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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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115/132

115.王家に対する断罪の始まり

 115.王家に対する断罪の始まり


 レオナルドは早々(はやばや)と死んだことにされ、

 私との婚約も強制的に無効にされてしまった。


 しかもそれだけではない。

 わが公爵家の兵であるジェラルドが

 行方不明なのをいいことに”反逆した”と濡れ衣を着せられ

 ローマンエヤール公爵家に謀反の疑いがある、

 と言いがかりをつけられたのだ。


 挙句の果て、”王家に対し反意を抱かず

 絶対の忠誠を誓う、と言うのであれば、

 国王に対する絶対服従を神に対して誓約せよ”というのだ。


 そんなことをすれば、私は彼らに対し

 絶対に攻撃できないどころか、

 どんな理不尽な命でも聞かずにいられなくなってしまうだろう。


 なぜなら”神に対する誓約”の強制力は絶対的だから。

 自分の意志とは関係なく、おのずと従ってしまうのだ。

 もしも無理やりそれに反すれば、

 国王のように命を失いかける恐れもある。


「さあ、さっさと始めるぞ! 用意せよ!」

 硬直する私を無視し、王太子が耳障りな声で叫んだ。

 侍従たちが御神体や神具を運び入れてくる。


 そして国王に向きなおり、興奮気味に迫って言う。

「父上! 約束通り、真っ先に命じてくださいっ!

 ”エリザベートは王太子の命令を全て聞け”と!」

 私は絶望と怒りで視界が真っ暗になった。

 握りこぶしが震えてくる。


 国王はそれに対し返事もしない。

 王妃がその身から、大量に付けた魔道具を一つずつ外しており

 その成すがままになっている。


 私は気付いた。魔道具を付けたままだと、

 全ての魔術を退けるため、”神に対する誓約”を受けられないのだ。

 逆に言えばこれを外させないと、

 国王が実は魔族であることを暴くことはできそうにない。


 王妃がせっせと動きながら、薄笑みを浮かべてつぶやいた。

「でもねえ、貴女のような、

 (しつけ)のなっていない娘を王太子妃にはできないわ。

 だからね、カーロスの(めかけ)にしてあげましょう」


 その言葉に、私は思い出した。

 この女はかつて、レオナルドの母君の事も、

 国王に対し”妾にしろ”と命じたのだった。

 私の事も、側妃にすらなれず、

 ただただ(もてあそ)ばれるだけの存在にしたいのだろう。


 私は思わず笑った。王妃は眉をひそめる。

「永きに渡り王家を支えた我が公爵家の娘を”妾”に、ですか。

 さて、父はどう思うでしょうか」

「……そ、そんなの貴女が()()んだから……」

 この国最強の戦士を思い出したのか、王妃の勢いが止まる。


 私はそれを鼻で笑い、はっきりと彼らを見据えて言い返す。

「父はわが国で最も魔術に長ける者です。

 私が誓約によって縛られていることなぞ一目(ひとめ)で気づくでしょう。

 いわれなき疑いを晴らす間もなく、

 娘がそのような扱いを受けたとあれば、それはもう激怒するでしょうね」


 押し黙った王妃の代わりに、王太子が怒鳴ってくる。

「お、お前に()めさせれば大丈夫だろう?!

 ”お父様、やめて”と懇願すれば……」

「ローマンエヤール公爵家を侮辱なさるおつもりですか?

 そのような偽りの懇願なぞ、なんの意味も成しません。

 父は私を剣で切り捨ててでも、その”正義”を貫くでしょう」


 王太子は恐怖で顔を歪ませる。

 彼はレオナルドを水魔法のイタズラで殺しかけた時に、

 本気で怒る父を目の当たりにしているのだ。

 おそらくトラウマになっているくらい、恐ろしいのだろう。


 私は王妃に向かって厳しく糾弾する。

「あまりにも()()です。この決定には”()()”がありません。

 証拠不十分、しかも議会も貴族会の決議もなされず処罰を与えたなど

 法的にも教会の教えとしても、()()()()()()()()()()()です」


 正義がこちらにある、という主張に、王妃は顔を歪めた。

 彼女はいつでも”自分の判断は正しい”と思っているのだから。

 しかし論理的に反論できず、ただ睨みつけてくるのみだ。

 私も視線を合わせたまま、一歩も引くつもりはない。


 こうなったらこの件を、王家断罪の理由にするしかない。

 建国以来、王家を支え続けた公爵家に対し、

 何の証拠もなく意味不明な言いがかりを付け、

 議決などの決まりを背いて断罪しようとした、ということを。


 にらみ合う私たち。


 しかしその沈黙を破ったのは、

 ほとんど魔道具が外された国王が

 椅子から落ちた”ドサリ”という音だった。


 どうやら床に落ちた弓を拾おうとしたようで、

 床に横たわったまま、片手に弓を握っている。

 ……レオナルドの母上、ブリュンヒルデ様の弓だ。

 傀儡(かいらい)のようになっても、彼にとっては大事なものなのか。


「国王様っ!」

「大変だ! 医師を呼べっ!」

 大慌てで駆け寄る侍従たちに反し、

 王妃は手を貸そうともせず、冷たい目で国王を見下ろしていた。


 侍従たちに運ばれていく国王。

 王妃が何か言おうとする前に、私は彼らに告げた。

「いったん戻り、両親に報告しますわ」


 彼らは私を引き留めなかった。


 とりあえず窮地を脱したが、頭の中は恐怖と怒りが渦巻き、

 王宮の長い廊下が、まるで延々と続く迷路のように思えた。


 ************


 大急ぎで私が公爵家に戻ると、

 先に誰かが伝令鳥を使って連絡していたようで

 母が飛び出してくるように、

 公爵家の前庭で私を出迎えてくれた。


 いろいろ案じてくれていたのだろうと思い、嬉しくなる。

 常に冷静な母しか知らなかった私は、

 今回いろいろな母の顔を見ることになった。


「もはや、これまでだな」

 母の言葉に私はうなずく。

 これは観念したわけでなく、”これまで”なのは王家のほうだ。


 王家を断罪する理由としては少々弱いが

 ”信頼を大きく裏切った”と抗議するには十分だろう。


 そして母は私に言った。

「中に入ろう。お前を待っている人がいる」

 その目に輝きを見つけ、私は走り出した。

 勢い良く客間に飛び込むと、そこに立っていたのは。


「えっ? ……ディラン様?」

「ひどいなあ。僕の姿を見つけて、

 女性にここまでガッカリされたのは初めてだよ」

 ディラン様は不満そうに言いつつも笑った。


 客間の入り口と窓辺には

 シュバイツ公爵家の私兵が数人控えており

 絶えず周囲を警戒しているようだった。


「フィオナは? 無事ですか?」

 私は彼に尋ねた。

 彼らはべリアさんを救出後、聖騎士団と戦闘になり、

 崩壊した建物の下敷きになったと聞いていたのだが。


「本人に聞いてくださいよ」

 彼は悪戯っぽい顔で答えたので、私の胸は歓喜に溢れた。

 でも……どこに? 私はキョロキョロと辺りを見渡す。


「貴女が見抜けないなら安心だな。

 王宮にだって連れていけそうだ」

 彼の言葉に、シュバイツ公爵家の私兵の一人だと気が付く。

 そしてすぐに、窓の側の小柄な兵に飛びついた。

 彼女も私が駆け寄った時点で帽子を上にあげ両手を広げた。


「エリザベートさんっ! 会いたかったですっ!」

「フィオナっーーー! どんなに心配したことか!」

 ぎゅーっと抱き合う私たち。

 この安心感は何にも代えがたかった。


 この異世界に転生して以来、ずっと一緒に頑張ってきたのだ。

 私たち4人はもう、友だち以上の繋がりだ。


 涙をぬぐう私に、フィオナは笑いかける。

「先ほど話を聞きました……エリザベートさん。

 何があっても私があなたを守ります」


 その言葉と同時に、フィオナは私の体に何かの呪文をかけた。

 そしてディラン様のほうに向いて言う。

「ディラン様、エリザベート様の腕に触れていただけますか?」

 彼はにこやかにうなずき、私の腕に手を触れようと……したとたん。


 バチッ! と強い静電気のような音がして、

 ディラン様が痛っ!、と小さく叫んだ。


 フィオナは私にドヤ顔で言う。

「これで、誰もあなたに触れることが出来ません。

 たとえエリザベート様が解除を願っても解きませんからね。

 ……王子が戻られるまでは」

「フィオナ!……ありがとう!」


 これでどんな展開になろうと大丈夫だ。

 気持ちの悪さが薄らぎ、安心感が広がる。

 ……でも痛くなるってわかってて、ディラン様に触れろって言ったの?


 手をさすりつつも、愛おし気にフィオナを見ているディラン様。

 私は思わず暖かい気持ちでいっぱいになった。


「いよいよ始まるぞ」

 母の声に我に返り、私は振り向いた。


 母は戦闘前の顔になっていた。目の奥には燃えるような闘志がみえる。

 その手には書簡があり、それは握りつぶされてなどいなかった。


「チュリーナ国より、教会とともに軍が

 この国を目指して進軍してきている。

 べリアがチュリーナ国の教会に保護され、

 この国の教会の罪が糾弾されたのだ」


 フィオナとディラン様が顔を見合わせる。

 彼らが命がけで助け、それが報われたのだ。

「”癒しの大暴風”があまりにも超・強力過ぎちゃって。

 ……建物を崩壊させるとは思いませんでした」

「とっさに防御の体制に移ったが、間一髪だったなあ」


 ディラン様の属性は風だ。

 風圧で落下してくる天井や床を吹き飛ばし、

 フィオナを抱えて外へと飛び出したそうだ。

 そして市街地に潜んでいるのを、

 父が魔力を駆使して探り当て、保護したらしい。


 そんな彼らに目を細めつつ、母は続ける。

「フリュンベルグ国は侵入していた聖騎士団を捕縛し尋問した結果、

 王族に対し強く抗議するために、この国に軍を派遣した。

 フリュンベルグ国兵だと偽証し犯罪を犯したことや、

 無断で国境を超えた事に対する抗議だそうだ」

「あの、ジェラルドは!?」

 私はたまらず母に尋ねた。


 母は生気に満ちた、そしてどこか誇らしげな顔で答える。

「この書簡は公爵からのもので、目的を果たしたという報告だ」

 その言葉に、私は歓喜する。

 ジェラルドもきっと見つかったのだ。

 ああ、大きな怪我などしていないと良いのだけど。


「さらにはロンデルシア国の妖魔襲撃、および国宝の盗難計画が

 シュニエンダール国の王家によるものだったと明らかになった。

 さらには捕らえられた”第9団”への尋問により

 王家による犯罪計画が暴露されたため

 ロンデルシア国は大群を率いて、こちらに向かっている」


 私は胸が高鳴った。いよいよ始まるのだ。

 シュニエンダール国の終わりと、始まりが。


 後は、レオナルド。あなたが戻ってきてくれたなら。


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