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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第71話 旅の準備2


 旅の間の食事のことで頭を悩ましていたら、エリーちゃんが鍋を1つくれた。


「こまったらこのなべ、あけてね」


 そう言って鍋のふたを開けると、中にはおいしそうなシチューが入っていた。

 そう言えば子どもの頃いろんなごちそうが出てくるお鍋の童話読んだ気がする。いやテーブルクロスだったかな? エリーちゃんはメルヘンだなぁ。


「メニューがきにいらないときには、もう1どふたをしてからあける」


 そうしてふたをすると、今度はローストチキンが出てきた。すごいうまそう!


「ほかのものがほしいときは、おなべのなかにおてがみいれてね」


 そうしてふたを開けると中が空でレターセットが入っていた。


「おくすりとか、きがえとか。つらいときはなんにもなくてもかいていいよ」


 それはすごく嬉しい。絶対道中困ると思うんだ。カイルやアイリスはプラムの治癒魔法に頼っていてポーションをあまりたくさん持たないのだ。あと戦闘で敗れた服を途中の村で手に入れられるかも難しいところだ。一応俺の御者席の物入れに多めに用意するつもりだけど、追加で手に入れられるならそれに越したことはない。


「ただし、かえってきたらおなべ、かえしてね」


「うん、わかった。でも甘えすぎじゃない?」


「だいじょーぶ、エリーはリアンのママだから。それにこれ、おにいさまにはないしょよ。だってかほごっていわれちゃうんだもの」


「うん、内緒だね。ありがとう」


 後でアルにバレて、内緒にした意味がわかった。この鍋、エリーちゃん特製の神具なんだって。そりゃあ過保護って言われるわ。




 今日は全員で買い出しだ。食料や消耗品は(サリーがお財布してくれるし)俺たちが用意したが、追加の防具や武器はアイリスたちも一緒でないと買えないからな。


 俺たちの方はすでに用意してある。俺は魔剣でない方の愛用の剣を研ぎに出し、サブで使っているダガーや調理用の包丁などを見繕っておいた。防具もメンテナンスに出したけど着慣れたものだ。たった2か月の戦いで新品を慣らすよりいいと判断した。

 サリーはより動きやすい長さのハルバードを新調し、チェリーは魔法陣を失った時のために追加で予備を作った。さらに旅の途中で作れるように生地と糸を購入していた。サリーも彼女から土属性の魔法陣を購入し、そちらの予備も作ってもらっていた。

 俺も追加で注文を出した。


「治癒魔法系の魔法陣は人数分用意して欲しい。プラムが魔力枯渇に陥ったから全滅なんてことになったら困るから。大変だと思うけどよろしく頼む」


 一番恐れているのは、彼女が俺たち側のケガをちゃんと治さないことだ。魔力の温存と言われたら何も言えない。エリーちゃんからポーションを受け取れるとは言え、他の予防策を用意しておく方がいい。


「わかったわ。これの報酬も出るのよね?」


「もちろんだ。サリーから貰っておいてくれ」


 チェリーはホクホク顔だ。結婚資金にするらしい。うん、相変わらずキースのことで頭がいっぱいでブレない。そのためにも無事で帰らないとな。



 待ち合わせ場所に来たアイリスは防具や剣の手入れは普段からやっているので、投てき用のナイフを購入していた。彼女のスキルは剣に特化しているので、刃物じゃないと作動しないのだ。俺もモンスター用ではなく、人間相手で使える牽制用ものは用意している。当てたら眠ってしまう薬入りとか、唐辛子の入った目つぶしとかだ。治安が悪くなると旅人を襲う輩はどこにでも発生するからな。というかリアン君の知識である。


 プラムが欲しいと言って用意したのが白いローブだ。物理と魔法の攻撃を反射するもので、着ている者の魔力を越えなければ防げるものだ。有用だと思うけど当然魔力を使うので、彼女の魔力枯渇が不安になる。チェリーと同じく体力がないらしいので、重い武器は持たないそうだ。



 で問題のカイルだ。


「本気でこの剣を買うのか?」


「なんだ、文句あんのか?」


 うん、大ありだ。彼が買おうとしているのは見た目こそ豪華で華やかだが、戦闘用ではない儀式用の剣だからだ。もちろん切れないことはない。ないけど金額に見合っていない。


「その、もっと実用的な剣の方がよくないか? 確かに見た目はいいけどさ」


 だってこれは女性が精霊に捧げる剣舞をするらしく軽量化してあるのだ。つまり身体強化して全力で振り下ろしたら、折れるまたはひん曲がるぞ。しかも装飾に宝石や金が使われているので、他の武器とケタが違うのだ。


「その、勇者の剣がどこにあるのか知っているのか?」


「はぁ? てめーなんかに教える訳ねーだろ」


「いや場所が知りたいんじゃなくて、これで魔王討伐は無理だ。どこかで調達する当てがあんのかって聞いてるんだよ」


「うっせーな。エリカがちょっと触ってくれたらいいんだよ」


 これがそんなにいいのか? ってかどうやって触らせるつもりなんだ?



 後で影に潜んでいたエリカ経由でアルに聞いたら、ゲームの中で使用されるまあまあな剣らしい。宝石に精霊の加護が付いていて強度がある設定らしいが、今のその剣ではきれいなだけのものだ。

 ちなみにゲームではエリカを攻略出来てたら、その加護がもらえるらしい。まだヤツは諦めてないみたいだ。


 確かに俺の影の中で同行してくれてるけど、彼女がカイルのためにそんな作業するわけもない。それでアルと相談して、その剣についている宝石の1つをサリーの店に卸す用に触った石とすり替えることにした。加護ってほどじゃないけど、ちょっとは強度が増すらしい。

 それで納品に1日かかるとウソをついて、店に石を交換してもらうように頼んだ。素直に引き受けてくれてよかったよ。そう思ったら理由は違ったようだ。


「剣聖様の御連れ様に不備があったら、俺の店がつぶれる」


 そっか、平民は彼女が魔王討伐に失敗したら、貴族じゃなくなるなんて知らないよな。

 余りにも申し訳なくて、予備の剣も2本買っておいた。

 ああ、なんだか頭が痛い。



 次はカイルの防具を選ぶことになったのだが、彼はオーダーメイドを頼もうとしていた。

 おいおい、夏休みに行くって決まっていたんだから、もっと前に注文しとけよ!


「今から作ったらどのくらいかかりますか?」


「材料の皮が足りないから、どっかの誰かがドロップ品を売って入荷してから3週間ってとこだな」


 全然間に合わないじゃん! 頭だけでなく胃も痛くなりそう。

 さすがに無理なので、アイリスに説得を頼んで中古品を買うことにしてもらった。相当機嫌を損ねたみたいだ。

 でも新品じゃなくても、同じ防具なのでなんとか我慢してくれるらしい。これもゲームでそこそこの防具だったらしい。性能が飛びぬけていいなら俺も欲しいけどそこまででもないそうだ。


 ああ、行く前からどっと疲れたぜ……。


お読みいただきありがとうございます。


作中の童話ですが、お鍋の方は『おいしいおかゆ』、テーブルクロスの方は『北風がくれたテーブルかけ』です。ご興味のある方はどうぞ。


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