表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/132

66.反撃の一歩

 66.反撃の一歩


 シュバイツ公爵家の嫡男ディラン。

 美しい銀髪をゆらして首を傾け、

 藍色の目は気遣うようにフィオナをみつめていた。


 彼は宮廷でも噂になるほどの美形(ハンサム)であり、

 剣の腕も一流、学問においても優秀な成績を修めた……

 と評判の”完璧な貴公子様”だ。


 唯一の欠点は”尋常ではなくモテる”ことで、

 かつては美女をとっかえひっかえすることで有名だった。

 それはフィオナと婚約しても変わらなかったが、

 彼女が”婚約破棄してください!”と宣言してからは、

 ディランは激変し、フィオナを急に溺愛し始めたのだ。


 本人曰く、以前の(おそらく転生前の)

 フィオナも謙虚で好ましかったが、

 最近のフィオナはフレンドリーでいながら淡白な性格、

 自分にもお金にも権力にも、

 まるで興味がないところに本気で惚れたようだ。


 フィオナをかばい、自分の計画を邪魔する弟に

 イザベル伯爵夫人は顔を赤くして抗議し出した。

「な、なぜ貴方がここにいるの? ディラン。

 もうこの娘は貴方の婚約者ではないのよ?

 関係ないじゃない!」

「僕が関係ないなら、姉上はもっと関係ないはずですが?」


 当たり前のことを言われ、イザベルは一瞬ぐっと詰まったが

「わっ、私はグエル大司教様に、直々にご依頼を受けたのよ!

 あの方のご命令に、あなたは背くおつもりなの?!」

 と権威のある人の名前を出すことで威嚇してきたのだ。


 シュバイツ公爵家にとってグエルは、

 絶対的な支配力を持っている。

 さすがにディランの顔がゆがんだ。


 ……いいところをディランに持っていかれる危機だったが

 こっちにとっては大チャンスだ。


 すかさず俺は出て行って、イザベル伯爵夫人に問いかける。

「えー、それは怪しいなあ。王族は聞いてないぞ。

 グエル大司教がそんなこと頼むとは思えないが」


「ええ、そうですわね。新しい聖女様は才能が有り、

 十分に任務をこなしている、と父から聞いておりますわ」

 エリザベートも疑いのまなこでイザベルを見る。

 ”あ、うん”の呼吸で(あお)りまくる俺たち。


「なんですか!? あなた方。こんなところに!

 ……何も怪しくなんてありませんわ!

 あの方は聖女様をご心配なさって……」

「へえ。では、何とご命令を?」


 俺が聞くと、イザベル伯爵夫人はムキになって即答する。

「もちろんべリア様が新しい聖女として着任できるよう

 フィオナに補佐をさせよ!と……」


 俺は首を傾け、眉を寄せて尋ねる。

「はあ? 何のために?」

 イザベルは”なんでそんなこともわからないのか”というように

 イライラしつつも馬鹿にした口調で言い放つ。

「早く就任しないと困るからに決まっているでしょう!

 ”聖女不在”の状態が長過ぎだったのよ?!」


 そうかそうか、と俺はうなずき、

 今度は聖女べリアに向かって問いかける。

「お偉方は、あなたにはフィオナの補佐がないと心配らしい。

 未だに新しい聖女としての任務がこなせていないのかな?」


 当然、彼女はムッとして答える。

 横で慌てるイザベルを気にもせずに。

「そのような心配はご無用ですわ。

 私は彼女がいなくても問題なく、

 聖女としての任務をこなしていけます」


 俺は再びそうかそうか、とうなずき、

 イザベルに向かって笑顔で告げた。

「ご本人がそうおっしゃっているのだ。

 それを否定することは、彼女の能力を否定することになるが?」

 俺の言葉にカッとなったのは聖女べリアのほうだった。


「だからっ! 私は昨日も言ったではありませんかっ!

 この方の補助など、もう必要ないって!

 私は新しい聖女として十分に務めております!」

「お待ちください! その通りですわ、でも!

 まだ教わっていないこともあるかもしれませんし」

 オロオロしながらイザベル伯爵夫人は必死になだめる。


 フィオナがすかさず、首を横に振って言う。

「いえ、もうお伝えすることはございません。

 もしあるとしても備品の位置や新しい責任者など

 他の方でもお教えできる情報ばかりですわ」


 そう言った後、肩をすくめながら笑顔を見せた。

「と、いうより、私でなくても大丈夫ですよ。

 私が聖女に就任した時は、前任者などいなくて、

 司祭様や教会で働く人たちに教わったんですから」


 畳みかけるようにディランが言う。

「ではフィオナでなくても、本当に良いということだな。

 それでも心配だと言うなら、

 姉上が面倒をみて差し上げればよいのでは?」


 いいね、それ。俺はディランのパスを受け取る。

 聖女べリアが”それも不要ですわ!”と言い出す前に

「そうだな、昼食の手配や自室の掃除など、

 聖女様にさせるわけにはいかないからな」

 と俺はにこやかに言った


 それを聞きべリアは”小間使いなら欲しいかも”

 と思ったようで、イザベルに向きなおって言ったのだ。

「ええ。承知しました。

 それではイザベル様、お願いいたしますわ」


「ええっ!? 私が? それならフィオナが適任かと……」

 なんで私がそんなことを!? 

 というのを前面に出しながらイザベルが叫ぶ。


 それを聞き、聖女べリアはツン、とすまして首を振った。

「もう聖女の代は私に引き継がれたのです。

 退任した者がいつまでも居ては混乱を招くでしょう」


 やはりべリアは、フィオナの事を疎ましく思っていたのだ。

 自分より能力もなさそうなのに、

 教会で働く下男や召使いだけでなく、

 町中の人々から好かれているフィオナを

 べリアは最初から

 ”負けるわけにはいかないライバル"だと思っていたんだろう。


「それでは、王族として貴女には期待しています」

 俺はべリアにキラキラを振りまきながら挨拶する。

「……ええ、お任せください」

 彼女は頬を赤らめつつも礼をした。


 フィオナには”もう帰って良い”と宣言し、去って行く聖女べリア。

 彼女の背中を見ながら、俺は思った。


 競合他社(フィオナ)ばっかに気を取られて顧客(国民)を無視した経営(やり方)

 どのくらい持つかはわからんが、

 あんまり早々に倒産(退任)してもらうわけにはいかないからな。

 出来るだけ長く、教会をひっかきまわしてくれ。


 グエル大司教様の目論見はとりあえず潰せたが、

 次はべリアを”教会の生贄”にしないか、見張る必要がありそうだな。

 そんなことを考えていたら。


「……()()のせいよ。絶対に許さないわ」

 聖女べリアについては行かず、イザベルが俺たちをにらんでいた。

「あれって……」

「”神に対する誓約”に決まっているでしょうっ!

 貴女があの誓約を確定してしまったせいで、

 私が毎日、どんな思いをしていると思っているのっ!」

 般若の表情で、イザベルは一気にまくし立てる。


「夫の愛人のために観劇のチケットを取ったり、

 貴重なバラを入手してプレゼントまで用意してましたね。

 それに彼らが宿泊するホテルを予約し、

 子どもには良い家庭教師を手配されてました」

 ディランが面白そうに言うと、

 彼の腕をイザベルは扇で殴ろうとして、かわされていた。


「え? だってイザベル伯爵夫人がおっしゃったんじゃないですか。

 ”夫の愛人を守り慈しむ”のが貴族の妻の務めだって」

「そんなわけないって、わかってるでしょおおお!」

 あーあ、とうとう本音が出たか。

 しかしそれくらい、追い詰められているのだ。


「もう嫌よっ! 毎日毎日、あの女のために使われて!

 私がなんでそんなことをしなくちゃいけないの!」

 やるものか、と思っても、誓約をした以上、

 勝手に体は動いてしまうのだ。


 ”ざまあ”ではあるが、伯爵はちょっと調子に乗りすぎだな。

 さすがに図々しいというか、倫理に反しているではないか。


 俺はイザベルに問いかける。

「なあ、取引の相手を俺たちに変えないか?」

「嫌よ! クズ王子に何ができるって言うの!」

「まあその通りだが、あの誓約を休止することは、できる」


 イザベルの目が見開き、絶句する。

「……嘘」

「ただし条件は3つ。

 1つ目は、伯爵や彼女たちに絶対に攻撃はしない。

 ただ、何か頼まれても拒否することはできる」

「……無視しても、別居しても良いのね?」

「もちろんだ。向こうも”誓約が消えた”と勘違いしたら

 焦って大人しくなるだろうしな」

 イザベルは熱心な顔つきでうなずく。


「2つ目は、情報の提供だ」

 緑板(スマホ)の検索はものすごく有益だが、

 いかんせん”知りたいこと”の答えしか出てこない。

 俺たちが存在さえ知らないことは調べられないのだ。


 イザベルは戸惑い、ディランを見た。

「僕はすでに、こちら側の人間なんです、姉上」

 それを聞きショックを受けた顔をしていたが、

 やがて、渋々とうなずいた。


 最後に3つめの条件を言うと、

 イザベルはひどく困惑しつつも同意した。

「……何を考えているの?

 あなた、本当にあのレオナルド王子?」

 そう言って俺をまじまじと見ながら。


 そうして俺たちは、この国の腐敗した教会に対する

 反撃の一歩を踏み出したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ