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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第9話 スパルタ


 俺への冒険者説明が終わるの頃にはアルとエリーちゃんは後ろで待っていた。


「ごめん、待たせて」


「大丈夫だ。まだ昼前だし。ただエリーが別行動になる。だからパーティーも別にする」


「例の指名依頼ってやつ?」


「そうなの。アイビーおばあちゃんが腰いためたんだって。エリーお手伝いに行ってくるね」


 アイビーさんとはこの街の薬師だそうだ。

 植物の名前だけど、花や果物じゃないのでサポートキャラだろうな。

 エリーちゃんとも仲良しで、指名依頼が来たそうだ。

 パッと見ただけでは着ぐるみをきた3歳児だけど、俺を慰めてくれた様子からもとても優しい子だ。


 エリーちゃんはカバンからお弁当をアルと俺の手に置いた。

 一緒に行かないから、自分で持って行けってことだ。


「ありがとう、エリーちゃん。次からは一緒のパーティーだし、俺のことはリアンって呼び捨てでいいよ。」


「わかった、リアン。じゃあ、なかよしのしるし。

 にくきゅうスタンプ!」


 エリーちゃんはそう言うと、俺の手に小さな手をぷみっと押し当てた。

 着ぐるみのウサギだったのに、外すと犬の肉球が押されていた。周りにひらがなで文字もある。

『いのちだいじに』

 ホントだね。


「それエリーが君に守護を与えたんだよ。1回ぐらいは死んでもギリギリ生き残れるやつ」


「そんなにすごいの? ありがとう」


「エリー、せーれーだから」


 そう言ってポンと胸を叩いた。かわいくて頼もしい。


「僕も心配だから帰りに店に寄るってアイビーさんに言っておいてね。だからエリーは店で待ってて」


「うん、せっこうにミラつれてく?」


「いや、今日の依頼は楽勝だから。みんなで行っておいで」


 ケット・シーのミランダは斥候のできるシーフで鍵開けや罠解除も得意らしい。モリーが回復術士でルシィが水と闇の魔法士だという。


「モカは?」


「モカは……なんというか拳闘士というかキックボクサーかな。ちょっと乱暴なんだ」


「そうなの。モカ、らんぼーなの。でもとてもいい子よ」


 ふと映画のラン〇―を思い出してしまった。半裸のおじさんのかわりにモカがマシンガン持ってるやつ。映画見たことないけど。



 エリーちゃんは他にも配達の依頼を受けて町へ行き、俺はアルと一緒に草原にやってきた。


「ここってゲームみたいにご都合主義だよね。こんないかにも野生動物が出ますって感じの草原があれば、アンデッドの出る地下墓場カタコンベがあるし。とにかくリアンには出てくる魔獣は全部狩ってもらおうかな。それとも養殖する?」


 養殖とは低レベルプレイヤーが高レベルプレイヤーとパーティーを組むことで、戦わずしてゲームの経験値を獲得することだ。

 つまり俺がアルが行くような強い敵が出る狩場に行ってどこかに隠れていて、アルに全部倒してもらう。すると同じパーティーだから経験値は分け合うことになるのだ。


「ぜってぇーヤダ。ゲーム愛好家として許せない」


「でも命がかかってるからね。僕の仕事は君を無事に返すことだし」


 そう言われるとちょっと養殖ズルした方がいいような気がしたが、自分の能力も知りたいし止めることにした。



 ハッキリ言う。

 アルはスパルタだ。ウサギはこの日だけで50匹ほど狩らされた。

 コイツの方に向かって行く個体もあったのに、ニコニコしながら全部俺の方に仕向けてくるのだ。


「ヘイトを君に移しただけだよ。ほら僕は運営側のチートだから。いろいろスキルがあるんだ。リアンが結構戦えてよかったよ」


 これVRゲーム初心者だったらぜってぇー無理だから。

 こんなに大変なら養殖してもらえばよかったかな?

 数が多いだけだからなんとかなったけど。


 薬草もあっさり採取出来たので、2人でエリーちゃんを迎えに行くことになった。


「アイビーさんはこの街の雑貨兼薬屋だ。エリーは錬金術のスキルがあるのでよく手伝いに呼ばれるんだよ。彼女は街中クエストをよく出してくれるから丁重にね。嫌われるとこの街では生きにくいよ」


「重要なNPCってことか」


「リアン、ここはゲームの世界のようだけど異世界だからNPCという考えは捨てるんだ。彼らはちゃんと生きてるし、感情もある。君の命がかかっているんだ。つまらないことでつまずいたらダメだよ」


「うん……ごめん」


 あれっ? なんかちょっと他人事みたいに言うな……。


「アルもゲームオーバーだと死ぬんだろ?」


「すまないが僕はそうならない。強制ログアウトはできると思う。再度ここに入れるかわからないからログアウトで出られないんだ」


「ええっ? それじゃあ、マジで俺だけが死んだらおしまいなの?」


「そう言うことになる」


 なってこった。一人じゃないと思ったのに。

 でも逆に考えれば、こんな依頼を断って逃げてもよかったのに3年も残ってくれているんだ。

 そう思うと感謝しかなかった。



 アイビーというおばあさんの店は古いけど手入れの行き届いた清潔な店だった。

 天井から乾燥薬草が吊るされていたり、壁の棚には一面瓶詰めの素材が並んでいる。

 俺たちが入ると即座にエリーちゃんから声がかかった。


「いらっしゃ……お兄さま、おかえりなさい。リアンもおつかれさま」


「ただいま、エリー。看病って聞いていたけど、店の手伝いをしてたのかい?」


「アイビーおばあちゃんね、もう3日も寝込んでてお店が心配だって言うから。特別依頼で店を開けているの」


「特別依頼?」


 俺が疑問に思うと、アルが説明してくれた。


「元の依頼は看病と身の回りの世話だったんだ。店を開けて店番するのは入っていない。だからその分は特別依頼になる」


「材料が悪くなるから、薬を作って売ってるの。この街でおばあちゃんのお店でしか売ってないものがあるし」


 そうするためには薬師や鑑定の能力が必要になる。

 だからエリーちゃんへの指名依頼だったんだな。


「最初から依頼に書いておけばいいのに」


「多分店をすると言ったのはエリーだろう。彼女は僕の召喚せい霊で他の仕事もあるから、アイビーさんは気を遣ったのさ」


 なるほど、それなら俺もちょっと疲れてるし、ポーションでも買ってみるかな。

 ウサギ50匹の収入も入ってくるしな。



お読みいただきありがとうございます。

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