父と交流を図ってみるが
父との交流シーン終了です。
「………………」
「………………」
さて、どう答えたものだろう。
もう大丈夫です、と簡潔に答えればいいか。
それとも何故これまで顔も見せてくれなかったのかと詰ってみればいいか。
これまでに父との交流がなさ過ぎて返ってくる反応が読めない。
しかし。
じーっと父の顔を見上げてみる。
無表情だが、身体の具合を問いかける質問をしてくるくらいだから子供にまったくの無関心というわけではないのだろう。
そうすると今までのガートルードのあれやこれの言動も伝えられて把握している可能性も高い。
過去は変えようがないが、とりあえずそれを払拭方向で動いてみるか。
私は椅子からすっと立ち上がると、スカートの裾を正して綺麗にお辞儀してみせた。
その後、まっすぐ父へと向き直り、少しだけ口角を上げてみる。
「お父様、ご心配をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。見ての通り、もうすっかりよくなりました。これからはスワロー伯爵家の娘である自覚を持って、気をつけてまいりたいと思いますので、ご容赦下さいませ」
五歳児貴族令嬢、これでよいだろうか。
もう少し幼い方が良いような気もしなくもないが、演技し過ぎは中身十八歳庶民の人格にはキツイ。
前世、女優ってわけでもないのだし。
丁寧に話した方が今後のことも考えると正解だとは思うしね。
まあ、これで一応の返答はしたわけで。
さあ、父の反応はどうだ、と胸をはって見上げてみる。
「………………そうか」
反応読めんわ。
父は一応それで納得したのか、図書室の中に入ってくると目的の本を棚から抜き取っていく。
それを見ながら、いまいちスッキリしない私はもう少しだけ動いてみることにした。
「お父様、お忙しいところ申し訳ございませんが」
父の背にそう声をかけると、父は無言で振り返った。
これは、了承ということでいいのだろうか。
いいということにしよう。
「少々わからないところがあって、窺ってもよろしいでしょうか」
「………………どこだ」
うん、家庭教師に聞けという反応が返ってくるかとも多少は思ったが、続けられそうだ。
私は手に持っていた本を開き、指を指してみた。
その本は各地の気候や特産品について記されている本で、ちょうど自領の特産品についての項目で不明点があったのだ。
「ここの、この部分が……」
と、質問をしたところ、「ああ、それは……」ととても詳しくわかりやすく父は教えてくれた。
何だ、普通に話せるじゃない。
もしかして会話に不自由な人かとも少し思ってしまったわ。
質問が終わり、父はまたじっと私を見た。
「……こういうことに、興味があるのか」
う、この年頃では違和感あっただろうか。
内心の焦りを隠し、私はにこりと微笑んでみせた。
「もちろん、私が住まう領地のことですもの。お父様は何でもご存じで、さすがスワロー伯爵領の領地を預かる方でいらっしゃいます。今日はありがとうございました。お父様、今後またわからないことがあったら教えて頂けると嬉しいですわ」
そして、お礼を言いつつ持ち上げてみる。
その父の反応は…………。
「………………そうか」
やはり、読めなかった。
この父、顔の表情が動かなすぎるし、声に抑揚がなさすぎる。
しかしその数日後、父の執務室の中に私専用の机と椅子が用意されるに至って、実はあのやりとりが父にとって存外嬉しかったらしいと知ることになるのだった。
次回は父視点予定です。




