●45 幕間・復活劇 2
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「――痛い……!」
そこで目が覚めた。
「…………………………………………えっ?」
目の前にハヌがいる。
ものすごい顔で僕を睨んでいる。
左の頬がめちゃくちゃ痛い。
熱い。
腫れている。
なんでわかるのかというと、自分の左手が痛くて熱い頬を押さえているからだ。
「…………………………………………あれっ?」
意味がわからない。
わけがわからない。
記憶の繋がりがおかしい。
というか、この状況の前後がわからない。
何がわからないというか、何からわからないというか、そもそもからして僕は、
「……なんで……?」
ここにいるのか。
「……え、どうして……?」
ハヌが目の前にいて、しかも見るも明らかに怒っているのか。
何もかもがさっぱりわからないのである。
「え、ちょ――な、なに? な、何が起き……え、あれっ? ど、どういうことっ!?」
ようやく目の前のハヌ以外に意識が向き、辺りを見回してから、改めて僕はより一層の混乱へと突き落とされた。
――あれどこだここ!?
――いやなんだこれ!?
――っていうか一体何が起こったの!?
意味がわからないにも程があった。
気が付いたら僕は見知らぬ場所にいた。
よくわからない、白い砂山の上。辺り一帯はキラキラと輝く砂、砂、砂。
でも砂漠というわけではなくて、砂山の外側には壊れたビルの残骸とかが転がっていて、ここが浮遊大島の中央区だというのがわかって。
でも、おかしい。
僕はさっきまでハヌと一緒に、中央の都市部から離れた浮遊大島の東側にいたはずなのに。
「――ラト」
「は、はいっ!?」
いやに神妙な声をハヌが出すものだから、僕は思わず背筋を伸ばして丁寧に返事してしまった。
――と、今更ながらにそんなハヌの近く、正天霊符〝酉の式〟の背中に寝転がっているロゼさんとフリムの存在に気付く。
二人とも血だらけだ。しかも気を失っているように見える。
「……えっ!? ちょっ、ふ、二人とも大丈夫!?」
どうして今まで気付かなかったのか。僕の焦りは一気にレッドゾーンへと突入し、息が止まるほど驚愕してしまう。
「待ってハヌ、と、とにかく二人に〈ヒール〉をっ……!!」
慌てて身を乗り出し、倒れている二人の肩や背中に直接触れて回復術式〈ヒール〉を発動させる。深紫の輝きが二人の体を包み込んで、治癒の力が効果を発揮する。ともかく僕は〈ヒール〉を何重にも畳み掛けて、これ以上はないってぐらいの回復力を注ぎ込んだ。
「――ふぅ……」
とりあえず、これだけ〈ヒール〉をかけておけば大丈夫だろう。だけど、屈強な二人が気を失っているということは、目に見えない内側のダメージが大きい可能性もあるから、その時は病院で上級の回復術式をかけてもらわないといけないけれど。
「……ラト」
「あ、はいっ」
再び、いやさっきよりも重苦しい声で呼び掛けられた僕は、改めて姿勢を正した。
振り返ると、ハヌがなんとも言えないジト目で僕を睨め付けている。
じぃーっ、と〝酉の式〟に座ったまま身を乗り出して、胡乱な目線を僕に注ぎ続けているのだ。
そうしていると、改めて左頬に焼き付いた傷みがぶり返してきた。ジンジンと熱を持って痺れるような刺激は、どことなく覚えがある感覚。何かと思えば、すぐ脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。
あれはそう、ハヌと出会ってまだ日も浅い頃。ルナティック・バベル第二〇〇層の特別セキュリティールームに、囚われたハヌを助けに飛び込んだ際のこと。僕の顔を見た彼女が最初に見舞ってくれたのが、首根っこが引っこ抜けるかと思うほど、めちゃくちゃに強烈な平手打ちだったのである。
今、僕の左頬にある猛烈な痛みはその時のものによく似ている。いや、似ていると言うか、むしろあの時よりもさらに激烈な感じだ。
――あれ? ってことは僕、ハヌをめちゃくちゃ怒らせちゃってる……?
段々と状況が掴めてきた。まったく記憶にないが、というか未だに何がどうなっているのかさっぱりわからないのだけど、自分が何か『まずいこと』をしたらしい、ということだけは理解できてしまった。
「……ごめんなさい、はどうした?」
「へっ?」
ハヌの口から何が飛び出すのか――と内心で身構えていたところ、思った以上に飛躍した要求が来たものだから、思わず変な声が出てしまった。
怒られた理由がわからないというのに、いきなり謝罪してしまうというのは有りなんだろうか――と思いつつ、どうにか少しでも情報を得ようとして、
「あ、あのね、ハヌ、ちょっと待って欲しいんだけど――」
「言い訳など無用じゃ!」
まさしく問答無用で叩き潰された。ハヌの激発はもはや怒髪天を衝く勢いである。これはどうも、自分は余程のことをやらかしたらしい――と推察できて、背筋がゾッとする。
「さあ! はよう! ごめんなさいじゃ!」
ハヌは懐から取り出した正天霊符の扇子型リモコンで、僕の顔をズビシと示す。それはもう凄まじい剣幕で。
――な、何をしたんだ僕……!? こんなにも怒っているハヌなんて本当に珍しいぞ……!?
僕はハヌの迫力に気圧されつつ、必死に頭を回転させる。
ハヌは基本、いくら怒っていても暴力を振るうことはまずない。ほっぺたを軽く叩かれたり、痛くない程度につねられたりするのは常だが、それだって充分に加減されているのが、僕の方からもわかる。
今もなお左頬で存在を主張する平手打ちの痕。多分、ちっちゃな紅葉がそこには浮かび上がっているのだろう。そうして手が出るほどハヌが怒ったのは、やっぱりあの再会の時以来である。
――じゃあ、もし、そうだとしたら……
「…………」
僕は覚悟を決めるために深く息を吸うと、潔く両手を腕に挙げた。
「……あの、ごめん、ハヌ。僕、二回謝るから、ちょっとだけ話を聞いてくれる……? 本当にごめんなさいなんだけど……」
「ほ……?」
思いも寄らぬ反応だったのだろう。二回も謝るから、と変な申し出をした僕に、ハヌがキョトンとした顔をした。
何というか、ここまで怒っているハヌに対して、適当に謝ったふりをして話を終わらせるというのは、僕の中では『なし寄りのなし』だ。
ここは一つ、素直に話してちゃんと謝ろう。例えハヌの怒りの炎にさらなる油を注ぐことになろうとも。
「実は――」
と、何を隠そう僕は前後の記憶をすっかり失っており、ハヌが怒っている理由どころか、ぶっちゃけ自分が今どうしてここにいるのかもさっぱりわかっていないのだ――という話をしようとしたところ。
不意に大型エアバイクの飛翔音が近付いてきた。
顔を上げると、そこには半ば予想した人物の顔が。
「あ、アシュリーさん……?」
思わず首を竦めながら名前を呼んでしまったのには、理由がある。
運転席のアシュリーさんはもちろんのこと、後部座席や荷台にいるヴィリーさんとゼルダさん――気を失っているようだけどカレルさんとユリウス君の姿も見える――が、総じて不穏な顔をしてこちらを見つめていたのだ。
「ベオウルフ、あなた……」
さっきのハヌのそれとは、また違った雰囲気の神妙な声。アシュリーさんの瑠璃色の瞳が、絶滅寸前の珍獣にでも向けるような目付きで僕を見ている。
二の句が継げないでいるアシュリーさんの語を継いだのは、ヴィリーさんだった。
僕の顔をまじまじと覗き込むようにして、
「……あなた、ラグ君、よね……?」
「えっ……?」
僕という本人を目の前にしておきながら、その根本をひっくり返すような質問に、僕は真実息が止まるほどの衝撃を受けた。
――僕が、僕であることを確認した……?
あまりの不可解さに、僕はついハヌに目線を向ける。蒼と金のヘテロクロミアと目が合い、そこで『どういうこと?』というアイコンタクトを送った。
「……?」
いやダメだ、ハヌも小首を傾げている。何の手掛かりにもならない。
とはいえ、ハヌのすごい怒りようと、ヴィリーさん達の腫れ物を扱うような態度。これはどうやら共通の理由があるようだ、と僕は合点した。
僕は片手をあげ、その場にいる全員にお願いする。
「あの……すみません、ちょっといいですか……?」




