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呪われ姫の絶唱  作者: 朝露ココア
第2章 入学
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クラスN

立ちすくむ。

ノーラが見上げた視線の先、『クラスN』と書かれた札がかかっている。


今日は初めてクラスNに通う日。

教室は校舎の最上階にあって、その教室の扉にだけ黄金の装飾が施されていて……明らかにオーラが違う。


「ね、ノーラちゃん。なにしてんの?」


背後からエルメンヒルデが怪しげな視線で覗き込む。

いつまでも扉を開かないノーラにやきもきしているらしい。


「あ、あのさ……エルメンヒルデちゃんから入ってくんない?」


「え、エルンが先に入っていいの? じゃ、失礼しまーす!」


「ちょ」


エルメンヒルデ遠慮なく扉を開け放った。

先に入ってとは言ったが、せめて一言くらい。

慌ててノーラも後を追う。


「し、失礼します……」


天井から吊るされた黄金のシャンデリア、厚い真紅の絨毯。

さながら王族の部屋かと見紛うほど内装は金に飽かせていた。


そして三日前に見た、四人の男子の先輩の姿が。

彼らは長机を囲むように座っていて、真っ先にペートルスが立ち上がる。


「やあ、おはよう。ノーラにレディ・エルメンヒルデ。とりあえず、そこの席に座ってくれる?」


ノーラは恐るおそる椅子を引き、エルメンヒルデは無遠慮に音を立てて椅子を引く。

二人の様子にフリッツが眉間にしわを寄せていた。


「――クラスNへようこそ。僕たちの中に眠る、科学的・魔術的に解明されていない未知なる力……それを研究するために設立されたのがクラスNだ。こうして新たに二人の仲間を迎えられて喜ばしく思う。これからどうぞよろしく」


「よろしくお願いしますー」


「よ、よろしくお願いいたします……」


ペートルスは満足げにうなずき、机を囲む面々を見渡した。


「ノーラはすでに全員と顔を合わせているけど、レディ・エルメンヒルデはみんなの顔を知らないね。ここは自己紹介も兼ねて、簡単なあいさつをしようか。名前と自分の『特殊な力』、あとは適当にひとこと。僕から始めて、最後に新入生の二人にあいさつしてもらうからよろしくね」


流れるように場を取り仕切るペートルス。

こういう場で主導権を握るのは慣れたものなのだろう。

新入生にあいさつを考えさせる時間を与えつつ、自分が先陣を切る。


「改めまして。僕はルートラ公爵令息、ペートルス・ウィガナック。三年生だ。僕の持つ特殊な力は『音』……周囲の音をはっきりと聞き取ったり、音による衝撃波を生み出したりできる。一応このクラスNの級長だから、困ったことがあればなんなりと」


ペートルスの能力については事前に知っている。

周囲の聞きたくない音も"聞こえてしまう"……なんて愚痴をこぼしていたこともあった。

特異な力が必ずしも人生を幸せにしてくれるとは限らない。

ノーラの呪いのように。


「次、ヴェルナー」


「チッ……三年、ヴェルナーだ。俺は魔力を持たないということでクラスNに配属された。以上だ」


ヴェルナーは不服そうに自己紹介を済ませる。

やっぱり怖そうな先輩だと、ノーラは萎縮してしまう。

次の人の自己紹介に移るかと思われたが、マインラートがいたずらな声色でヴェルナーを指さした。


「ヴェル先、それじゃ舌足らずってもんさ。後輩には正しい情報を教えないとな。正しくは『魔力を持たないが、謎の魔術が使える』……だろ?」


「…………黙れ」


魔力がないのに魔術が使える。

それはおかしいと、ノーラは眉を上げた。

喩えれば小麦なしでパンを作るようなもの、水なしでライスを焚くようなもの。


尋常ならざる事実を暴露されたヴェルナーは、殺気立って立ち上がる。

瞬間、腰に下げていた剣を抜いた。


「マインラート、貴様……斬り殺されたいか?」


「うわっ!? な、なんだよ……事実を言っただけじゃん? どちらにせよ後々知れ渡ることなんだからさぁ……そう怒んなって」


「そこまで。ヴェルナー、剣を納めて」


この展開にはペートルスも表情を引き締めてヴェルナーを制止した。

何がヴェルナーの怒りに触れたのか。

初見のノーラとエルメンヒルデは口を開けてぽかんとしていた。


「ペートルス、お前がマインラートの代わりに剣を受けてくれるのか? この腑抜けが」


「嫌だよ。少なくとも"今の君"と剣を交えるなんて、退屈すぎてまっぴらごめんだね。さ、座って」


「チッ……」


まるで獰猛な竜だ。

何が逆鱗に触れるかわからないし、関わらないに越したことはない。

苛立ちを抑えて座るヴェルナーをチラチラ見ながら、ノーラは可能な限り存在感を消していた。


「失礼したね。次、マインラート」


「あいよ。スクロープ侯爵令息、マインラート・サナーナだ。二年生。そこの……ペー様とは幼なじみ。異能は『結合』……まあ、これは言葉で説明するのは難しいから、そのうち実践してみせるよ。……あ、エルメンヒルデちゃんだっけ? あとで俺とお茶しない?」


「お断りします」


綺麗にフラれたマインラートはひゅうと口笛を吹いた。

エルメンヒルデも反応を見る限り、男性に言い寄られることには慣れているのかもしれない。

たぶんノーラが同じことを言われてもたじたじになる。

平民に厳しいマインラートは、ノーラをお茶になど誘ってこないだろうが。


「お次は私ですね。二年、セヌール伯爵令息、フリッツ・フォン・ウォキックと申します。異能は『未来予知』。こう言うと大仰なものに勘違いされますが、実際は大したものではありません。天体観測や読書が趣味です。よろしくお願いします」


未来予知……とんでもない力の気がする。

しかし当人が言うように、案外大したものではないのかもしれない。

色々と制約がかかっていたり、予知できる範囲が限定されていたりとか。


「よし、次は新入生の番だね。次は……どっちにする?」


「んー……ノーラちゃん、エルンからいこっか?」


「う、ううん。わたしからいく!」


最後になるのが嫌だから。

自主性を出したと思わせつつ、トリを避ける卑劣な手段である。


「すっ……ノーラ・ピルットです。えっと、わたしは……右目を見た人が恐怖する、そんな呪い的な何かを背負っています。趣味は歌とか絵描きです。あの、賤しい平民ですが……よろしくお願いします……」


ノーラはぎこちない所作でカーテシーした。

自分にしては噛まずに自己紹介できた方だと思う。

教室で大人数の前であいさつした時よりはマシだった。


すでに彼女を知っている面々は特に何も言わず、黙って自己紹介を聞いていた。

彼らの視線はノーラの右目を覆う眼帯に集約している。


「ありがとう。それでは、次はレディ・エルメンヒルデ」


「はい! アナト辺境伯令嬢、シュログリ教の口寄せ巫女、エルメンヒルデ・レビュティアーベです。特殊な力は……その名の通り神様をその身に降ろして神託を授かったり、御力を授かったり。でも、あんまり自分の力を研究したいとは思ってなくて……なーんか勝手にクラスNに入れられてたんですよね。ふつーのクラスで楽しく過ごすつもりだったのにねぇ」


エルメンヒルデは複雑な表情を浮かべる。

勝手にクラスNに入れられたのはノーラも同じだが、自分の力を究明したいと思っている。

本人が望んでいないのに勝手に配属されるのはいかがなものか。


エルメンヒルデの神妙な声色を受けて、マインラートは肩をすくめた。


「どーせまたペー様の仕業だろ? レビュティアーベ嬢を勝手にクラスNに入れたのは」


「いや。レディ・エルメンヒルデに関しては僕も知らないね。シュログリ教の秘密を暴こうとした皇帝派の思惑か、あるいは……うん。どちらにせよ、レディ・エルメンヒルデには申し訳ないことをしたね。自分の秘密を話したくないなら、強制はしないよ」


「うーん……ちょっと様子見します。エルンの力って、自分だけのものじゃなくてシュログリ教全体の神秘に関わるものなので」


宗教の話云々はよくわからない。

相変わらず世間知らずのノーラはエルメンヒルデの出自すら知らなかったし、なんか気に食わない女としか認識していなかった。

相手の内側に踏み入ることは怖いけれど、もう少し相手のことを知る努力をすべきかもしれない。


「これで互いの自己紹介は済んだね。それでは――本題に入るとしよう」

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