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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第70話 旅の準備1


 期末テストも無事に済んで、俺たちは魔王討伐へ向かうことになった。


 あれからいろいろあった。

 まず喜ばしいことにサリーとチェリーの能力は目標であったアイリスを100とすれば40まで上げることが出来たことだ。これはステータスが見れないため大体の感覚でしかないが、冒険者ランクで言えばCランクってところだろうか。学園でもまあまあ強い方に分類される。彼女たちに大きな顔をしていたラルフが45ぐらいだと感じるので、魔王討伐から生きて帰れたらたぶん軽く超えているだろう。


 次に資金繰りが安定した。まぁこれはアルが支援してくれるというのもあるけど、サリーの父親が宝石の収入でしっかり出してくれることになったのだ。どうやら彼女は親から相当溺愛されているようだ。彼はアイリスにくれぐれもよろしく頼むと頭を下げていた。その金を管理するサリーに無茶な命令は出来ないだろう。


 以上が良かったことだ。たったこれだけである。



 まず一番の懸念材料であるカイルが強くなったとは思えない。アイツ勇者の称号、ちゃんととれたんだろうか? ダンジョンも一緒に回らなかったのでこれも感覚的なものだが、確実にサリーとチェリーの方が強いと思われる。

 でもアイリスが連れて行くというのだからしょうがないのだ。


 もし俺が彼女の立場なら連れて行かないか、もっと強くなってもらうように努めるはずだ。

 一体何を考えてこんなことをしているんだろう? それともまだ記憶喪失か何かだと思っているんだろうか?

 それなら荒療治でなんとかなると思っているのかもしれない。同行するこっちはいい迷惑だけど。アイツが死なないように気を付けなければ。



 それからいろんな決め事がいちいち揉める。

 例えばサリーの家の金は別として、攻略で得た金を7:3にするというのだ。もちろん俺たち3人が3だ。

 俺はとくべつに功績を上げた場合以外は等分にしようと言った。いくら何でも命がけの旅に引きずり込んだんだ。報酬ぐらいなくてはやっていけない。


「こちらは高速で走れる上に安全に眠れる魔道馬車を用意したんですよ。あなた方がこれに乗るなら、5:5は当然でしょう」


 交渉事は最初吹っ掛けて少しずつ引き下げるのがいい。でも大義名分はアイリスにある。せめて5:5は無理でも、6:4にはしたい。


「女どもが戦えんのかわかんねぇくせに、半分も渡せるかっての!」


「それはこっちのセリフですが。カイル君。君が強くなったとはとても思えない。どうなんですか? アイリス様」


 彼女はカイルの強さについては明言を避けた。


「……わたくしたちにはお金が必要だわ」


「サリーの父親からあれだけふんだくって、3だなんてありえませんね。1人1割ではありませんか! そんなに金が欲しいなら、俺たちを連れて行かなければいい。そうしたら全部自分たちのモノですよ」


「ふんだくってって、それでも管理はサリーがしているでしょう?」


「当然です。金を手にしたら、彼女を用済みと処分されたら溜まりませんからね。追加のお金が必要でも、サリーの無事が条件なんです」


「あ、あの~、店にウォルフォード伯爵夫人がいらして、新作の宝石を1セットお持ち帰りになった際に、こちらで管理してよいとご許可くださいました」


 サリーが少し遠慮がちに、でも正当な権利だと言うとアイリスは目を少し見開いて唇を振るわせた。わかっているんだ、アイリスだって毒親の被害者だって。だってあのカルミア夫人は魔王討伐の費用に、自分の宝石代を上乗せしろって言ったんだから。さすがに出発したら次の宝石代は受け入れないように言ってある。あの女の欲しいままに渡していたら、魔王討伐の報奨金で借金を返すことが出来なくなるからな。



「……わかりました。だからその事には文句は言わないし、あなたたちを連れて行くことも変更しません。私たちの力の温存のためにも、あなたたちが必要なの」


「それってまさか俺たちに雑魚は全部片づけさせて、それなのに7割持って行こうって言うんですか? 剣聖の名が地に落ちますね。それに討伐の旅には雑用も多いんです。それは誰がやるんですか? アイリス様ではないでしょう? カイル君ですか? プラムさんですか?」


 するとプラムが手を挙げた。


「一応そう言うのは私がやっているわ」


「では事務や買い付けは俺とサリーとプラムさんでやりましょう。チェリーはその補助だ。戦闘は前衛をサリーとチェリー、それからカイル君で。後衛にアイリス様と俺とプラムさんが付くことにしましょう。現地に着くまでに少しでも能力を上げるため前衛メンバーには戦闘が必要です。取り逃したものはアイリス様と俺が片付け、プラムさんが癒しを与える。そして危険すぎる時はサリーとチェリーは馬車の中です。それならば6:4でもいいですよ」


「勝手に決めんな!」


「じゃあなんですか? アイリス様の名を貶めるような低レベルの冒険者に乗っかるような真似をするっていうんですか?」


 俺はDで2人はEランクだ。階級を上げることは時間がなかったのでしなかったのだ。

 本当は寄生って言いたかったけど、これゲーム用語でこっちでは使わないかもしれないし。できるだけ俺の正体はバレない方がいいからな。



「……わかったわ。取り分は6:4で、カイルは前衛に出します。危険ならサリーは馬車の中でいいわ。チェリーは戦闘員として見込んでいるからその時に応じてよ」


「アイリス!」


「その代わり雑務もそちらでお願いするわ」


 完全ではないが言質が取れた。俺がサリーを振りかえると、彼女はしっかり頷いた。手には経費をつける台帳もあるみたいだ。旅の途中での物々交換なども必要になるので、その交渉も頼んであるのだ。


「わかりました。こちらの不正がないようにプラムさん立会いの下で致します」


「その代わり馬車には乗せてくれるのね?」


「はい、ただ寝るときはカイル君を馬車上の荷物置き場にしてもらいます。俺は御者台で寝ますから」


「だから勝手に決めんなって‼」


 さっきからそればっかりだが、言いたいことがあるならちゃんと言えよ。こっちにはちゃんとした理由があるんだから。


「サリーとチェリーは未婚女性だ。異性である君と一緒の室内で寝たって風評が立ったら困る。アイリス様やプラムさんのように君のお手付きではないんだから」


「私はお手付きじゃないわ!」


 プラムが叫んだが、そんなことはどっちだっていい。


「あなたたちが乱れていようがいまいが俺たちには関係ありません。でもみんなそうだと思っていますよ。だから魔法士の早期婚約が当たり前なのに誰もプラムさんに結婚したいと言ってこないでしょう? いくら幼馴染でもべったり過ぎるんですよ。2人はいつも一緒で付き合っているのに、アイリス様にちょっかいを出している男、それが世間のカイル君の評判です。

 チェリーはすでに婚約していますし、サリーにも婚約話が出ています。俺らをあなたたちの醜聞に巻き込まないでください」


 それに幼馴染と言ったって出会ってせいぜい5年だ。もっとガキの頃からなら兄弟みたいの育ったって言えるけど。


「でも彼だけ外はひどいわ。何とかならない?」


「ちゃんと馬車の防御魔法内で、虫さされすらないそうです。夏ですから北部でも凍え死ぬことはありませんし、雨除けを張ることもできます。馬車はレッドグレイブ様のもので、名目もあの方に救援を求めた俺たちのためで、俺が管理権を持っています。嫌ならどうぞ乗るのをやめてください」


「だったら私が上に行くわ」


「どうぞお好きに。でもカイル君も上なのは変わりません。ただアイリス様、あなたのその行為は貴族女性として最低の義務も果たさない、今すぐ婚約破棄できるほどの不貞行為ですよ?」


 ここまで説明しないとダメなんだろうか? 

 頼むから大人しく乗ってくれよ。これはアルがエリーちゃんを悲しませないための温情なんだから。



 彼女が今後不幸にならないためにはこの夏で魔王を討伐することだけなんだ。

 後でわかったんだが婚約者と妻に裏切られ、完全に女性不信に陥ったレッドグレイブ男爵は女を道具としか思っていない。

 彼はアイリスが嫁に来たら帝国で高級娼婦として社交界デビューさせるつもりなのだ。元『剣聖』の伯爵夫人なら、珍しもの好きの王侯貴族たちが飛びついてくると男爵家の家令に語っていたそうだ。

 なぜそれを知っているかと言うと、俺の手紙の確認のためエリーちゃんが一時的に男爵領に帰ったそうだ。その図書室で奴隷用の首輪の作り方があって、不審に思ったエリーちゃんはモカとミランダに隠密行動をさせて調べてもらったのだそうだ。


(だんしゃくはわるいひとなのー。ひきだしにどれーのくびわ2つあるのー)


「どちらも華奢な女性用だったわ。たぶんアイリスとその母親カルミアのね。奴隷にでもしないとアイリスは戦闘能力が高いから危なくてしようがないもの。でもひどいよね、伯爵家を手に入れるための王命の結婚なのにさ」


 そう言ってモカも憤っていた。つまりアイリスは討伐に行かず、結婚を選んでいたら別の地雷を踏んでいたのだ。


「僕も魔法学園に来てから、一度も男爵領に帰らなかったから気づかなかったな。リアンの手紙のおかげだよ」


「だんしゃくさまはエリーにはやさしいのに、こわいひとだったのね」


「そりゃエリーは人型の取れる明らかに高位のせい霊だからね。魔道具で生きている男爵は丁寧に扱うさ」


 そんなわけで色々ごねないで、さっさと出発したいのだ。



 それから事務的なことだけじゃなく、日々の料理なども俺とプラムしかできないということが判明した。


「チェリーっていつも食事を用意していたんじゃなかったの?」


 一緒に鍛錬やダンジョンに行くときは、食堂かエリーちゃんの弁当を持って行っていた。彼女たちには強くなることに集中して欲しかったからだ。だから料理が出来ないと聞いて驚いた。


「でも、今までダンジョン日帰りだから……家の料理人に作ってもらっていたの」


 なんやかんや言ってもチェリーは国家魔法士の孫娘(父親も最近なったけど)でお嬢様なのだ。サリーも豪商の娘だし、アイリスは伯爵令嬢、カイルに至ってはなんにもしない。


「プラムさん、調理は交互でやろうか」


「ええ、わかったわ」


「アイリス様、狩りをするときは頼みましたよ。2人には採取させますから」


 彼女はそんなことをしなくてはいけないのかと不思議そうに首を傾げた。どうやら長期の行軍では騎士団と一緒のため、上げ膳据え膳だったようなのだ。

 それでよく長期の魔王討伐に出ようと思った? 世間知らずにも程がある!


「食事は黙ってても出ませんよ。とりあえずは俺とプラムさんがやるけど、他のメンバーにも少しずつ覚えてもらいます。もし俺やプラムさんが負傷、あるいは死亡したら誰がするんですか? ああカイル君、勝手に決めてほしくないなら代案を出してくれ」


 ああ、先が思いやられる……、頭が痛い。


お読みいただきありがとうございます。

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