デビューの日の装いは
ようやく話の半分くらいまできた感じです。
「まあ、とっても素敵よ。とてもよく似合っているわ、ガートルード」
ふわふわと花でも飛ばしているのではないかと思う姉のそんな誉め言葉に、私はゆるく唇を上げ笑みをつくってみせた。
「ありがとうございます、お姉様。そういうお姉様こそ、とてもお美しいですわ。まるで光の精霊かと見紛うばかりに」
「そんな大袈裟に褒めてくれるなんて、何だか恥ずかしいわ。でもありがとう、ガートルード。私、とっても嬉しい」
いえ別に大袈裟というわけでもなく、と手を振りたくなるくらい姉は本当に美しい。
本日は人生の一大イベントともいえるデビューの日。
したがって装いは当然最高のものとなる。
姉のドレスは白が基調。透けるレースやフリルをふんだんにあしらい、そこここに真珠で飾り立てている。そこにかかる金色の髪が光をキラキラと反射しているその姿はまさに光の精霊か、女神様といったところ。
因みに私のはというと、姉と対象に落ち着いた濃紺の光沢ある生地に、スパンコールを大量に縫い付けてあるのでそれが光ってまるで夜空で星が輝いているかのようなドレスに仕上がった。
「そのドレス、ガートルードの瞳に映えて本当に素敵。本当はおそろいのドレスが良かったのだけど……」
嫌ですよ。
最初からその案は却下していた。
姉と私では見た目がまったく違うので似合うものもやはり異なる。
私がそんなふわふわなドレスが着たら違和感バリバリである。
かといって、姉が私のドレスを身につけても同じこと。
二人に合うようなドレスで妥協する意味はない。
なにせ、本日はとても大事なデビューの日なのだから。
姉には素直に楽しんでもらうとして、私はあらかじめ婚約者候補として選別している相手の見極めと、対象外の相手が姉に近づかないようにする対策に集中する予定だ。
因みに本日のエスコートは父スワロー伯。
姉、私ともにエスコートをするとのこと。
本来は女性一人につき男性一人。
デビューの日は父がそのエスコートにつく場合が多いのでおかしくはないが、女性二人に対し男性一人はおかしい。
別に私は代理の親族の男性でも構わないと言ったのだが、強固に父は譲らなかった。
前例はあるからいいのだ、と。
しかし、私は知っている。
その前例というのは、本妻と愛人どちらも両手に引き連れたものとか幼子の我がままに流されて本来子供は立ち入ることのない社交界に連れてきたとか、などなど。
いわゆるあまり褒められたものではないのがほぼ。
……しかし本人がいいのならいいか、禁止されているわけではないし。
「まるで、両手に花ですね」
と言ってみたら、無表情のまま父は盛大に照れていた。
何故照れる。
しかし、十数年も娘をやっていると、顔に出なくても感情を読み取れるようになるのだな、としみじみ思った。
「では、行こう」
「はい、お父様」
「ええ、参りましょう」
デビューの場に着き次第そう言った父に私は頷き、姉は微笑んだ。
そして、父の右の手に姉、左の父の手に私それぞれと手を置き、会場へと足を踏み入れる。
いざ、決戦の場(心情的に)。
しかし父よ、いい加減デレるのはやめた方が……。
ああ、でも表情に出ないから問題ないか。
この話、終わりは決めてるので後はそこまでどう持っていくか、ですね。
次回もお願い致します。




