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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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104.聖女の役割

 104.聖女の役割


 人々を欺いた罰として、聖なる力を奪われた聖女べリアさん。

 傲慢さがもたらした結果ではありますが、

 力を妖魔に奪わせるなど、

 あまりにも非道なやり方ではありませんか。


 そもそも禁忌の印”のついた妖魔を

 聖職者が地下で飼育しているなんて。

 警察が違法な植物を栽培してるようなものです。


 彼女への刑罰を含め、それらを他国の教会が知れば、

 非難ごうごうの大炎上間違いなしでしょう。


 激怒した後、すっかり落ち込んだ私に、

 助祭のマウロさんとフランコさんは

 申し訳なさそうに言い出しました。

「……すみませんが、そろそろ」


 そうでした。おそらく全ての業務が滞っているのでしょう。

 新しく聖女になられた王妃様は、

 大教会で祈りを捧げているそうです。


 そのため、町の人々とともに祈りを捧げたり、

 定例の日常祭事を私が行わなければなりません。


 すがるような目で見てくる皆さんに、

 私は精一杯、笑顔でうなずきました。

「はい! では参りましょう!」


 ************


 ……こういうのは、元世界でも味わったことがあります。

 ”さっき出社したばかりなのに、もう帰りたい”、

 そう思ってしまう朝のテンションです。


 復帰してわずか三日目ではありますが、

 私は転生して以来、最も忙しく過ごしていました。


 教会での一日は、基本は祈りを捧げたり

 皆に説教!? をしたり、相談に乗ったりするものです。

 でも聖女はそれだけではいけません。


 人や建物についた(けが)れを払ったり、

 妖魔による毒などに感染した人を治療したり。

 その他、奉仕活動や病人のお見舞いや人々への癒しなど、

 次から次へと一心不乱に進めていきました。


 いうなれば、医者とカウンセラーと清掃員と

 福祉課の公務員さんの役をこなさなくてはならないのです。


 そして聖女のもう一つの役目。

 それは”聖像(アイドル)”です。


「ああっ! 聖女様! やっと来てくださいましたね!

 ほらお母さん、フィオナ様ですよ」

「お久しぶりです、お元気でしたか?」

「嬉しいねえ、ありがたいねえ」

 そう言って私の手を握るおばあちゃん。


「みんなー! 聖女様がいらしたわよー!」

「やったあフィオナ様だ!」

「ねえねえ手をつないで!」

「この傷見てー、この間ね、転んで痛かったの」


 どっと押し寄せる子どもたちをさばきながら、

 私はちょっと安堵していました。

 この国が今、大荒れに荒れている中、

 子どもたちが元気でいてくれて本当に嬉しかったのです。


「良かったあ、またフィオナ様で。だって前の聖女なんて……」

 最後まで言い終わる前に、その子どもの口は塞がれました。

 あのような最期を迎えたべリアさんのことを

 子どもたちに知られないよう、

 町の大人は必死に隠しているようでした。


 子どもたちがおやつを食べに行った時に、

 彼らの面倒を見ている女性に私は思わず言いました。

「確かにとんでもない方でしたが……

 あのような罰を受けるのは、あんまりではありませんか?」


 するとその女性はハッと硬直し、キョロキョロした後、

 私に詰め寄って小声で言ったのです。

「決してそのようなことを表で言ってはいけません!」


「な、何故でしょうか?」

 不思議がる私に、女性は怯えたように言いました。

「聖騎士団に聞かれたら捕縛されてしまいます。

 あの公開処罰の後も、何人かの聖職者の方が

 教会に抗議しに行ったんですが……」


「ですよね、私もひどすぎると……」

 そういう私の口を手のひらで押さえ、彼女は言ったのです。

「抗議しに行った者は、誰ひとり戻ってはきませんでした」

 私は驚いて目を見開きました。


 彼女は周囲をうかがいながら、さらにショックな話をしました。

「それどころか、あの処罰を批判した町の者の家は

 窓ガラスが割られたり、ドアが壊されたり……

 ひどいものでは火を放たれたりしました」


 恐怖と怒りで頭がいっぱいになった私に

 女性は悲し気に言いました。

「戻ってきてくださったのは本当に感謝しております。

 今こそ、私たちには安らぎと救いが必要なのですから。

 聖女の存在が、心細く不安な私たちの希望なんです。

 たとえ、お声をかけていただくだけでも……」


 私は、ここ数日ひさびさに会った人たちの

 笑顔や歓声を思い出しました。

 彼らは安寧と活気を求めていました。

 私のような三流聖女でも、大喜びで迎えてくれたのです。


 女性は厳しい顔で私に強い調子で言いました。

「……しかし、フィオナ様。

 どうぞお気をつけください。

 ここはもう、かつての町ではありません」

 魔族と妖魔が人に紛れる、恐ろしい町なんですね。


 私はうなずき、そして笑顔で言いました。

「大丈夫ですよ!

 この町は、もうすぐ生まれ変わります!

 レオナルド殿下が全て壊してくれるんです」


 王子が生まれた時に受けた天啓は

 ”この者が国を去れば、シュニエンダールは滅び、

 この者が国に留まれば、シュニエンダールは破壊される”


 彼が討伐に向かったパルダルは遠方とはいえ、国内です。

 ということはもうじき、この国は破壊されるのでしょう。

 それはもう、木っ端みじんに。


「え……レオナルド殿下って……あの、第三王子の」

 彼女は困惑した笑みを浮かべていましたが

 私はお辞儀をしたあと、歩き出しました。


 その施設を出た私の後を、

 マウロさんとフランコさんが慌てて追いかけて来ました。

「あれ? どこに向かわれますか?」

 私は振り向いて、彼らに言いました。

 あえて、見回りの聖騎士が居る前で。


「申し訳ございません。急ではありますが

 知り合いに会いに行くので、しばらく任務を外れますね」

「ええっ、お知り合いの方ですか!」

「お供しましょうか? いったいどなた……」


 私は話を遮り、彼らにお願いします。

「独りで行きます。

 先に教会に戻っていてくださいね」


 すごすごと去って行く彼らに手を振った後、

 小道に入って緑板(スマホ)で検索を始めました。

 まずは、その”知り合い”の居場所をつきとめること。

 そして力になってくれそうな他国の聖職者を探さなくては。


「おい、お前。何をしている」

 夢中で検索していたら、急に背後から声をかけられ、

 思わずビクッとして飛び上がってしまいました。


 さっき私たちを横目で見ていた聖騎士の男が後ろに立っていました。

 見下したようなまなざしで、私を(いぶか)し気に見ています。

「ち、力を使いすぎて疲れてしまって。

 たいした力を持たないものですから……」


 私のとっさの言い訳を聞き、彼は口元を歪めて言いました。

「……たいした力もねえ奴が、何が聖女だよ。

 おとなしく平民の話し相手でもしてりゃいいんだ」


 私はチャンス! と思い、彼に笑顔で話しかけました。

「そうなんですよー。ほとんど無くなっちゃいましたからね。

 ”禁忌の印”のついた妖魔、ホントに怖いですねえ」


 聖騎士の男はさらに馬鹿にしたような口調で言いました。

「もともと力なんて無かったんじゃねえの?

 お前、あの女よりも使えなさそうだったしな」

「ああー、べリアさんのことですか?

 そういえばあの人ってどうしているんです?

 私、最近まで国を出ていて知らなくて」


 私の質問に、彼は大きく顔をゆがめた。

「……お前、知らないのかよ」

「もう聖女ではなくなったのは聞きましたよ。

 だからまた、私みたいなポンコツが呼ばれたんですよね?

 べリアさん、聖女の仕事が面倒になってしまったのかなあ」


 私が残念そうに言うと、彼はフン、と鼻で笑って言ったのだ。

「あいつはもう、ただのゴミクズだよ」

 私は一瞬、怒りで爆発しそうになりました。

 彼女をそんな状態にしたのはあなた達でしょう!


 そう叫びたいのを必死にこらえ、私は驚いた顔で言いました。

「えっ? もしかしてお病気ですか?

 それなら私、良いお薬を持っているんです。

 チュリーナ国で入手したんです。

 ふふっ、実はものすごい高値な薬で

 この国で売れば大金が手に入るんですけど……

 って、聖女がこんな誘惑に負けちゃだめですよね、えへへ」


 その聖騎士の目がキラリと輝いた後、

 ニヤニヤ笑いながら、急に親切な声で言いました。

「俺に渡せよ。あの女に飲ませてやるから」


 私はあえて、嬉しそうに答えました。

「良いんですか! わあ、助かります。

 でも開封には私の魔力が”鍵”になっているので、

 私も一緒に行きますよ! 

 彼女の目の前で箱を開封します」


 私がそういうと、彼はしぶしぶうなずきました。

 まあ開封したら奪ってやろう、そう思っているのがミエミエです。


「じゃあ宿の金庫から取ってきますね」

 私は待ち合わせの場所と時間を決め、

 いったんその聖騎士とわかれました。

「じゃあ、”ヘーネスの酒場”の前でな。

 あんまり待たせるなよ」

 彼はそう言って歩いていきました。


 その背中を見ながら、私はドキドキしていました。

 ……断じて恋ではありません。


 自分で策を考え、自分で行動する。

 みんなが居ない今、私は独りで成功させねばならないのです。


 ”知り合い(べリアさん)に会いに行き、

 彼女を助け出して外国へと逃がす”、 という計画を。


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