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12話 【side:リーナ】やっと叶った念願

それは、やっとのことで叶った念願だった。

もう何年も追い続けてきて、挫けそうになったこともある。


が、それでも諦めることなんてできなかった夢だ。

たとえ今後の人生で出会える未来がないのだとして、ずっと探しているうちに人生が終わってしまうとしても、構わない。


そう思うくらい、リーナ・リナルディにとって、アデル・オルラドは特別な人だった。



リーナがアデルと出会ったのは、まだ15の頃。

当時、王立第一魔法学校の第一学年に所属していたリーナは、すべての座学科目において優秀な成績を収めていた。


魔法歴史学や魔物学、魔法薬学など、どの科目においても上位5人に入る。


「リーナさんってすごいなぁ。憧れるかも」


周りからは羨望の目を向けられることも多かったが、リーナにとってはなんてこともない。



名家・リナルディ公爵家に生まれた以上、その誇りにかけて優秀な成績を収めることは当たり前でしかなかったのだ。


だが、そんなリーナにも唯一、苦手なことがあった。

それは魔法実技だ。


属性魔法の所持魔力は、生まれつきおおよその上限が決まっている。

努力は人の何倍もしてきたリーナだったが、その壁だけは超えることができなかった。


どれだけ鍛錬をして望んでも、下位に甘んじることも多かった。



そんななか、期中で新たに始まったのがアデルによる『喪失魔術学』の講義である。


リーナもはじめは魔術なんて、雑用ができる程度の魔法だと思っていた。実際、真面目に聞いている生徒もすくなかった印象だ。


が、少し聞いてみたら、これが実に面白かった。

なにより心を奪われたのは、この言葉。


「魔術は、魔力に関係なく発動できる。才能を努力で超えられるんだ」


それは、そのときのリーナにぴしゃりとはまった。

しかも、属性魔法の補助としても使えるというのだから、どんどんとのめりこんでいく。


「アデル先生、【強化】の魔術が使えるようになりたいのですが、どうすればいいでしょう」


他の者が『喪失魔術学』に拒否感を示す中、リーナは一年にしてアデルの研究室に所属して、直接教えを乞うまでになっていた。



魔術の理解は、簡単なことではなかった。術式は見慣れない古代文字が使われているうえ、紋様も正確に筆記できなければうまく発動しない。


だがそれでも、努力で越えられる壁であれば、リーナにはなんてことはなかった。



そうして、数か月。

【強化】の魔術を少しだけ使いこなせるようになって、リーナは魔法実技の試験を迎えた。


試験の内容は、ダンジョンでの魔物狩り。

倒した魔物の強さ、数により点数が決まるとのことだった。


リーナは、たしかに善戦した。

しかし、まだ付け焼刃の魔術だった【強化】がすべてを解決してくれるわけでもなく、順位は下位から上位グループに上がった程度に終わった。



それでもリーナにしてみれば、努力の末に掴んだ成果だ。


両親にも誇らしく報告をしたのだが、リーナに告げられたのは


「やっぱり実技はダメそうね。誰かいい貰い手があるといいけど」


突き放すような言葉だけだった。



このまま努力をしたってどうにもならないのではないか。

結局、両親の指定した相手と結婚して、それで終わりならもうなにもしたくない。


リーナはそんな脱力感に襲われていたのだが、アデルだけは違った。


「リナルディくん、本当によくやったな。ここまで成績が上がるなんて、かなりのことだよ。たったこれだけの期間で、ここまで魔術を使いこなせるなんて。君は努力の天才だね。

その諦めの悪さは、魔術にぴったりだ」


ただただ、手放しにリーナを褒めたのだ。


「おいおい、どうした? 泣くようなことか?」


こう言われるが、もう止まらない。涙は勝手にあふれてくる。


表面上の成績だけではなく、やっと本当の意味で自分を見てもらえた気がした瞬間だった。



なにより嬉しかったのは、自分の未来に期待をしてくれたこと。

一本道に決められていた未来が、その言葉だけで一気にいくつも広がった気がした。


アデルが可能性を広げてくれたのだ。



それからというもの、リーナはより一層、魔術の鍛錬に励んだ。

そうして一年以上、やがて『魔法実技』においても一流の成績を残せるようになる。



そうなってもなお、リーナはアデルにずっと感謝していた。

広がった選択肢をすべて捨てて、彼のために人生すら捧げられるくらい。


だから、アデルが追放された以降も常に彼を探し続けていて、今。

ついに再会することができた。


いつか彼が言っていたように、それはリーナの諦めが悪かったからかもしれない。




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