第6話 恋せよ乙女 14:21
お待たせしました。
受け入れ。始まり。
雨は、俺が願ったお陰か数分して上がり、雲の隙間から光が差していた。どうやら通り雨だった様だ。
「大丈夫か? 大丈夫ならもう帰りたいんだけど?」
俺は少し濡れた服に嫌気が差しながら、彼女に問い掛ける。
このまま此処に居てもどうしようもないと話しかけたんだが……反応が無いならこのまま無視して帰るぞ。
「えぇ」
俺がそんな事を思っていると、意外にも反応は返ってきて俺は少し憂鬱になりながらも、俺は彼女と共に歩き出した。
ぴちゃぴちゃと靴裏の水が地面と粘性を帯びた様な動きを繰り返す、そんなゆっくりとした足取りで俺達は進む。
「ねぇ」
そんな時、彼女は俯きながら小さく呟く。それに俺は周りに聞こえない様な声で「何だよ」と言葉を返した。会話をするのも一苦労だ。
「一緒にあのお店まで来て欲しいんだけど、良い?」
「はぁ? 何でまた?」
「物……お店に忘れて来たのよ」
「何で忘れて来たんだ……」
「ちょっと、ね……」
俺は少し呆れながらも、彼女を見つめた。彼女はこっちを見る事なく、目尻を下げて黙ったままだ。
………まぁ、ダイエットの為に少し歩いても良いか。
「ま、少しは付き合っても良いぞ」
俺が応えると、彼女は眉間に皺を寄せて眉尻を下げた……何と言うか、軽蔑しているかの様な視線を感じる。
「………貴方、友達居ないでしょ?」
まさかの質問に呆れて何も言えず、俺はニヤけながら肩をすくめて応えた。
ハッキリ言えば、部活に入ってないにも関わらず、こんなにも友達が居るのは俺ぐらいだと自負している程に俺には友達が多い。
それもこれも幼馴染達のおかげと言っても過言では無いのだが、1年の中では多分俺が1番だ。そんな俺に、そんなくだらない質問するとは……愚かなり。
「………ふん」
自信満々な俺の表情を見た彼女は、そっぽを向いて頰を膨らめている様に見える。
この反応、もしかしてーー
「友達居ないのか?」
「……別に、居るには居るわ」
「友達が居るって言ってもその様子じゃ、たかが知れるな」
俺が煽る様にして言うと、彼女は本当に小さな声で呟いた。
「居るわよ………ただちょっと同性の友達が少ないってだけ」
ははーん。
そこで俺は納得する。この言い方、物言いたげな表情。
彼女には女友達が居ない。
女の友情は、狭く深い。喧嘩をしたら一生それを引き摺るし、虐めも陰湿で最悪。泣けば良いと思ってるし、媚びへつらえば許して貰えると思ってる。後半は俺の感想だが、これだから女は嫌なんだ。
「ま、でも友達は居るんだろ?」
「男子だけだけどね」
「いや、だから何でダメそうに言うんだよ。それは自信持って居るって言っても良いだろ」
俺が言うと、彼女は目を見開いて此方を見た。
俺は彼女とは逆で、異性の友達が居ない。
だけど沢山の男友達が居る。同性であろうと異性であろうと、楽しくあれば友達は友達だろうというのが俺の持論である。
「………そう」
しかし、俺の言葉に彼女は物憂げにボソッと応える。
納得がいかない、そんな感じの返事だ。ま、これは俺の持論だし、他人に押し付けるのも良くないか。
と思いつつ喫茶店へと着き、そこで会話は終了した。
よしと、俺はそのまま扉を開ける。
「いらっしゃいませ〜って、アレ? 先程の……」
「すみません。忘れ物をしちゃったみたいで……」
店長と話しながら、俺は水瀬さんが店内へと入って来たのを確認して扉を閉める。
よし。コレでさっきの席でテキトーに探したフリをしたら終わりだ。さっさと家に帰ろう。
「……」
そう思い席に向かおうとすると、その通路の真ん中で水瀬さんが立ち往生していた。
「おい、何してんだ」
「……」
俺が小声で話し掛けても、反応はない。何故突っ立っているのかと見ていると、彼女の視線の先に居る者が目に入る。ダウナー男子だ。
「どう? オススメのとこなんだけど」
「最高っ! 良い所だね〜」
しかもその隣には、可愛らしい女子を座らせている。
「それよりもさ、さっきまで違う女の子と遊んでたんでしょう? 私と遊んでて良いの?」
「良いんだよ。アイツいつの間にか居なくなる時あるし、それにおちゃらけてる様に見えてガード固いし。ああいう清楚系は大体簡単に股開く筈なんだけどな」
「うわ〜、サイテー……」
「勿論、沙也加が1番だよ」
「誰にでも言ってるんでしょ〜? 分かってるって」
彼等はそんな言葉を交わしながら飲み食いしている。
そこに彼女が居るとも知らずに。
……そうか。そういう間柄として遊んでたのか。
「ん? お前……」
そこでダウナー男子が、立っている俺に気付く。
「……どうも」
「あー……悪いんだけどさ、此処で見聞きした事は忘れてくれない? 次に澪と会った時気まずくなったりしたら嫌だからさ」
ダウナー男子はヘラヘラと笑う。
その言葉は、ただ自分の利益の為に言ってると直ぐに分かった。最初は良い人だと思った。俺に甘い物が苦手だからとプリンをくれた、その第1印象で俺は騙されてしまっていたんだ。
「またプリン奢るからさ」
彼はカウンターに肘をつきながら言う。
此処に来たのも、彼女の為……いや、いずれは自分の為になると思っての行動だったって訳だ。
はぁ。
「別に、良いですよ。忘れるんで」
俺は正直に、今見た事を忘れる事にした。
俺が忘れたとしても、そこに居る彼女は覚えているから問題はないからだ。
「本当か? 助かる」
俺は肩を叩かれながら彼の隣の席を軽く探すフリをした後、呆然と突っ立っている彼女の腕を引いて店から出た。
すると、彼女は途端にしゃがみ込み、大きく溜息を吐いた。
「ほんと、もう嫌。やっぱり……」
その予想していたかの様な言葉に、俺は忘れ物なんて無かったのだと気付く。
「気付いてたのか?」
「…………そういう訳じゃない」
「じゃあ何でだ?」
「………毎回私が透明人間になっちゃって途中ですっぽ抜かしちゃうから、そろそろかなって」
あー……出掛ける度に、急に1人になったりしてたらそりゃそっぽ向かれるか。その人達の気持ちも分からなくもないな。急に居なくなりでもされたら、嫌われてると思われても仕方ないし。
まぁ、今回の相手はクズだったみたいだから結果オーライではあるだろうけどな。
「まぁ、次があるだろ」
俺が励ますと、彼女は涙目で此方を見上げた。
「私はただ恋がしたいだけなのに!!」
「……はぁ?」
そして言われた言葉に反射的に言葉を返し、俺は咄嗟に手で口を塞いだ。
恋。
恋、ねぇ?
恋とは、特定の人物の事を深く考え、知りたいと想う気持ち、切ないまでに想いを寄せる事を言う。
それに一言言わせて貰えばーー
くだらない、と言うのが俺の意見だ。
そんな感情が一切湧かないと言う訳ではないし、別に女子の事が恋愛対象に入らないと言う訳でもない。
ただ、今の俺には絶対に女子の事を好きになれない、そんな自信が根底にある。そんな気がするだけの話だ。
「……何? 何か言いたいの?」
俺の煽る様な返しにキレたのか、彼女は睨みつける様に見つめて来る。
「いや、別に」
それもこれも今の俺の現状に過ぎない。これも長年の女難の所為かな、と俺は薄ら笑いを浮かべる。
そんな時。彼女は立ち上がり、俺の目の前に立った。
「そのスカした感じ……私、アンタの事嫌いみたい」
「奇遇だな、俺も透明恋愛中毒者なんかと関わりたくも無いね」
別に女子に嫌われる事には慣れてる。
俺が嫌なのは面倒事。折角の夏休みだって言うのにこんな事に時間潰して、バカみたいだ。
俺は店前で、彼女と別れる。
これからは平穏な楽しい夏休みになる様、俺は心から願う。そしてどうせなら、楽しい夏休みになる様、雨は降らないで欲しいと……そう思った。
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