「私は入ってもいいですよ!」「私も今日ぐらいは…ね?」


 なんかかみ合っていないような気もすると首をかしげるが露天風呂の魔力には逆らえない。

お湯を貯めて着替えをもって中のお風呂へと向かう。

中のお風呂で体を洗って、扉を開き露天風呂へと通じるようだ。


「じゃ、じゃあ先に入るからね」


 剣也はお風呂に赴く。

そして残された3人も目を合わせて頷いた。


 さぁお風呂会(サービス会)を始めよう。


「うぉ!? このシャンプー凄い良い匂いがする。それに…これがトリートメントか」


 着替えてお風呂に入る剣也はシャンプーとトリートメントが別れていることに驚く。

いつもリンスインシャンプーで髪をギシギシにしてきた剣也にとって初めての体験。


「すごい…さらさらだ…野良犬みたいな髪がさらさらになった…」


 体を洗い、汚れを落とす。

虫のエキスもすべて取れて体は清潔。


「さてと、いよいよだな…」


 そして扉を開くと目の前には海と巨大な塔と夜空に輝く星々。

すでに時刻は21時を回っている。

大きな月もでており、あとは冬のように寒ければ完璧だったのだがそこまで贅沢は言ってられない。

そして…。


「あ、あふぅ♥」


 思わず変な声が出てしまう。

いつもシャワーで済ませていた剣也にとって湯舟は久しぶり。

ましてや、まるで温泉のような大きなお風呂と綺麗な景色、腹も満たされている。

最高と言ってもいいだろう。


「少しずつだけど実感してきたなーここが僕の家なのか」


 10畳一間から一躍億ション、セレブ生活。

まだセレブ生活というにはお金をうまく使えてないが、それでもすでにお金を気にする生活からは解き放たれた。


「最初は戸惑ったけど、買ってよかった。みんなも喜んでくれているし。はぁぁーなんか眠くなってきたな」


 温かい湯舟でうとうとしてきた剣也は目を閉じて少し眠る。

揺れる波にぷかぷかと、気持ちよくなって目を閉じる



ガチャッ。


 そして目を覚ますのは、扉が開く音。


「へぇ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「へぇ?」だと「へぇ?(暗黒微笑)」って感じだから「へぁ?」の方がマヌケ感が出ていいと思います! [一言] 多大な誤解がある!お風呂に入るってのは一緒に入るってことではない!!
[一言] 装備を具現化してなんとかこの場を乗り切ろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ