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第二十四話 転校生の正体

 青葉あおばが転校してきたその日の夜。

 平日ではあったが、昌樹まさき大樹ひろきも定時に帰宅してきて、久しぶりに一家四人での夕食となった。

「やっぱり、お義父(とう)様とお義母(かあ)様、そして大樹さんが揃っての夕食は楽しいです!」

 義父母にゴマをすっているのではなく、ずっと祖母と二人きりで食事をしていた花は、大勢が食卓を囲んでの食事風景に憧れていたのだ。

「そのうち家族が増えるだろうから、もっと楽しくなるわよ」

 竜子たつこの言っている意味が分かった花は少し照れて、隣の大樹を見た。

「大樹さんは、何人くらい増えたら良いって思ってる?」

「そうだなあ。自分が一人っ子だったから最低でも二人は欲しいね」

「ああ、ごめんね。昌樹さんがその頃、忙しくてねえ。すぐに寝ちゃったからさ」

 竜子の台詞に「ごほごほ」とむせた昌樹が、「と、とにかく、私たちも早く孫の顔が見たいねえ」と竜子に話を振ったが、竜子は「でも、高校在学中は結婚をしていることを秘密にしなきゃいけないし、飛鳥家総帥夫人として恥ずかしくないように大学も卒業するとなると、五年先までは無理かしらねえ」と残念そうな顔を見せた。

「でも、花が来てくれたんだし、新しく娘ができたと思えば、しばらくは退屈しないでしょ?」

 大樹の言葉で、昌樹と竜子の笑顔が復活した。

「それもそうね。一年後には、花ちゃんとも一緒にお出掛けできるのも楽しみね」

 竜子の本当に楽しげな顔に、花も笑顔になった。



 食堂から、自分達の部屋に戻った大樹と花は、ソファに並んで座って、今日、あった出来事をお互いに話した。

「今日、うちのクラスに、また転校生が来たの」

「今の季節に珍しいね」

「そうなんだ。でも、その子、勉強もスポーツも万能って感じで、スタイルも良いけど、謙虚で本当に良い子なんだよ」

「へえ~。花は、早速、その子と友達になったのかい?」

「うん! 青葉ちゃんって言う子なの」

「青葉……」

 大樹が戸惑うような表情をした。

「どうしたの?」

「い、いや、何でもない。最初にできた友達も、みどりさんって言ったっけ?」

「あっ、そうだ! 今まで全然気にしてなかったけど、みんな、花壇で集まっているような名前だ!」

「まあ、名前はたまたまだろうけど、花にそんな友達ができて良かったよ」

「うん!」

「ちなみに、みどりさんは根本ねもとさんだったよね?」

「大樹さん、よく憶えているね」

「花みたいに忘れん坊じゃないからね」

「そ、そんなあ……、って、反論できないかも」

「ははは。それで新しい友達の青葉さんの名字は何て言うんだい?」

如月きさらぎさんだよ。格好いい名前だよね」

「如月青葉さんか。まるで芸能人みたいだね」

「さっきも言ったけど、見た目も芸能人に負けていないほど格好いいから、名は体を表すって本当なのかも」

「その如月さんというのは、どこに住んでいるのか訊いているかい?」

「まだだけど……、どうして?」

「花の身の安全のためだよ。最初からいる生徒なら問題はないんだろうけど、まるで花を追い掛けてきたみたいに転校してきたその子のことが気になってね」

「青葉ちゃんは女子高生なんだよ! そんな変な人な訳がないじゃない!」

 本気で怒った花を大樹は優しい微笑みを絶えさずに見つめた。

「そうだね。ごめんよ、花。僕が勘ぐりすぎたね」

 優しい笑顔のままで謝った大樹の態度に、花の心もすぐに落ち着いた。

「う、ううん。大樹さんは私のことを心配してくれて言ったんだよね。こっちこそ、大きな声を出して、ごめんなさい」

「花」

 大樹が隣に座っている花の手を握った。

「花は、ちゃんと僕にも自分の考えや気持ちを伝えてくれるだろう? それは、僕にとって、すごくうれしいことなんだ。お互いに遠慮しないで言いたいことを言い合う。それが夫婦なんだもんね」

「う、うん」



 青葉が転校してきて、一週間が過ぎた。

 青葉は、相変わらず口数は少なかったが、花やみどりと常に一緒にいることが多くなった。

 というよりも、人とコミュニケーションを取ることが、あまり得意ではないようで、積極的に話し掛けてくれる花やみどり以外のクラスメイトとは、ほとんど話をしなかった。

 そして、放課後。

 花は、学校から歩いて十五分というはるの自宅から通学しており、みどりと青葉はその道すがらにある地下鉄の駅から電車で通っていて、その駅までの十分間が、みどりと青葉と一緒に登下校する時間だった。ちなみに、みどりと青葉は、進行方向が逆の地下鉄に乗るそうだ。

 主に、みどりが機関銃のごとくしゃべって、花がときどき合いの手を入れて、青葉がそれを黙って聞いているというパターンができあがっていたが、青葉も穏やかな顔つきで、居心地が良さげであった。

 みどりと青葉が地下鉄の駅に着くと、花は二人に手を振って、階段を降りる二人を見送った。

 二人の姿が見えなくなると、また、歩き出した花は、すぐに春の家に着いた。



「ただいま!」

 元気に言って玄関の引き戸から家の中に消えた花を、電柱に身を隠しながら、地下鉄の駅に降りて行ったはずの青葉が見つめていた。

「あれが花さんの自宅なのか? しかし、ここから飛鳥本家もそれほど遠くないはず。カムフラージュの可能性もあるな」

 そう呟いた自らの背後に人の気配を感じて素早く横っ飛びをした青葉は、スカートの中、太ももに仕込んでいたナイフを右手に握っていた。

 そこには、いつもの黒服姿の亀谷かめたにがいた。

「見つけたぜ、青葉!」

「貴様は……、確か、フェニックス・シンジケートの」

「憶えていてくれて光栄だ」

「何の用だい? って訊くのも野暮か」

 青葉はナイフを握り直し身構えた。

 しかし、亀谷は、両手を広げて、敵意がないことを示した。

「待て待て! 今日はてめえを捕らえに来たんじゃねえんだ。話がある」

「話? 何の話だ?」

「こんな所じゃ何だ。どっか、人目につかない所に行こうじゃねえか」

「むざむざ殺されに、人目のない所に行く馬鹿がどこにいる?」

「ちったあ、俺の言うことを信じろよ」

「今までさんざん、私の命を狙ってきた貴様の言うことが信じられるか?」

「そりゃあ、てめえが俺たちに楯突く稲山会の命令を受けて行動してたからだよ。しかし、青葉。今、てえめは稲山会とは手を切ってるんじゃねえのか?」

「どうして、そんなことが言える?」

「フェニックス・シンジケートの情報収集能力をナメてもらっちゃ困るぜ。最近、てめえは稲山会とは、まったく没交渉になってんじゃねえのか? いや、そもそも、てめえが女子高生になりすましていること自体が変だろ?」

「失礼だな。私は、本当にまだ十七歳なんだ。なりすましてなんていないよ」

「現役女子高生だと言いたいのか?」

「ああ。もっとも、大卒程度の知識は、既に詰め込まれているけどね」

「なら、もう高校に行く必要もねえじゃないか」

「……私の勝手だろ」

 答えづらいことを訊かれたようで、青葉は少し口ごもった。

「学校に貴様の標的がいるのか?」

「さあね。いたとしても話す訳がないだろ」

「そりゃあ、そうだわな。そんなことをぺらぺらとしゃべるような青葉じゃねえよな」

「とりあえず、私は貴様と話すことは何もない。帰らせてもらうよ」

「まあ、待てよ」

「何だ?」

「話があると言っただろ。もっとも話があるのは、俺じゃねえけどな」

 そう言うと、亀谷は体をずらし、その後ろに立っていた人物が青葉から見えるようにした。

「やあ、初めまして、だね?」

「誰だい?」

「おやおや。てっきり、僕が標的になっているかと思っていたけど、そうじゃないらしいね」

「亀谷と一緒にいる、……標的?。……まさか?」

「飛鳥大樹だ。よろしく」

 フェニックス・シンジケートの実質的トップとされている飛鳥財閥の次期総帥がいきなり現れて、さすがの青葉も唖然としていた。

「飛鳥財閥の次期総帥が私の前に立つなんて、不用心にもほどがあるんじゃないのかい?」

「君が飛鳥を狙っているのならね。でも、君からは殺気を感じないよ」

「……」

「亀も言ったけど、こんな所で立ち話もできない。僕たちについてこないかい?」

「どこに行くんだい?」

「フェニックス・シンジケートの本部さ。生きてそこに行けることは、なかなか、ないよ」

「冥土の土産にでもしろということかい?」

「君を冥土に送るのは忍びない。僕らは君を始末するつもりはないよ」

「じゃあ、何のために?」

「君をスカウトするためさ」


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