父との対面
だいぶ暑くなってきましたね。
「………………」
「………………」
父は何故か身動ぎ一つもせずに、私を見つめたままでいる。
つられたように、私も父をじーと見つめ返す。
何だろう、と正直思う。
普通何か声をかけるか、もしくはスルーで自分の用をすますのではないだろうか。
必要があってわざわざ図書室まで足を運んでいるのであろうし。
そういえばこの父、娘が寝込んでいるのに見舞いにくることすらしなかった。
本気で心配していなくても、普通一度くらいは顔を見せるものなんじゃないだろうか。
ましてや同じ館の中にいるのだし。
それに、普段食事もあまり一緒にとることもない。
普段朝は部屋で一人、昼と夜は姉と食事をともにすることが多いが、そこに父の姿があることは滅多になかった。
これは、前世の記憶が戻る前からずっとそうだった。
わがまま放題のガートルードを諫めることも叱ることも、甘やかすこともない。
記憶が戻る前はそんなものかと思っていたが、戻った後はこれは少しおかしいのではないか、と最近考えるようになった。
妻の命と引き換えに生まれてきた娘が憎いのかとも少し疑ったが、姉のエヴァンジェリンにも同じ扱いなのでそれは違うだろう。
子供が苦手なのだろうかとも予想した。
それとも貴族の父親とはこれが標準なのか。
改めて久々間近に見る父の顔を眺めてみる。
造りは(私に似て、いや逆か)整ってるが、表情が読めない。
何を考えているのかよくわからない。
まだ幼い姉は別として貴族とはこんなものか、と考えるも他に知らないし比較しようがない……、ん?
ああ、一人知ってた。
ただ今世ではなく前世の話ではあるが。
あの人は気が弱そうで顔も平凡そのもので、とても貴族だとは思えなかったけれど。
それとも爵位が低かったのも関係しているのだろうか。
そんなことを思い出していたら、自然と視線が下がっていたらしい。
「あ……」
と、そんな吐息のような父の言葉に顔を上げた。
何だろう。
何か言いたそうだが……。
再び父の顔をじっと見つめていると、父はこほんと一つ咳払いをした。
そして父はその変わらぬ表情のまま、私に問いかけてきた。
「うん、その……、もう身体は大丈夫なのか?」
今更ですか。
このシーン終了後は父視点になります。




