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リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-  作者: 国広 仙戯
第三章 天才クラフターでスーパーエンチャンターのアタシが、アンタ達の仲間になってあげるって言ってんのよ。何か文句ある?

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●3 功夫を積め 後



 というわけで、現状に至る。




「はっ!」


『GRAAAA――!?』


 第五波目のバグベアーの群。その一体目を右の柳葉刀で切り裂き、僕は周囲に視線を走らせる。


 今度の群れは総数一〇。今一体を屠ったので、残り九体。ちょっとずつ全滅させるタイムは短くなってきているので、そろそろ次のポップを呼ぶ前に倒しきれるかもしれない。


 ――今回、動作について気をつけるべき点は二つです。いきなり多くを言っても混乱するだけでしょうから、まずはこの二つをしっかり身につけましょう。


 耳にロゼさんの声が蘇る。彼女からレクチャーされた、動きに関する二つの教えを意識する。


 教えその一。動きに〝円〟を取り入れること。


 ――コンパクトで力強い動きの基本は、円運動にあります。円を意識し、螺旋のベクトルを描いてください。これにより、力の分散を避けることが出来ます。体内で力を循環させ、外へ逃がさないようにしてください。


「――ッ!」


 踏み込み。床を踏み抜くぐらいの気持ちでコンバットブーツの靴底を叩き付け――そこに捻りを加える。螺旋のベクトルをイメージするのなら、僕にとっては得意分野だ。要は足裏から〈ドリルブレイク〉を放つ要領でやればいいのである。


 加速。ぐん、と前へ飛び出す。


 続く二体目、三体目のバグベアーに接近し、連続で斬撃を浴びせ掛ける。刃がバグベアーに触れる刹那に意識するのは、もう一つの教え。


 教えその二。骨に力を乗せること。


 ――闇雲に力を振るってはいけません。〝芯〟を通さなければ、どんな力も散逸してしまいます。それを防ぐためには『骨に力を乗せる』イメージで動いてください。〝芯〟が通れば、相手に伝わる力は何倍にもなります。


「――せやっ!」


 腕の筋力を骨に圧縮するイメージ。そうして叩き込んだ刃は、なるほど普通に振るうよりもすんなり、そして深く食い込んでいく気がする。


『GGGRRRAAAAAA!?』『GRRRAA!?』


 一刀両断。二体のバグベアーを四つに分けて、右へ跳ぶ。


「まだまだぁっ!」


 相手の動きをよく見る。そこから未来を視る。動きに円と回転と螺旋。骨に力を乗せる――これらロゼさんの教えを意識しながら、僕は残るバグベアーを次々に倒していく。


 円、回転、螺旋。


 円、回転、螺旋。


 円、回転、螺旋。


 体の捻りから生まれた力を、全身の骨に乗せ、剣を振り、地を蹴る。


 わかる。これまでの僕とは、まったく違う動きになっていることが。


 今までだったらいくら低層のSBとはいえ、多少は危ない橋を渡る場面もあった。五三階層のクロードモンキーを相手にした時なんて、あのナイフのごとき鋭い爪が何度この身を掠めたことか。


 それに比べて、ロゼさんの教えを実践してからというもの――あくまで低層のSBに限るだろうけど――全く危なげなく戦うことが出来ている。


 急いで適当に見るより、敵の動きを落ち着いてよく眺める。すると不思議なことに、見れば見るほど相手の速度が遅くなっていく気がする。自然、その未来も容易に予測できるようになり、例え敵が複数いても、手に取るように先が〝視〟えてしまうのだ。


 また、動きに円を意識すると、自然と大振りをしなくなる。動作が全体的にコンパクトになり、複数の敵を同時に相手取っても、落ち着いて対処することができる。


 繋がっているのだ。観察も、円の動きも。


 それでいて力を骨、つまりは〝芯〟に籠めることによって、むしろ剣撃の威力は上がっている。


 驚きだった。〈ストレングス〉も〈ラピッド〉も使ってないのに、身体能力が何倍にも強化されているみたいだった。


「――はっ! やっ! だぁっ!」


 牙を剥き出しにして飛び掛かってくるバグベアー達は、その恐ろしい見た目を無視すればあちこち隙だらけだ。刃物のごとき牙を回避して柳葉刀を打ち込み、体勢的に無理がある時は刀身で受け止め、回転運動で外側に流す。くるりとその場で素早く一回転して、がら空きの背中に刃を叩き込む。


 踊るように、舞うように。全ての動きを繋いで、二条の銀光が曲線の軌跡を描いていく。


 そうして気付けば、残るバグベアーは二体。新しい動き方に慣れてきたのもあって、段々とSBを撃破する速度も上がってきている。このまま行けば、五回目にしてようやく新しい群れを呼ばれることなく全滅させられそうだった。


 ――よし、ここらで一旦フィナーレだ!


 そう意気込み、両手の中で柳葉刀を回転させ、握り直す。


 改めて意識するのは、体の〝芯〟を通る力。その延長に、両手に握る白銀の双剣がある。そうだ、この一対の柳葉刀にだって〝芯〟はあるはずだ。そこに力を通すイメージをしたっていい。剣の重心を貫く、一本の〝芯〟を。


 腕と一体化したように感じる双剣を振りかぶり、螺旋の力を込めた足で床を蹴った。気持ちだけなら弾丸のつもりで思いっきり駆け出す。全力で靴裏を叩き付ける度に、身体が加速していく。


「づぁあああああああああああああっ!」


『GGGGGRRRRRRRRAAAAAAAAAA――!!』


 バグベアーの攻撃はどこまで行っても単調だ。奴らは獲物に己の牙を突き立て、貪ることしか考えていない。小さな体格からは想像もつかないバネで跳躍し、水面から飛び出したピラニアのごとく襲いかかってくる。


 直線的な軌道。もはや観察して未来位置を予測するまでもない。ただ真っ直ぐ突っ込んでくるそいつらを、僕は真っ向から迎え撃った。


「はぁあああぁっ!」


 駆けながら身をやや反らし、両肘を背中まで引き絞る。双剣直突きの構え。全身の骨に力を乗せ、ここぞというタイミングで床に右足を捻り込み――


「――ッ!?」


 刹那、叩き込んだ足の裏から、得体の知れない感覚が猛烈な勢いでせり上がってきた。力を圧縮した骨の〝芯〟、その周囲を螺旋を描きながら昇ってくる異様な【何か】。初めての感覚に戦慄しながら、けれど今更動きを止めることなんて出来やしない。


 大きな力に流されるように体が動く。


 あたかも高速で巻きつく蛇のように足元から這い上がってきた異様な感覚は、そのまま大腿から腰を抜け、背筋を駆け上がり、両肩を伝播して――刀身の先端まで一気に突っ走った。


 まるで〝芯〟となった骨を中心として、別種の〝力〟が竜巻のごとく体内を駆け巡っていくかのようだった。


 全身の筋肉が内側から破裂してしまいそうな膨張感。それがそのまま柳葉刀へと伝わり――その時、図ったように剣先が二体のバグベアーの喉を貫いた。


「ッッ!?」


 瞬間、刀身が破裂したかと錯覚するほど凄まじい手応えに、僕の総身がビリビリと痺れる。そして、


『GR――――!?』


 ぞろりと牙が並ぶ口のど真ん中を撃ち貫かれた二体のバグベアーが、いきなり風船のごとく破裂した。


 バッ、と青白いフォトン・ブラッドが花火のように飛び散る。爆発四散した輝く返り血が、僕の全身を盛大に汚した。


「……………………へ……?」


 自分で自分のしたことに目を瞬かせ、唖然とする。僕は双突きを放ち終えた体勢で、石みたいに硬直した。


 今の一撃はどうやらSBのコアカーネルごと吹き飛ばしてしまったらしく、二体のバグベアーはコンポーネントに回帰することなく消滅してしまった。合わせて、僕の顔や服に付着した青白い液体も大気に溶けるように消えていく。


 ――なんだ、今の……?


 全身を貫いた電撃のような感覚が、ゆっくりと引いていく。どうにか体が動くようになってから腕を引き戻し、今まさに不可解な現象を引き起こした手足を検分する。


 特におかしなところは無い。いつも通りの、僕の体だ。


 けれど、だとしたら今のは一体何なのだろうか? ロゼさんの教えの通り、円と回転と螺旋、骨に力を乗せることを意識しながら、普通に動いていたつもりだったのだけど……


「……なんだろ、さっきの……? 足の裏からものすごい〝力〟が込み上げてきて……剣で弾けたみたいな……」


 稲妻みたいな、それでいて竜巻みたいな、ものすごい感覚だった。僕のものではない何か別種の力が、足から体内へ入ってきて――けれど全然嫌な感じのしない、不思議な違和感だった。


 そういえば、と思い出し、キョロキョロと周囲を見渡して新たなバグベアーがポップしないことを確認する。どうやら制限時間以内に全滅できたらしい。


 僕はなんとなく天井を見上げ、その向こうでハヌと一緒に戦っているだろうロゼさんを思い浮かべる。


 彼女なら、今の不可思議な現象について何か知っているかもしれない。


「……後で聞いてみよう、かな……」


 そう独りごちた時だった。


 不意にうなじに氷の棘が刺さったような痛みを覚え――ぞっ、と背筋に怖気が走った。


「ッ!?」


 ――敵!?


 反射的に武器を構えながら弾かれたように背後を振り返る。


 が、


「――……あれ?」


 てっきり新しいSBがポップしたと思ったのに、その予想は見事に外れ、背後には何もいなかった。


 おかしいな……確かに危ない気配を感じたのだけど……


「……気のせい、かな……?」


 念のため臨戦態勢を維持したまま、改めて辺りを見回す。


 基本的にルナティック・バベルの通路は広い。天井は高いし、幅だって五メルトルから一番広いところでは一〇メルトルぐらいまである。僕が前までいたキアティック・キャバンだと、これが二メルトルから六メルトル程度になる。あそこと比べたら開放感は段違いだ。


 構造体の純白が眩しい空間には、およそ何者かが隠れられるような物陰はない。


 やけにはっきりした感覚だったけれど、こうなっては気のせいだと結論づける他なかった。


 体から力を抜き、息を吐く。


「えと……今何時だろ?」


 意識を切り替えるため〝SEAL〟の時計を呼び出し、現在時刻を確認する。


 体力やフォトン・ブラッドの残量、柳葉刀の損耗具合から計算すると、あと二アワトほどは修行が続けられそうだ。


 理屈はともかく、とりあえずさっきの双突きは我ながらすごい威力だった。あの感覚を自由自在に扱えたら、かなりの武器になるんじゃないだろうか。


「――よし、頑張ろうっ」


 ぐっ、と拳を握り締め、誰にともなく宣言する。


 とにかく今の僕の使命は、お金が貯まるまでの間に少しでも強くなっておくこと。


 そう。いつかのように、また『腰巾着のぼっちハンサー』なんて呼ばれないためにも。


 仲間の二人と、ちゃんと肩を並べて戦えるようになるためにも。


 目標に向かって、全力でひた走るのみだった。





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