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第二十三話 物静かな転校生

「稲山会の残党が見せていた不穏な動きも、これで、ほぼ、封じ込めやした」

 飛鳥総合企画本社ビルの地下にあるフェニックス・シンジケート本部の指令室で、大樹ひろきは亀と鶴から報告を受けていた。

 首都東京に覇を唱えていた暴力団稲山会も、同じく首都東京を地盤とする暴力団風月会とそのバックに付いたフェニックス・シンジケートとの抗争に敗れ、壊滅状態になっていた。

 一部の残党が雪辱を果たそうと暗躍していたが、「亀」こと亀谷かめたにが率いる亀グループの攻勢により、そのメンバーのほとんどが闇から闇に葬り去られていた。

「ほぼ、とはどういうことだ?」

「実は、一匹、行方が分からない奴がいやして」

「取り逃がしたのか?」

「いや、我々が残党狩りを始めた時には、既に行方不明になってやした」

「どんな奴なんだ」

「こいつでさ」

 亀がテレビのリモコンのような機械を操作すると、壁にはめ込まれた画面に一人の若い女性が大写しにされた。

「稲山会では、というより、この業界じゃ有名な暗殺者ヒットマンだった奴です。名前は如月きさらぎ青葉あおば

「如月青葉……。まだ、若いようだが」

「へい。年の頃だと十七、八くらいかと」

「そんな年齢なのに暗殺者ヒットマンをしているのか? それも名うての?」

「そうなんすよ。鶴が調べてくれたところによると、父親は稲山会の下部組織にすぎない小さな団体の組長だったようですが、母親は産後の肥立ちが悪くてすぐに死亡。父親も十五年前の内紛で身内に殺されてしまったようです。両親を失った青葉は、稲山会本部に引き取られ、殺人マシーンとして徹底的に育て上げられたようです」

「十五年前だと、この子が二、三歳の頃じゃないか」

「ええ。おそらく、その頃から何かしらの素質を見せていたんでしょうな。そして、その見立ては間違いなかった。こいつの殺しの腕前は、あっしも保証しますぜ。うちに欲しかったくらいですわ」

「そんな奴が行方不明になっているのか? 物騒だな」

「可能性としては小さいと思いやすが、稲山会の内紛絡みで既に処刑されているのかもしれやせん。それだけ、こいつの居場所は掴めないんでさ」

「僕たちを密かに狙っている可能性は?」

「否定できやせん。大旦那様とドンの護衛を更に強化しておきます」

「うむ。念のため,はなの護衛も強化しておいてくれ」

「了解でさ」



「ねえ、花ちゃん」

 今日も元気に登校した花に、前の席から、みどりが話し掛けてきた。

「何?」

「花ちゃんに続いて、また、このクラスに転校生が来るらしいよ」

「そうなの?」

「うん。うちのクラス、そんなに生徒が少ないわけでもないのにどうしてだろうね? ちなみに席は、たぶん、花ちゃんの隣だと思うよ」

 窓際の一番後ろの席の花の席の隣に、今朝になると、新しい机と椅子が持ち込まれていて、そんな予感はしていた花だった。

 などと話していると、担任が一人の女生徒と一緒に教室に入って来た。

 担任と並んで教壇に立った女生徒は、背が高く、ショートカットで、何かスポーツをしていそうな体付きであった。

「うちのクラスに、また、転校生が来ました。では、自己紹介を」

「如月青葉と申します。よろしくお願いします」

 体のキレが良さそうに頭を下げた青葉に、「それでは、あの後ろの席に座ってください」と担任は花の横の席を示した。

 青葉は「はい」と言って、まるでモデルのように姿勢良く歩いてくると、隣の花に「よろしくお願いします」とニコリともせずに言った。

「こちらこそ! 私は飛鳥花と言います」

「飛鳥……」

 その名を聞いて、青葉は戸惑うような表情を見せた。

「何か?」

「い、いえ」

 青葉はすぐに表情を元どおりにして,席に着いた。



 一時限目が終わり、休み時間になると、三年三組の生徒は一斉に席を立ち、体操服を持って、二時限目の体育の授業のため、体育館に向かった。

 席が近くの花とみどりが青葉を体育館まで案内がてら連れて行くことになった。

 歩きながら、みどりが青葉に話し掛けた。

「青葉ちゃんは、どこから転校してきたの?」

 人見知りとは無縁のみどりから、いきなり親しげに話し掛けられて、青葉も戸惑った表情を見せた。

「あ、青葉ちゃん……」

「ああ、ごめん。私、名前で呼んじゃうくせがあるんだ。嫌だったら、如月さんにするよ」

 みどりが焦って言ったが、青葉も「い、いえ。今まで『ちゃん付け』で呼んでもらったことはなかったので、ちょっとびっくりして」と少し照れているようであった。

「じゃあ、青葉ちゃんと呼んでも良い?」

「はい」

 花もみどりと転校初日には仲良くなった。お嬢様学校でも、みどりのような気取らない性格の同級生ができたことも、花にとっては幸運だった。

「それで、もう一回、訊くけど、青葉ちゃんはどこから転校してきたの?」

「同じ東京ですが、もう少し郊外の方からです」

「ふ~ん。引っ越しの関係?」

「そうです。父親がフランスに海外転勤になって、母親もそれについて行ったものですから、昔、住んでいた、この近所に一人で暮らすことにしたのです」

 姿勢良く話すその態度からは、あまり冗談とかを言う雰囲気ではなく、真面目一辺倒という感じであった。

「へ~、そうなんだ。私なら親と一緒にフランスに行くなあ。花ちゃんは?」

「私は、やっぱり日本が良いかな」

「そう? セーヌ川のほとりを普段着で散歩とか憧れちゃうなあ」

 などと話ながら、体育館の更衣室までやって来た。

「青葉ちゃん、卑怯すぎる!」

「えっ?」

 体操着に着替えていたみどりが青葉に突っ込んだ。

 花とみどりは、女子高生の平均的な体型であったが、青葉は背も高く、すらりとした足に出るところは出ているモデルのような体型であった。

「そのスタイルがだよ! ねえ、花ちゃん」

「うん。素敵だよね」

「あ、ありがとうございます」

 照れて頬を染める青葉が可愛く見えた。

 今日の体育はバレーボールだった。

 最初は、花、みどり、そして青葉の三人でグループになって、トスやレシーブでボールをつなげていくことをした。次に、生徒全員が順番に、体育教師がトスしたボールをスパイクすることになった。

 自称運動音痴のみどりは華麗に空振りをし,そこそこの運動神経を持っている花はきれいにスパイクを決めたが,次の青葉は,まるでプロのバレー選手のように高くジャンプしてコートに突き刺すようなスパイクを打ち,体育教師を始め,生徒全員があっけにとられた。

 その後、体育教師が九人プラス九人の生徒を選抜して、試合を行った。

 みどりは落選したが、選ばれた花と青葉は同じチームになり、長身を生かした青葉のプレイで、花のチームが快勝した。



 そして、昼休み。

 みどりが青葉も誘って、学生食堂に三人でやって来た。

「青葉ちゃん、運動も勉強も得意なんだね。ほんと、羨ましいよ」

 少し落ち込みながら、みどりが嘆いた。

 昼休み直前の数学の授業では、生徒全員が解けなかった問題を、青葉がすらすらと解答を黒板に書いたのだ。

「い、いえ。あれはたまたま解けたんです」

「いやあ、あのチョークのよどみのない動きは、もう頭の中で計算が完璧にできていたはずだよね。あ~あ、世の中って不公平だあ」

 落ち込むみどりを見て、「でも、みどりちゃんは誰とでもすぐに友達になれる特技を持っているじゃない。私もみどりちゃんと友達になれて、うれしかったよ」と、花が本心を語った。

「そ、それは私もそう思います」

 青葉が少し照れながら、花に賛同した。

「私も転校初日から、こうして親しくつきあっていただけるとは思ってもいませんでした」

 少し恐縮しているように話す青葉に、「だって、高校生活もこの一年しか残っていないだもん。せっかくなら楽しく過ごしたいじゃない!」と、みどりが笑顔で言った。

「うん! そうだよね! 青葉ちゃんも私達と友達になってね」

 笑顔で言った花の言葉に、青葉は「友達……」と反応薄く呟いた。

「ひょっとして迷惑?」

「そ、そんなこと、ありません! 友達という言葉に今まで縁がなかったものですから」

「え~? 青葉ちゃんなら、前の学校でも友達が多かったんじゃないの?」

「そ、それほどは」

「それは、きっと、みんな、青葉ちゃんのことを誤解していたんだよ」

 礼儀正しく才色兼備な青葉を、真面目で面白味がない人だと思って、積極的に親しくなろうとする人が少なかったのかもしれない。しかし、花は、その真面目さこそが、青葉の魅力なのだと思い、青葉を遠ざけようとは思わなかった。

「ねえ、青葉ちゃん」

 花は青葉に笑顔を向けた。

「帰りも一緒に帰ろうよ」

「良いんですか?」

「もちろん!」

 花の提案に、みどりもうれしそうにうなずいた。

 

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