あらから十年
お待たせ致しました。
あれから十年の歳月が過ぎ、私は十五歳となった。
月日が経つのは本当に早く、勉強に次ぐ勉強の毎日。
いくら十八年前の人生を生きていたといっても、所詮は貴族と庶民。
元の知識で役に立つことは意外と少ない。
新たに覚えることはたくさんあった。
そして、時は人を幼子から少女へ、少女から女性へと羽化を促す。
今ではどこに出しても非の打ちどころのない、立派な淑女へと成長した。
誰が、と?
ええ、それはもちろん姉エヴァンジェリンのことですが、何か問題でも?
波打つ金の髪。
光に潤む大きな瞳。
愛らしい桜貝のような唇。
その唇から零れるのは、耳に心地良い甘い声。
常にその顔に浮かんでいる淡い微笑み。
まわりの人間を気遣い、傷ついた動物を助け、草花をこよなく愛す。
その存在はまさに癒しの天使。
礼儀作法も完璧、頭脳は明晰とは言えないまでも貴族女性としては十分合格ライン。
何より理屈ばかりの偏屈や知ったかぶりの高慢な相手の独り善がりの語りにも、にこにこして聞いていられる寛容さは得難いもの。
私だったらこれ以上ないほど冷たく「は?」と返して、会話どころか関係性までぶった切りしてしまうところだわ。
ただ少し心配なところは、その人の好さのせいで変な下種に目をつけられないか、だけれども。
まあそれは私の方で厳しくチェックしていくつもり。
だって、いよいよ貴族女性にとって逃れえないシーズンが訪れる。
それは、デビュー。
貴族の女性として、正式に社交界へと参加する義務と権利。
デビューをしない女性は、貴族の婦女子として認められない。
また、男子と違い女子は通常表には出さずデビューの時まで屋敷の奥で大事に育てられるので、この時に初めて他家の前に姿を現すといったことも少なくはない。
またこれにより、将来の結婚相手を見つける布石にもつながる。
成人するまでは病死や事故死、諸々の事情により婚姻不可になる可能性が多々ある。その為婚約は一部例外を除きデビュー後と定められている。
そういったこともあり、デビューというのはレディ本人もそのお相手となる男性もそれぞれの家の関係者もこれ以上なく真剣に望み吟味しあうある意味勝負の場。
デビューの資格は男爵令嬢以上の十五歳から十八歳の女性。
王家が開く舞踏会にレディとして最高の装いで我はここにありとその姿を披露する。
それは、年に一度しかない特別の機会。
病気などのアクシデントがない限り、通常は十五歳で参加する。
しかしエヴァンジェリンの場合は私の一つ上なだけでもあるし、私が参加できない場で変な相手に目をつけられても事だと私と父で相談し、此度私の十五歳の年に一緒にデビューすることとなった。
不用意に姐に近づく不逞の輩は、状況次第では私がこの世に生まれてきたことを後悔させてあげますよ。
次回もお願い致します。




