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服と歳下とご案内

「そっ、とだぞ……そー、っと……」

「やかましい」


 突き刺さった槍が抜けず、リリスにソッと抜いてほしいとお願いしたところ、彼女は俺の背中に足をかけて思いっきり引っこ抜いてくれた。


「いってェェエエッ!?」

「それだけ騒げれば問題なかろ……ん?」


 血を履きながら地べたを転がった俺が顔を上げるとリリスはペロペロと自分の指を舐めていた。


「な、に、やってんだよ……」

「なにって、もったいなかろ? 魔法を使って精気が減ってしまったからのう」


 妖艶な笑みを作って見せつけるように、指についた俺の血を舐め取るリリス。やめなさいっての。

 なんつーか、アレか? リリスが魔法を使う度に俺はリリスに精気を提供しなきゃならんのかな。だとすると、彼女に魔法を使わせるのも考えものだ。

 そんなふうに考えていると横からパタパタと足音が近付いてきて俺は顔を上げた。


「あ、あの! 大丈夫ですか!?」


 目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んできたのはかわいい女の子だった。その背後にももう一人心配そうに覗き込んでくる少女がいる。

 自分より少し年下かな、っと思うくらいの女の子たちはこちらが答える前に俺の方へ手を伸ばしてきた。


「お怪我は……!?」


 体に触れて怪我を確認してくる女の子たち。

 不覚にも俺は屈んだまま動けなくなった。

 彼女たちははぐれオークに襲われそうになっていたわけで。そのはぐれオークの手には引き千切られた布が握られていたわけで。

 そんなわけで、俺の目の前にいる女の子たちは衣服を引き千切られた状態になっている。控えめに言って見えてます、はい。


「えっ……あれ? 傷がない……そんな……」


 少女が槍の突き抜けた後の再生した皮膚に恐る恐る触れてくる。自分でも驚きだが、貫かれた傷はもう塞がったらしい。

 だが、それ以上に女の子に背中をダイレクトタッチされる経験なんか俺にあるはずもなく、視覚と触覚のダブルパンチが俺の銃身をいやが上にも押し上げる。


「おい……」


 その様子を黙って見ていたリリスが声をかけ、少女たちがリリスを見上げた。


「よいのか?」

「「…………?」」


 なんの事か分からなかったのか、首を傾げる少女たち。

 リリスがやや呆れたように目を細め、人差し指でちょいちょいと下を指した。


「丸見えじゃぞ?」

「「あっ……」」


 改めて自分たちの体を見下ろした少女たちの顔が見る間に赤く染まっていく。そして今更ながら横を向く俺。


「「いやあぁぁぁぁっ!!」」


 少女たちの悲鳴が見事にハモった。

 なんというか、ご馳走様です。




 少し森を進んだ先に綺麗な川原があるというので俺たちは場所をそこへ移した。


「よかったのぅ。事無きを得て」

「は、はい……」

「あ、ありがとうございます」


 茂みの向こうからリリスと女の子たちの会話が聞こえてくる。

 少女たちはそれぞれ、ミリエルとナディアと言うらしい。

 二人は幼馴染で回復薬の原料となるハーブを摘みに来ていたのだという。

 因みに発育のいい茶色の長い髪の少女がミリエルで、小柄でスタイルのいいのがナディアだ。二人とも今年十六歳になるという事なので、おそらく一個年下だな。


「も?」

「ああ、何でもないよ。モーちゃん」


 不思議そうに見上げてくるモーちゃんに爽やかな笑みを返し、俺は口を濯いだ。

 気持ち悪い吐血の感触を澄んだ水で洗い流していく。


「うーん……血の痕は消えないんだな」


 服やズボンに染み付いた血の痕を見て、ため息が出る。洗ってしまいたいが、今洗うと着る物がないのだ。困った。


「そっちはどんな感じじゃ、トーゴ」

「最悪と最高が一遍に来た感じ」


 軽口を叩きながら振り返ると着替えを済ませたミリエルとナディアが耳まで真っ赤にして俯いていた。その下から更に小柄なリリスが「阿呆……」と小声でツッコんでくる。ごめんなさい。


 ミリエルたちの着替えと言っても服を用意していたわけではなく、手持ちの布で簡単に体を覆っただけで依然として目のやり場に困る。


「モーよ。お主も苦労しそうじゃのう……」

「も……?」


 リリスの言葉にモーちゃんが首を傾げた。そんなモーちゃんにミリエルたちの表情が華やぐ。


「ハーブオックスですか!?」

「こんなところで見かけるなんて……」

「普通はいないもんなの?」


 不思議そうに尋ねる俺にミリエルが首肯した。


「ええ。幻獣ですから……普段は森の奥深くにいると思いますよ?」

「へぇ……」


 俺がモーちゃんの頭を撫でるとモーちゃんが気持ちよさそうに目を細めた。


「そのハーブオックスはトーゴと契約しておる」

「「えっ!?」」


 付け足すように説明したリリスにミリエルとナディアがまたハモる。息ピッタリだな、この二人。


「子供とはいえ幻獣に認められるなんて、相当な実力者なんですか?」

「そういえば、お二人は冒険者のように見えませんが……?」


 興味深そうに俺たちを見てくる二人にどう説明したもんか。

 俺がリリスに視線を向けるとリリスもこちらを見上げてきた。

 この顔は俺が説明を丸投げしようとしている事に気付いているな。すいません、こっちの世界の常識が俺には分からんとです。

 諦めたように嘆息したリリスが口を開いた。


「トーゴは召喚された異世界人じゃ」

「「えっ……、エェェェェェッ!?」」


 今日一番の「え」、頂きました。

 そんなに騒ぐような事なの? まぁ、俺も地球にいて異世界人なんて紹介されたら「はっ……?」ってなるな。間違いなく。


「まさか……どこかで魔王が復活していて……それで?」

「ゆ、勇者様なんですか!?」


 俺が勇者かどうかは兎も角、魔王は復活したね。君たちの目の前にいるよ。


「いいや、トーゴは勇者ではない」


 ですよねー。俺、寂しがってる女の子のお願いでうっかり異世界来ちゃっただけだもんね。


「魔王の手先じゃ」


 おいー! その紹介は大丈夫なのか!?

 二人ともキョトンとしてるじゃん!


「妾の名前はリリス・ダークウォーカー。元魔王じゃ」

「「ダークウォーカー……」」


 顔を見合わせたミリエルとナディアが顔を見合わせて噴き出した。


「あ、あなたが?」

「うふふ、かわいい冗談ですね」


 信じていない二人にリリスが頬を膨らませている。そらまぁ、目の前のちびっ子を見て魔王だなんて信じられないよな。


「魔王ダークウォーカーは千年前にこの辺りで猛威を奮った伝説の魔王よ?」

「その瞳に魅入られた者は魂さえも奪われると唄われた、美しい魔族の女王だったと言われています」

「まぁ、よい……」


 なんだろうね。千年後の評価に満更でもない感じかな、あの顔は。っていうか、リリスってそんな凄い魔王だったんだ。


「信じる信じないは勝手じゃ。妾も、もう悪さをするつもりもない。トーゴの事は……まぁ、どうでも良いわ」

「おい……」


 ぞんざいに扱われて思わずツッコむ。リリスもこれ以上、詳しく話す気はないらしい。

 これまでの経緯は俺の口から掻い摘んで話した。

 リリスの呼びかけに応えて異世界に転移してしまった事、人里に向かう道中モーちゃんと出会った事、悲鳴を聞きつけてミリエルたちを見つけ、飛び出した事。

 話し終えると、二人は改めて礼を言って頭を下げてきた。


「分かりました。この近くに私達の村がありますから、是非お越し下さい。何かお礼をしたいと思ってましたし」


 ミリエルの言葉にナディアも頷く。

 人のいる場所に行くつもりでいたし、紹介してもらえるなら有り難いよな。


「それじゃ、お願いしていいかな?」


 願い出る俺に、二人は笑顔で応じてくれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 傍から見たらドン引きの光景だなぁ(汗)
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