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01:王都に行くよう言われちゃいました

第三部、連載開始です。よろしくお願いします。



「グレイスはどこだ」


 その人は、本当に唐突に私の前に現れた。

 キラキラとまぶしい黄金の長い髪に、快晴の空のように澄み渡った青い瞳。

 誰もが想像する王子様といった感じのイケメンに、私はしばしぽかんと見入ってしまった。


「失礼ですが、どちら様ですか?」


 くっくっく、とキラキラした人は、それはそれは楽しそうに笑った。


「この国で私にその問いを投げかける者がいるとはな」


 と、いうことはこの国の重要人物? お偉いさん?

 この国どころかこの世界自体、ピカピカの一年生な私は首をかしげて答えを待つ。

 キラキラした人は、どこか皮肉げに口端を上げて――名乗った。


「フロスティン・キィ・クリストラル。この国の王太子だ」


 お、お、お、王太子様―――――!?









「ねえお二人さん、そろそろさすがに王都に行ってきたほうがいいんじゃない?」


 そう言われたのは、お昼休憩中に隊長さんの執務室にお邪魔していたときのことだった。

 言ってきたのはもちろんというか、午後の仕事の確認にやってきた小隊長さん。


「へ? 王都?」

「……ミルト」


 きょとんとする私とは対照的に、隊長さんは眉間に深いシワを刻んで怖い顔をする。

 そんな隊長さんも見慣れているんだろう。小隊長さんは少しも気にした様子もなく机の上に書類を追加した。

 そして、ヤレヤレとでも言いたげに私たちの顔を交互に見てから口を開く。


「別に、元はといえばあっちの不手際だし、いくらでものんびりしてればいいんじゃないって言いたい気持ちもありますけど。万一、隊長が精霊の客人を不正に隠していた。ってことにされたら、後見人になるには不利になりますね」

「えっ、それは困ります!」


 そっか、そんな可能性があるなんて少しも考えてなかった。

 この世界にとってどのくらい精霊の客人が特別な存在なのか、いまいちよくわかってないっていうのもあるけど。

 後見人をつけてもらえたり、好きなことをやらせてもらえるってことは、だいぶ高待遇を受けてることくらいはわかる。

 それを隠してた、なんてことになったら……シャレになんないんじゃない!?


「うん、だからまだ色々ごまかしが利くうちに行ってくればって思うんだけど。隊長、どうです?」

「……そうだな。ミルトの言うとおりだ」


 はぁ、とため息をつきつつ認めた隊長さんは、どこか渋々といった様子だ。

 隊長さんはあんまり王都に行きたくないのかな。

 私は王都自体にはすごい興味があるけど、隊長さんと離ればなれになることもありえるって思うと、ちょっと腰が重くなる。

 でも、だからってこのままってわけにもいかないんだろう。私が精霊の客人っていう立場である以上は。


「あっちの出方を待ってはみたけど、何も働きかけてきませんし。隊長がついてれば、そんなに危険はないと思いますよ」

「そうですね、隊長さんは強いですもんね!」

「そういう意味だけじゃないけどね」


 ん? と引っかかりを覚えつつ、小隊長さんは別の意味を説明してくれるつもりはないようだ。


「そろそろはっきりさせたほうがいいんじゃないですか? まあ、隊長も顔合わせたくない人に会うのは気が重いでしょうけど」

「余計なことを言うな」


 隊長さんは更に怖い顔になって、ギロリと小隊長さんを睨む。

 顔を、合わせたくない人……?

 話が読めずに、私は内心首をかしげることしかできない。


「いいんですよ、俺は。後手後手に回って取り返しのつかないことになったって、二人が後悔しないって言うんならね」


 小隊長さんの声はいつもどおり軽いのに、どこか刃物みたいに鋭かった。

 これは、忠告だ。

 のほほんと時間ばかりを消費していた私たちに対する、忠告。

 そろそろ向き合わないといけないんだと、リミットを教えてくれた小隊長さんは、厳しいけど優しいんだろう。


「……あとで、レットを呼べ」

「はーいはい、承知仕りましたっと」


 小隊長さんはニッコリと笑って、執務室を出ていった。

 レットというのが誰かはわからないけど、話の流れからしてたぶん王都に関係する人なんだろう。

 なんだか急な嵐に見舞われたような気分だ。


「王都かぁ……想像もつきません」

「国で一番大きな街だというだけだ」


 そうは言われても、私が想像する都市っていうと東京とかだからなぁ。

 さすがに、高層ビルが立ち並んでいたりはしないだろうし。

 どんな場所なのか、どんな人たちがいるのか、やっぱり気になる。

 気には、なるんだけど。

 ちょっと、怖いと思う私もいたりして。

 気持ちが浮いたり沈んだりして、妙に落ち着かない。


「行ったほうが、いいんですよね。あ、違う。行かないといけないんですっけ」

「お前の気持ちの整理ができてからでいい。いつでも行けるよう準備はしておこう」


 隊長さんも、王都には何かあるのかもしれないけど。

 隊長さんは私と違って大人だ。私のためってなったら、自分の事情なんてきっと飲み込んじゃうだろう。

 だからこれは、純粋に私のため。

 まだ、この世界に馴染みきれていない私のため。

 ……私、甘やかされてるなぁ。


「隊長さんに甘やかされるたんび、ダメ人間度が増してってる気がします……」


 ほんと、隊長さんは甘やかし上手だ。

 十も年が離れていると、そんなもんなのかな。

 ちゃんと自立しないとって思うのに、甘えたい気持ちばかりが強くなっていく。


「本当に甘やかされてくれる人間はそんなことを言わないな」


 隊長さんはそう言って苦笑をこぼす。

 少し、寂しげに。

 その表情の理由を、今の私はちゃんとわかっているから、余計に申し訳なくなる。

 甘えるだけ甘えて、隊長さんを逃げ道にしながら、私は私の全部をまだ隊長さんにあげられていない。



 ……ほんと、ずるいなぁ、私は。







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