第9話 迎えに 19:48
勇気。繁栄。
↑と時間合わせたくて投稿してます。我儘ですみません。
家事を終わらせ食事をして全てを終わらせた後、俺は自分のベッドへ寝転んだ。
「取材ねぇ」
俺は今日あった事を思い出しながらボソッと呟く。
今日、水瀬と別れ隣の教室へ入ると、そこにはいつもの幼馴染達と女子が1人、座って談笑していた。
アレクが言うには、新聞部の子で3人を学校新聞の取材をしたくて教室で待っていたらしい。
ま、アイツらは有名人だから記事の内容にしては、大当たりの部類だろう。しかし、取材となるとまた時間が取られそうで、俺としては嫌な所である。3人が受けるものだし、俺が口出しするのは何か重いメンヘラな奴みたいになるだろうから何も言わないが……俺達の夏休みの予定はどうなるんだか。
「ちょっとグループに言っとくか」
俺は『幼馴染』のグループに「これから夏休みの予定について議論しよう。このままじゃ、予定も決められずに終わってしまう」と送ると両手を横に広げた所で、ベッド横に置いていた紙が床へと落ちて気付く。
あぁ、そう言えば水瀬のLIN◯登録しないとな。
そう思った俺はLIN◯のIDを打ち込み、追加をタップする。
「まさか女子のLIN◯が俺のに入るとはなぁ」
今まで連絡先を交換した女子とは、もう既にブロックして縁を切っている。あの時は沢山の女子の連絡先があったけど、結局全員が幼馴染を狙った女子で、後に連絡が取れなくなった。
「……ちょっと声掛けてみるか」
俺はお気に入りのマンガ肉を頬張ったキャラクターの『よろしく!』と書かれたスタンプを送る。
女子とLIN◯で話すなんて久々過ぎて困るんだが……これで良いよな?
そう思っている内にも直ぐに既読が付く。すると同時にLIN◯の着信音が鳴り、『水瀬 澪』と書かれた画面が表示される。
で、電話だとっ!?
俺は恐る恐る画面をタップし、スマホを耳に添えた。
「も、もしもし」
『……もしもし?』
すると、俺の身体の奥底から刺激する様なしおらしい声音が、俺の鼓膜を震わせた。聞いた事のない声に、思わず上体を起き上がらせる。
『………あの、聞こえてたらお願いがあるんだけど、良い?』
「……ど、べ、別に良いけど」
『何焦ってんの? もしかしてドキドキしてる?』
俺が吃りながら答えると、電話越しに水瀬がバカにしている様な少し笑っているのが分かって、俺は気を引き締めた。
「ちげーよ、ただ……その、筋トレしてただけだ」
『へぇ……偉いじゃん』
「そっちは何か随分しおらしいな、何だ? また透明にでもなったか?」
『………』
この沈黙は肯定を示していた。
ふざけて言ったのを後悔しながら、俺は話を変える様に問い掛ける。
「それで? お前は何で俺に電話して来たんだよ? 何か用があったんだろ?」
『……別に。ただ少し話でもって思って』
は? 俺の事が嫌いだったろ? 何で急に……しかもいつもよりも言葉遣いが優しいと言うか……。
「なんかお前……変じゃないか?」
そう言うと、少しの間を空けて水瀬は言った。
『変なのはお互い様でしょ? 私は他の人から見えない透明人間、貴方は唯一私の事が見える変な人』
「それはそうだけど……言いたいのはそう言う事じゃ……」
『そっちこそ、対面してる時は酷い人なのに……何で今は優しいの?』
言われて、俺は口を手で覆った。
……確かに? 言われてみればそんな気はする。いつも感じる女子の嫌悪感、それが無い気がする。だけどそれは言われてみればの話だ。
「今はその話は良い。お前、今何処に居る?」
『柔和凛駅前だけど……』
こっから急いでも40分ぐらいか。
「ちょっと待ってろ」
俺はそう言って、電話を切ると部屋から飛び出した。階段を降りて玄関先で靴を履く。
「お兄ちゃん?」
「悪い、ちょっと出て来る!」
リビングに居た麻衣に訝しげに見られ、手短に言うと外に出た。外はしとしとと雨が降っていた。雨の時特有の匂いが漂ってくる。まだ雨は降り始めみたいだ。
「傘差してたら遅くなるな」
俺は傘も差さず、走って駅前まで向かった。
電車に乗り柔和凛駅に着くと、周りをキョロキョロ見ながら進む。すると待合室の中で座っている水瀬と目が合う。
「うわ、本当に来てる」
……やっぱり、来なきゃよかったな。
水瀬は思っていたよりも元気そうで、俺を見て笑っている。
俺は待合室には入らず、水瀬と視線を合わせながら電話を掛けた。
「中に入って来たら? ずぶ濡れだけど?」
「何でもない様に見えるんだが?」
「そうだけど? 私何かあるなんて言った?」
さっき電話していた人は幻だったのだろうか。とんでもなくムカつくんだが?
「傘は?」
「結局傘だけじゃ濡れちゃうのよ」
「カッパ」
「カッパなんて着ても染みてくるわ」
「バス」
「降りた後が問題」
………結局は雨の日は透明人間になるって事か。
「帰って良いか?」
「折角私に会いに来てくれたのに?」
「帰るわ」
揶揄うのならもう慈悲もない。
「ま、待って!!」
俺が改札へと向かうと、待合室から水瀬が飛び出てくる。勝手に開いた扉に、周りに居た人達が物不思議に見たが、直ぐに視線を離した。
「何?」
「……これから電車で帰るのよね?」
「流石に雨の中走っては帰れないだろ……」
流石の暑がりの俺でも、長時間雨に打たれるのはちょっと……と言うかもう疲れたし。
「これ」
ん?
彼女は肩掛け鞄の中をガソゴソと中を弄った後、ある物を取り出した。
1000円札?
「……詫び代?」
「違うわよ……惰流惰流駅までの切符を買って欲しいんだけど」
自分で買えって、もしかして機会が反応しなくて今まだ此処に居たのか? あり得るな。
ーーって! 今惰流惰流駅って言ったか!? 俺の家の最寄りじゃん!!
「水瀬もそこが最寄りなのか!?」
「一応……『も』って事は貴方も?」
俺はそれに大きく頷く。
まさか水瀬が俺と最寄りの駅だったとは。最寄りだったって事は、一度は顔を見た事があると思うんだが、まぁ、ここまで考えても出て来ないとなると会った事がないんだろ。
「取り敢えず早く帰るか」
服装は制服、見た感じは部活帰りで、恐らくご飯もまだ食べていない……あぁ、なんて可哀想なんだ。
「えぇ、そうね……あ、」
「ん?」
「あと私の事、家に泊めて貰える?」
「………はい?」
俺の口からは変な声が漏れ出た。
改札前。電車から降りて来た者達が数人、俺達の横を通り過ぎて行く。水瀬の身体は濡れていて透明になっている筈なのに、誰も水瀬に当たる気配はない。
人の邪魔になっている。頭の中では分かっている筈なのに、俺は笑顔で淡々とそう告げる彼女の前で只々立ち尽くす事しか出来なかった。
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