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リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と落ちこぼれ騎士と手を結び、腐ったシナリオを書き換える〜  作者: enth
最終章

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103.聖女べリアの顛末

 103.聖女べリアの顛末


「フィオナさん! よくぞ戻ってきてくれました」

 マウロさんが私の手を握って、感極まったような声をあげます。

「絶対、断られると思ってたよ……良かった、本当に良かった」

 フランコさんも腕を目に当てて涙をぬぐいました。


 ここは私の拠点だったゲルメン教会です。

 あの頃はまだ下働きをしていた二人も、

 今では立派な助祭さんになっていました。


 皆さんの熱烈な歓迎ぶりに、私は事態を察し、

 内心”あちゃー”と思っていました。何故なら。


 ”異常に歓迎される職場は、

 かなり切羽詰まったギリギリの状態”、

 という元・世界での経験があるからなのです。


 私は苦笑いをしながら、皆さんに言いました。

「でも私、相変わらずたいしたこと出来ませんよ?

 簡単な治癒とか……浄化とか……」


 それを聞いた皆さんはブンブンと首を振ってから答えます。

「良いんです! 出来るからって感謝を強く要求してくる聖女より!」

「人々の声も聞かず、決められたことしかやらない聖女より!」

「勝手なことをしたり間違っても人のせいにする聖女より!」

「「「 全然マシですっ! 」」」

 ……マシって……それはまったく、褒められていないと思いますけど。


「……あの……聖女べリアは、一体何を……」

 私はみんなに尋ねました。

 彼女がやらかした話は、公爵からの書簡で知ってはいたけど

 実際その場にいた人たちの話をきかせてもらいたかったのです。


 彼らは目を合わせた後、ふうっとため息をついて。

 呆れるようなその顛末を話してくれました。


 ************


「え? ここで祈ると聞いていますが?」

「違います。”あちらでお願いします”と毎回お話しています」

「あら、では、毎回あなたが間違えて説明していたのでは?」

「……」


 聖女べリアは確かに、抜きんでた”聖女の力”を有していました。

 しかし、それを使ってもらうまでと、

 使ってもらった後が本当に大変だったそうです。


「”自分が特別な存在である”というのに酔っていやがって……」

「ああ、それも泥酔だよ。

 あんだけ傲慢にふるまえるなんざ普通(シラフ)じゃねえよ」

 怒りつつも呆れたように町の人たちがぼやきました。


 彼女はそれだけでも”厄介者”だったが、

 褒め称えてなだめすかせて、

 なんとが聖女の業務をこなしていたそうです。

 そんな生活が破綻したのは。


「なーにが”ワタクシ、優れた霊力も持っていますの!”、だよ」

 私は心の中でふたたび”あちゃー”と思いました。

 そして”殿下には正座で反省してもらわなくては……”とも。


 私たちが緑板(スマホ)で次々と秘密を暴き、先手をどんどん打つのを

 王家の皆さんは”スパイか裏切者がいる!”と思ったのです。

 そして周囲の侍従や公爵家を疑い始めました。


 罪のない人が疑われ断罪される危険があったため、

 王子は先読みできた理由を、”心霊現象”に仕立てたのでした。


「教会に魔族が潜んでいると、

 母上の霊が俺に教えてくれました」

 などと言って、王族の追及をまぬがれたのです。


 まあゲームや漫画でしか見たことのないような生き物や

 いまだにどういう原理かわからないまま使っている魔法など

 異世界ならではの設定があふれている状態です。

 王子の読み通り、それ自体は意外とすんなり受け入れてもらえました。

 ……でも。


 王子はそれに聖女べリアさんの高慢で、

 無駄に負けず嫌いな性格を利用したのです。


 彼女は”謝ったら死ぬ病気”にかかっているだけでなく、

 ”マウントを取らないと滅びてしまう世界”の住人だったため

 それはもう、簡単に王子の挑発にのってくれました。


「聖女というのは大変だな。

 視たくもないものも視えてしまうのだから」

 などと当たり前のように王子に言われ、 

 ”できない”とか、”知らない”とは決して言わない彼女は

「そうなのです。時おり、その声で眠れないほど

 多くの死者が私に救いを求めてやってくるのです」

 って返してきたのです。

 その臨機応変っぷりには感心してしまいました。


 適当に話をあわせただけなのに彼女は本気になり、

 この手の話はみんな大好物だったらしく、

 あっという間に盛り上がり、拡散したようでした。


 それで、調子に乗ってしまったのでしょう。


「いっつも偉そうで嫌われていたのに、

 いきなり人気が出て嬉しそうだったからな」

「”私の力で死者の声を届ける”って宣言してたよ」


 しかし。彼女の力はまやかしだったのです。

「でもさあ。さすがにみんな気が付いたんだよ。

 ”こいつ、誰にでも当てはまるようなこと

 適当に言ってるだけじゃね?”って」

 町人のひとりが言い、みんながうなずきました。


 恋愛のいざこざ、仕事への不満、健康の不安。

 亡くなった家族や先祖、大通りに彷徨う浮遊霊や地縛霊。


 そういったものを出せば、

 当たりもしなければハズレもしない、

 というお告げを繰り返していたそうです……なんとも残念。


 いったん疑惑を持たれると、後は転落の一途。


 反発心を持った若者が、わざと相談を持ち掛け

 べリアさんにさんざん喋らせた後、

「嘘でーす! 俺の親父は生きてまーす!」

 とニヤニヤ笑いながら暴露し、仲間たちと爆笑したり。


 殺人現場が心霊現象で困っている、と呼び出し

 彼女が除霊のために奮闘し

「みなさん! 逃げてください!

 霊が怒り狂っていますっ!」

 などと激しい演技を見せた後に


「ここで人が死んだことなんてありません~

 ここはずっと昔から豚小屋でした~」

「あっれー? もしかして、豚の霊と戦ってました?」

 真っ赤な顔で怒りに震えるべリアさんを

 見守る人々はドッと笑ったり。


 それだけだと、町の人もちょっと微妙だが

 べリアさんはそもそも、

 ”霊が視える”とことを理由に仕事をサボったり

 多額の報酬を請求をしていたのです。


「そんな訳で、いろいろ大問題になって。

 べリア(あの女)は聖女の名をはく奪されたんです」

 マウロさんは疲れたような顔で語り終えました。


 私はため息をついた。

 ……これはもう、自業自得としか言えないでしょう。


 べリアさんの間違いを認めないところや

 絶対に謝らないところ、

 ”出来ない”と言えないことなどで

 いつか絶対に問題を起こすとは思っていました。


 聖女なんて、特別なものでもないのに。

 私はそう思いながらも、彼女の行く末を案じました。

「べリアさんは……どうなりました?」


 私もそうでしたが、聖女を”退職”した後は

 もはや聖職者として働くことは無理でしょう。


 元・世界のように”同業他社への転職禁止”を

 教会が禁じているわけはありませんが

 スキャンダルで芸能界を追われたアイドルくらい

 たとえ復帰しても人が寄り付かないと思われます。


 それに、私はひそかに”依願退職”でしたが、

 べリアさんの場合は”解雇”です。

 この先、どうやって食べていくかなんて

 考えてもいなかったのではないでしょうか。


 私の質問に、マウロさんやフランコさんだけでなく、

 他の人々もいっせいに黙り込みました。

 さっきまで彼女に怒ったり、

 ”聖女から引きずり降ろされた”、と嘲笑していた彼らは

 気まずそうに私をチロチロ見ています。


 私は最悪の事態を想像して青くなりました。

「……ま、まさか!」

 彼らは大慌てで、私に違う違う! と手を振り言いました。

「死んでない! 死刑にはなっていないんだが……」

「えっ? 死刑?!」

 私は意味がわからずビックリしました。


 私は”まさか、彼女も醤油の製造販売を始めたのか?!”と

 ライバル社の出現に怯えていただけなのですが……。


「……こんなこと、フィオナさんには話しにくいんだけどね」

 そう言ってフランコさんが申し訳なさそうにつぶやきました。

「べリアはさ、ある意味、”聖なる力”を悪用したわけですよね?

 あの力があったから、いろんなワガママを言ったし、

 たくさんの嘘をついて人々を騙すことができたんから」


 私はうなずきました。確かに、そうではありますが。

 マウロさんは眉をしかめたまま言いました。

「だから教会が、彼女から聖なる力を()()()()()んだ」

「えっ? 取り上げる? 使用禁止にしたんですか?」


 彼らは一様に首を横に振った。

 そして彼らの口から出たのは恐ろしい刑でした。


「教会の幹部たちは、長い(くさり)をつけ、

 べリアを檻に放り込んだんだよ。

 ”禁忌の印”のついた妖魔がいる地下に埋まった檻にね」


 私は両手で口を塞いだ。なんてことを!

 とても神職者が与えるような刑罰とは思えません。

 ”禁忌の印”のついた妖魔は”聖なる力”を

 すべて吸い取ってしまうのです!


「そんなことをして、無事だったのですか?!」

 私が叫ぶと、フランコさんはうなずきました。

 ただし、不快そうな顔のままで。


「命は、な。だけど……ものすごい叫び声の後、

 すぐに鎖が引き上げられて……

 べリアは正気を失っていたよ」

 聖なる力を妖魔に根こそぎ奪い去られ、

 ボロボロになった姿で。

「しかも、公開処刑だったんですね……」

 私の声はかすれていました。


「俺たちもそこまでは望んでなかったよ。

 だからみんな、後味が悪くってさ」

 決まり悪そうに、町の人がつぶやきました。


 私は怒りが爆発しそうでした。

 べリアさん、どれほど恐ろしかったでしょう。

 そしてどれほど悲しく、絶望したのでしょうか。


 私にはわかっていました。

 オリジナルのフィオナも似ているところがありましたから。


 ”聖女の力を持っている”。彼女もオリジナルも、

 心の底で自分を”それ以外の取り柄のない人間だ”、と

 評価しているように思えたのです。


 その唯一の自信を、生きる支えを取り上げられるなんて。

 特に彼女はその気持ちが強かったはずなのに。


 教会の幹部は、それを理解していたからこそ

 この刑に決めたんだ、と私は確信しています。

 あの人たちはそれくらい、

 残酷で無慈悲なことを平気でできるから……。


 それに。”禁忌の印”のついた妖魔。

 こんな王都に、あの妖魔がいるなんて……。


 私はふと、キースさんの言葉を思い出しました。

「”いる”、”いない”というのは”人の認識”だ。

 ガウール周辺では認識されやすかった、それだけだ」


 あの後、王子も言っていました。

「つまり、人が見つければ”いる”。

 見つからなければ、実際はいたとしても”いない”ってことだ。

 犯罪件数も警察がカウントしなければゼロだからな」


 ”禁忌の印”のついた妖魔は、

 実はどこにでもいたのかもしれない……

 私はそれに気づき、独りで身を震わせるしかありませんでした。


 今までと違って、王子もジェラルドさんも、

 エリザベートさんもいません。


 私は今、独りきりなのです。


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