66 はい、覗きます
セラナはタクトがいなくなった小屋で一人、ベッドに寝転がっていた。
枕を抱きしめ、顔を埋める。
そして左右の太股を擦り合わせながら、息を荒くしていた。
「はぅ……タクトくんが変なことを言うから……覗くつもりがなかったのに、覗きに行きたくなっちゃったじゃない……!」
一緒に入ってみたいなぁ、とは思っていたが。
人が入っている風呂を覗くだなんて、そんな破廉恥な発想。セラナの頭には浮かばなかった。
しかしタクトによって、そういう選択肢もあると教えられた。
教えられた以上は、妄想してしまう。
まだ見ぬタクトの裸。
容易に想像できる。
白い肌に、華奢な体。女の子と見紛う撫肩。
毛なんて全然生えていないに違いない。
ああ、全身をペロペロ舐め回したい――。
「って! 私は何を考えているのよ!」
セラナは枕を投げ飛ばし、それから額を壁に打ち付けた。
膨れ上がったタンコブをさすりながら、どうすればこの煩悩を消すことが出来るのだろうと悩み抜く。
そして、答えは意外と単純であると気がついた。
「そうよ! こんなに覗きたいなら、覗きに行けばいいんだわ! タクトくんだってあんなに『覗くな』って言ってたし。きっと振りよね、振り。ここで覗きに行かなきゃ、逆に嫌われるパターンだわ。待っててねタクトくん!」
自分を納得させるための理論を展開している間に、セラナはそれを本気で信じ、世界の真理であるかの如く心に刻み込んだ。
方針が決まれば、善は急げ。
セラナは千鳥足で風呂がある小屋に向かう。
それしにても、どうして真っ直ぐ歩けないのだろう?
ああ、そうだ。
さっきお酒を飲まされたからだ。
どおりでさっきからテンションが高いと思った。
「窓から覗く……うーん、それだとエルフの人に見られたら変に思われるし。やっぱり脱衣所よね!」
セラナは堂々と脱衣所に入っていく。
すると籠の中に、丁寧に折りたたまれたシャツを発見する。
「タクトくんのシャツだ……わーい!」
セラナは反射的にそれに飛びつき、手にとって、くんかくんかと匂いを嗅ぐ。
しかし、さっきからドンドンいい気分になっていくのはなぜだろう?
それはお酒が回ってきたから!
お酒万歳!
「ふぁぁ……タクトくん、いい匂いだよぉぉ……本人はもっといい匂いなんだろうなぁ……」
もはやセラナは冷静な判断力を完全に失っていたが、自覚はない。
ふらふらと夢遊病のように歩き、何の小細工もなしに浴室の扉をあける。
そこには湯に浸かり、手ぬぐいを頭の上にのせてくつろぐタクトの姿があった。
「ほぁぁっ!? セラナさん、な、何のつもりですか!」
いつも何が起きても平然としているタクトが、目を見開き愕然としていた。
だが、セラナは構わず進撃する。
「えへへ、タクトくーん。一緒にお風呂はいろー」
「こ、来ないでください! セラナさんのえっち!」
タクトは近くにあった桶を掴み、思いきり投げてきた。
普段のセラナなら苦もなく避けられるものだったが、今は泥酔状態。
そもそも危機が迫っていると察することすら出来なかった。
ゆえに顔面直撃。
その衝撃で後ろに倒れ、今度は後頭部を石の床に強打。
ドガンッ、と盛大な音が風呂場に響く。
「ちょ、ちょっとセラナさん! 大丈夫ですか!?」
タクトが慌てて湯から上がり、裸で駆け寄ってくる。
「うわっ、血が、血が割とシャレにならない勢いで広がっていく! セラナさん、しっかり!」
なにやら大事故でも起きたような大声で喚いてくる。
しかし、セラナは何も痛みを感じない。
いい気分なだけだ。
「うへへ……タクトくんが裸だぁ……」
「何を言って……ああ、もしかして。いまごろ酔いが回ってきたんですか。慣れないものを飲むから……もう! 俺、回復魔術は苦手なんですけどね!」
タクトがセラナの頭に手を添え、魔力の光を放つ。
そのおかげでますます気持ちよくなり、セラナは幸せな気持ちのまま、眠りに落ちていった。
ちかごろ更新するたびにブクマ数が減る状態になっているので、次回からは更新頻度をちょっと下げ、その代わり一話ごとの文字数を増やす作戦にしようと思います(`・ω・´)!




