19階層の大ボス
「無理無理無理無理むりぃぃぃぃ!!!!!」
美鈴が今日一番の悲鳴を上げる。
大樹の中に入った僕達が見た光景は、木の内側をくりぬいたような巨大な空間。
そして見渡す限りに張り巡らされるクモの巣。
つまりこの階層のボスは…。
「見方によっては可愛いくないか? あの巨大蜘蛛」
巨大な蜘蛛だった。
「剣也君、今日のあなたとは壁を感じます」
きゅるるっとしたクリクリの8個の大きな目で見るクモ。
その大きさは、アフリカ象ぐらいはあるだろうか。
見方によっては可愛い気もするが、レイナに軽蔑された。ありえないと。
しかしあの巨体にして、蜘蛛本来の俊敏性を備えているとしたら脅威だろう。
確か名前は、ビッグスパイダー。
そのまんまって感じの名前だったな。
確かあの糸が厄介と愛さんには聞いた。
並みの攻撃力では引きちぎることはできないと。
「まぁ僕が一人で片付けるよ、どうせ二人は嫌なんだろう?」
「先輩! はやく駆除してください」「頼みます」
(この子達はほんとに……ただの害虫駆除じゃないんだぞ)
やはり二人とも戦う気はないようだ。
剣也に頑張れと壁まで下がる。
剣也が頭上にいる蜘蛛とどうやって戦おうかと思案する。
するとその巨大蜘蛛が剣也に糸を吐く。
避けようと思えば避けれたが、剣也はひらめく。
そしてわざと攻撃を受ける。
まるで避けそこなったように受けた剣也の足元に糸が巻き付く。
剣也の動きを止め、その様子をみた蜘蛛は歓喜の声を上げ、嬉しそうに喉を鳴らす。
「ギギギッ♪」
(やっぱり結構可愛いよな…)
剣也はその様子を見て再度思う、殺すのは少し気が引けるなと。
自らの足に糸が絡みつくが全く動じていない。
全く動じない剣也を不思議に思いながらも必勝パターンに入った巨大蜘蛛は剣也の前に飛びついた。
「ギギギッ♥」
(よかった、やっぱり糸で捕まえたら降りてくるか)
捕まえたと思った巨大蜘蛛は、動けない剣也に噛みつこうと目の前まで下りてくる。
今から美味しい餌にありつけると嬉しそうに涎を垂らし、8つの目で剣也を嘗め回すように見る。
「ごめんな…」
ブチブチブチ!
「ギギギッ!!??」
剣也はまるで何もなかったかのように歩き出す。
糸で絡めとられたはずの足は、まるで何もついていなかったように前へ踏み出す。
愛さんから聞いていたとおり、攻撃力が100を超えると引きちぎれるらしい。
剣也の攻撃力は、ステータス錬金を使用しなくても1000を超えている、
そして斬破刀を抜きながらまるで無人の荒野を歩くがごとく悠然と進む、そして…。
知力と防御力を素早さと攻撃力に割り振った。
「ギィ!?」
一閃。
目にもとまらぬその速さで蜘蛛を一閃し、一刀し、両断する。
剣也が刀を鞘に戻す音と同時に、半分になった蜘蛛が灰になって消える。
直後流れるアナウンス。
『19階層の階層ボスの討伐を確認しました。20階層へのゲートを解放します』
それと同時に宝箱が現れる。
剣也は階層ボスを討伐した。
まるで有象無象の羽虫がごとく、一刀のもとに切り伏せる。
「はぁ、なんかあまりうれしくないな…」
とはいえ少しだけ可愛いと思ってたので気持ち的には落ち込む。
そんな落ち込んでいる剣也の脳に何かが聞こえた。
『はやく…』
「え?」
(なんだ? 今何かが脳に直接聞こえたような…)
剣也の脳にアナウンスが流れた。
聞きなれたアナウンスの声、しかし確かに感情が乗っていたような、話しかけてくるような声だった。
いつも無機質にシステム音のように告げるだけのアナウンスから初めて話しかけられた気がした。
その直後。
「おぉ!? じ、地震か!?」
ダンジョンが揺れた。
揺れはすぐに収まるので大した地震ではないだろう。
震度4ぐらいだろうか、大したことはない。
(しかしダンジョンで地震なんて初めてだな…)
『もう時間がない…封印が…』
再度アナウンスが流れる、まるで剣也に嘆願するように。
切実に、まるで切羽詰まったような、追い詰められているようなそんな声で。
(やっぱり気のせいじゃない!)
「美鈴聞こえたか!?」
「なにが?」
(僕だけに聞こえる?)
「いいえ、私にも聞こえました。封印がと…」
「レイナには聞こえたか…なんだったんだ?」
しかしそのアナウンスがそれ以上剣也達に話しかけることはなかった。
「わかりません。まるでダンジョンが話しかけてきたような…」
「……そうだな、でも今はよくわからないし、わかる方法もないか」
何もわからない剣也達。
とりあえず後で愛さんにそんな現象があったかだけは聞いてみようと思う。
とりあえず今は銅の宝箱を開き20階層に行くことにした。
考えたって分からないことは仕方ない、今はお腹も減ったし早く帰りたいし。
そして剣也は宝箱を開く。
中には、愛さんから聞いていた通りの先ほどの蜘蛛の装備。
部位は足のようだ。
先ほどの蜘蛛と同じ皮膚でできた靴が箱から出てきた。
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装備説明
・巨大蜘蛛の革靴Lv1(Lvにより+5)
Dランク
能力
・あらゆるものに吸着することができる靴
・素早さ+10
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(ほう…吸着か…壁とかを歩けるようになるのかな?)
Bランクへと進化したらもしかしたら帝装備よりも優秀かもしれない。
ゴブリンの耳飾りも優秀な能力だったのでとりあえず進化させてみようと持ち帰る。
階層ボスの装備は、とりあえず全部進化させてみようと考える剣也。
今は錬金の種があるため周回する必要もない。
それに100回周回して、またエクストラボスのようなイレギュラーが現れても困る。
「とりあえず20階層へ行って、今日は帰ろうか」
「やっとこの階層から解放される」
「とても長く感じました。20階層以上は私も初めてですね」
そして解放された赤のゲート。
大樹の真ん中にゲートが現れる。
そして剣也達は、次のステージへと赴いた。
20階層からどんなエリアが広がっているかは知っている。
知っているが初めて見たその光景に剣也達は目を奪われた。
「これが20階層……聞いていた通りだ、いや想像以上だな」




