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リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-  作者: 国広 仙戯
第五章 正真正銘、今日から君がオレの〝ご主人様〟だ。どうぞ今後ともよろしく

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●38 混戦・蒼き紅炎の矢 3







 その光景を、ゼルダ・アッサンドリは自陣の反対側から眺めやっていた。


「あーややー、アシュリーってばものすごく頑張っているでありますね。自分も負けてはいられないでありますです」


 刺突剣エストックを握っていない方の掌で眉の辺りにひさしを作り、アシュリーらのいるであろう方角を見るでもなく見る。無論、立ち並ぶ高層建築の群れが壁となってアシュリーらの姿は微塵も見えない。彼女らの最大攻撃が鬼人らに命中する瞬間にだけ、その存在が確認できるのみだ。


 そこへ、ズン……! と地鳴りが伝わる。


 ゼルダのいる陣の左翼にも鬼人らが近付いてきたのである。


 敵の大半は、おそらくヴィリーの〝炎の騎士〟と共に陣の中央へと向かっているはずだ。右翼のアシュリー隊と左翼のゼルダ隊は、そこから別行動をとる個体を片付けるのが役割であった。


 んー、とゼルダは軽く体を動かして、伸びを一つ。


「――さって、じゃあ皆さん行きますですよー! 自分達も負けてはいられないのでありますです! 副団長の言う通り――」


 と、ここまではいつもの軽い調子で言いつつ、しかし次の台詞から、ゼルダの語調が大きく変化した。


「――あの●●●●(ピー)野郎共をブチ殺してやりやがれでありますッッッ!!!」


 普段の彼女からはまるで想像がつかないほどのハスキーボイスと罵声に、周囲の大気が二重の意味でビリビリと震えた。


『「ぉおおおおおおおおおおお――――――――ッッッ!!!」』


 彼女の部下達はその鼓舞を受けて大いに気合いを高めた。通信でも肉声でも大きな雄叫びが天に轟く。


「――と言ってもまだ遠距離でありますですしねー、これはあんまり使いたくなかったのでありますが……仕方ないでありますよねー」


 無益な戦闘は好まぬゼルダではあるが、いざ戦うとなれば速力を活かした接近戦を特に好む。敵に剣を突き刺す貫くときの、あの得も言えぬ感触がたまらなく好きなのだ。


 故に遠隔攻撃はゼルダの性に合わない。やはり戦うなら肉弾戦が一番だ。遠くから物をぶつけたり攻撃術式を当てるのは、口には出さないが個人的に邪道だと思っている。


 とはいえ。


「ま、遠距離戦が出来なかったらアシュリーに怒られるでありますからね」


 ゼルダの手にあった長大なエストックが、藍色の光と化して消失する。いったん〝SEAL〟のストレージに収納されたのだ。


「来るでありますよ、〝マーナガルム〟」


 ゼルダが名を呼ぶと、その手に再びダークブルーの輝きが灯った。深い色の煌めきは一瞬にして膨張し、人間の大人ほどの大きさとなる。


 果たして具現化したのは、槍とも砲ともつかぬ奇妙な代物だった。


「よいしょ、んっと」


 直刺剣エストックとはまるで勝手の違う武器を、ゼルダは億劫そうに構える。


〝マーナガルム〟と呼ばれた武器の外装は、ゼルダのパーソナルカラーであるネイビーブルーを基調とした色合い。所々に鈍い銀色が光る。槍のように長い柄を持ち、しかし半ばから穂先に至るまでは大砲にも似たフォルムを持っていた。それらしき砲口も天頂部に空いている。


 槍と言われれば槍にも見え、火砲と言われれば火砲にも見えるそれを、ゼルダは旗でも持つかのような手付きで握り、砲口――あるいは穂先――を接近しつつある鬼人らへと向けた。


 大きい。


 ゼルダはさほど体格に恵まれているわけではない。年相応の身長しかなく、それだけに全長二メルトルなんなんとする大型武器を構えるその姿は、いっそ滑稽なほどにいびつだった。


「それでは『第二形態』をすっ飛ばして『第三形態スコル』発動であります」


 だが当の本人はしれっとしたもの。超重量であるはずの大型武器を軽そうに構え、〝マーナガルム〟に対してコマンドを入力する。


 途端、変形が始まった。


 火砲槍とでも呼ぶべき〝マーナガルム〟の全体を、藍色の輝光が駆け巡る。各所に入ったダークブルーに輝く線は、それぞれのパーツの分断を確かめるもの。


 展開する。


 ゼルダの握る柄から穂先に至るまで、〝マーナガルム〟のあちこちが開き、立ち上がり、茨の棘のごとく突き出した。それらは全てスリットであり、スラスターであり、排熱口だ。


 ウォオォン……と〝マーナガルム〟がその名の通り狼の遠吠えにも似た駆動音を響かせる。


「いくでありますよぉ……!」


 ゼルダの声に力が籠った。その瞬間から、彼女の【変貌】が始まる。


蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』の幹部〝カルテット・サード〟が一人、〝疾風迅雷ストーム・ライダー〟ゼルダ・アッサンドリは混合ハイブリッド型の『変貌者ディスガイザー』である。


 大きく分類すれば敵対する鬼人と同類である彼女の属性は、狼の人間の混合型。


 いわゆる『獣人』と呼ばれる部類である。


 ゼルダの〝SEAL〟が力強く励起した。ネイビーブルーのウルフカット、ペルシャンブルーの瞳はそのままに、少女の容貌が変化していく。


 ナイツメンバー共通の蒼に染まった衣服。それらに覆われず露わになった皮膚から、溢れるように藍色の毛が生える。一瞬にして四肢が【毛むくじゃら】と化し、既に頭髪のある部分からは、畳んでいたそれが起き上がるように、狼の耳が現れた。面貌もまた獣のそれに近付きつつ、しかし人間の面影を失わない。


「――グルルルル……!」


 ついには声帯までもが変質し、ゼルダの喉から重苦しい唸り声が漏れ始めた。こうなった彼女は、もはや口から人語を発することが出来なくなるのだ。


 ゼルダの『変貌ディスガイズ』は肉体を獣化させることにより、ただでさえ生体限界を突破している身体能力を飛躍的に向上させる。


 通常状態であってさえ軽々しく掲げていた〝マーナガルム〟を、人狼状態になったゼルダはより軽々しく扱えるようになった。これにより、今から受けるであろう【反動】すら押さえ込めるというわけである。


 これより発動させるは、剣の主である〝剣嬢〟ヴィリーから授けられし古代武具エンシェントアームズ〝マーナガルム〟の『第三形態スコル』の力。


 つまり――この状況に打ってつけの遠距離射撃モードであった。


「ガルァァァッ!」


 ――開門でありますっ!


 獣人の一吼えに〝マーナガルム〟が応えた。


 穂先――砲口――に藍色の光線が走り、縦に四分割される。ガキン! と四つに割れた先端が花のように開き、十字を描いた。


 展開した穂先の奥には、まだなお深い闇色の砲門が大きな口を開いている。〝マーナガルム〟の唸りは、どうやらその奥から響いているようだった。


 ラグディスハルトが所有する古代武具エンシェントアームズ黒帝鋼玄こくていこうげん〟と〝白帝銀虎はくていぎんこ〟がそうであるように、ゼルダの〝マーナガルム〟も【生きた武器】である。ゼルダが聞いたところによると、この長柄武器はとある遺跡レリクスのフロアマスターであった巨大な狼のコンポーネントを原料にしているのだとか。


 ――いやいやまさかでありますよ。フロアマスタークラスのコンポーネントを武器に加工ジェネレイトするなんて正気の沙汰とは思えないでありますし、眉唾ではありますが……


 しかし、ヴィリーが特殊なルートを通じて入手してくれたこの〝マーナガルム〟の力は本物だ。


 ォォォオオオオオオオ……と〝マーナガルム〟の唸り声が加速度的に大きくなっていく。応じて、空に向けられた砲口の奥から明るい光が溢れ出てきた。


 第三形態スコルの由来となったのは、古代の神話に謳われる『太陽を呑み込んだ狼』。その名には『高笑い』『騒音』といった意味が含まれるという。


 故に。


「ガァルルルルルルァァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァッッッッッッ!!!!!!」


 ゼルダは全力全開で雄叫びを上げた。


 獣人に変貌したが故の超人的な心肺機能を駆使し、人間にはとても真似の出来ない大音声を長く長く轟かせる。


 しかし、その爆発的な咆哮が周囲の者の耳に届くことはない。ゼルダの発した声は全て〝マーナガルム〟へと吸収されていく。


 音を吸収し、所有者のフォトン・ブラッドと混ぜて圧縮し、莫大な熱エネルギーに変換して発射する――それが〝マーナガルム〟第三形態スコルの特性だった。


 やがて十分な『音』を充填したと判断したゼルダは、腰を落としてトリガーコマンドをキックする。


「――ガルァアァアァッッ!!」


 ――発射でありますっっ!!


 火砲槍の砲口から目を灼くほどの輝光が迸った。


 太陽を呑み込んだ狼の腹から飛び出すのは当然、太陽の熱エネルギーに他ならない。


〝マーナガルム〟の砲口から巨大狼の咆哮ハウリングが轟いた。聞く者の耳を奥深くまで劈く、凄まじい吠え声が。


 刹那、圧縮されていた太陽のエネルギーが勢いよく解放された。


 一閃。


 真っ白な光の柱が、まさしく光速で宙を貫いた。


『■■――――――――――!?』


 もはや視界に光が入った瞬間こそが、ゼルダに照準された鬼人の見た最後に見た光景だったろう。


 直径二メルトルにもなろう極太の光線が、とある巨人の喉の少し下あたりを無造作に貫いた。


 一瞬だった。


 悲鳴にもならない呻き声だけを残して、スコルの熱光線を受けた〝巨人態ギガンティック〟の腰から上が消滅した。


 何もかもが真っ赤な液体と化して派手に飛び散ったのだ。


 空白。


『■■■■■■■■■■――!?』『■■■■■■■■■■■■■■■!?』『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!?』『■■■■■■■■■■!?』『■■■■■■■■■■■■■■■――――――――!?』


 一拍の間を置いてから、鬼人の軍勢がどよめき、大いに足並みを乱した。あまりの高威力の射撃に恐怖を覚えたのだ。


 しかし。


「ガルァアァアァアァアァアァアァアァアァッッッ!!!」


『自分に続けぇ――――――――でありますっっっ!!!』


 狼の雄叫びと念話でのみ発せられる人語を通信網に叩き込み、配下の騎士達の追撃を呼ぶ。


 アシュリーのいる右翼がそうであったように、左翼を守る騎士達もまたそれぞれの『切り札』を惜しげもなく披露した。


『『『『――――――――――――――――ッッッ!!!』』』』


 無数の秘奥義が一斉に開帳され、鬼人の群れに叩き付けられる。


 さらに、


「ガァルルルルルルァァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァッッッッッッ!!!!!!」


 再びゼルダの咆哮が轟き〝マーナガルム〟へと吸収される。先程発射されたばかりの太陽エネルギーが即座に充填された。


「グァルルル……!」


 ――あーあ、本当は第二形態ハティの方で暴れ回る方が好きなのでありますが……こっちは手応えらしい手応えがないのであります……!


 スコルとは正反対に、第二形態ハティは近接戦闘に特化した形状をとる。もしこれ以上鬼人の軍勢が踏み込んでくるのであれば、その時こそゼルダは本領を発揮し、縦横無尽に〝領域〟内を駆け回ることになるだろう。


 ――でも、今はまだその時ではないであります。時機を間違えるとアシュリーに怒られちゃうでありますからね。号令がかかるまでは我慢なのでありますよ、自分……!


 人狼に『変貌ディスガイズ』すると内なる衝動が強まって暴走しがちなゼルダではあるが、アシュリーの説教ほど怖いものはあまりない。理性のたがが外れがちな己に強く言い聞かせ、四肢を覆う獣毛をざわつかせながらゼルダは自制する。


「――ガルァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァッッ!!」


 ――でもそれはそれとして、とにもかくにも発射でありますっっ!!


 思うところはあれど、戦場においてやるべきことなど決まり切っている。そのあたりを戦士の思考で割り切ると、ゼルダは〝マーナガルム・スコル〟の筒先を別の鬼人へと照準した。


「――ガルァアァアァアァアァアァッッ!!」


 ――いっけぇえぇえぇでありますっっ!!


 発射。己の声と『地脈』から供給された力を圧縮して生まれた熱エネルギーが、光の槍となって天を穿つ。鬼人がまた一体、その上半身を蒸発させられた。








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― 新着の感想 ―
[一言] おお、古代武装……!それもフロアマスターというと、ミドガルズオルムと同等の怪物になるのでしょうか。ちょうど北欧神話繋がりでもありますし、多分偶然ではないのでしょうね……どっかの遺跡で隠し部屋…
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