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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第7話 味方

言葉は出てきますが、まったくBL展開になりませんのでレイディングはつけていません。

よろしくお願いいたします。


「あなたはどうしてアルフォンスが殺されたことを知っているんですか?」


「僕の仲間が彼を殺害した犯人を確保して不正プレイヤーとして事情聴取したんだ。元々は不正ソフトの追跡だったからね。

 ゲームにはたびたび回想シーンがあるだろ。そのシーンに3年前のアルフォンス君が登場したんだが、その時にプレイヤーは彼を殴って殺害したんだ。

 犯人はゲームだと思っていたし、アイリスにセクハラしていたので義憤に駆られてやってしまったらしい。ただ本当は婚約したことが嬉しくて、母に甘えるように抱き着いただけみたいだ。アルフォンス君は天才的な魔法の才能があったけど、心は子どものままだったんだ」


 だからセクハラも、暴力も、横暴な発言も、小さい子の駄々をこねた状態と同じだったのだと彼は言った。

 それが悪役令息の悪事だったのだ。


「だがプレイヤーにとってはゲームでも、実際は異世界なので過去に死んでしまった人物は元に戻らない。それでメインストーリーに戻ったらアルフォンス・レッドグレイブ絡みで攻略した女性たち全員の好感度が0になってしまったんだ。それで絶望してソフトをリセットし、裏で売ったんだ。」


「リセットはルールでしたらダメなんですよね? そんなの危険じゃないですか!」


「そのプレイヤーだって1500万円ほど払って購入している。ゲームが楽しくなくなったから儲けようとしたんだろう。次のプレイヤーがどうなろうとお構いなしさ。

 2000万で売れたから500万儲けたしね。だが裏サイトで売ったため、買い手がまだわからなくてね。

 だからたぶん今のカイルがその買主のはずだ


 実際、彼は相当なハードモードになって攻略難度が上がっていると思うよ。僕の介入もあるし。

 彼自身3度リセットしたしね。どうも推しがエリカだったみたいだ。何度やっても無駄だけどね。だいたい僕はアルフォンス君じゃないから、共感性のない彼女を呼ぶことは出来ない。

 さすがに諦めたようだ。今ではプラムやアイリス嬢と仲良くなっているし、なかなかうまくやっているようだ」


 精霊召喚には術者と精霊との共感性が必要なのだそうだ。普通に考えても何もない所から呼び出すのだから、どこかとっかかりがないとダメだよな。



 思った以上に状況は深刻だ。

 カイルの中のヒトは裏サイトで高額な不正ソフトを買うような輩なのだ。どおりで性格が悪いと思った。

 せめてもの救いは俺が死んでいなかったことと、元の世界に戻れる可能性があるということだ。


「俺、もうすぐ高校入学なのに……どうしよう」


「ゲーム内の時間と実際の時間は違う。クリアさえできれば方法は知らないけどここを出る時に帳尻をできるだけ合わせるそうだよ」


「つまり俺が戻ったときは翌日ぐらいにできるんですか?」


「翌日は無理だが誤差1年ぐらいにはしたいそうだ。君は実際入院しているし、病気で1年入学が遅れるくらいなら許容範囲と判断された。

 悪いがカーライル社が依頼してきた僕の仕事は君を救うことだけなんだ。

 厳しいことを言わせてもらうが、社としては君のVR機器に初期異常がないことは判明しているのでこの救援以上の賠償は行わない。ソルダム社についてはわからない。どうしてもというなら戻ってから裁判してくれ」


「俺、1度長期で使用しなかったから、メンテナンスに出してますけど?

 それでもですか?」


「メンテナンス? その情報は知らない。いつ出したんだ?」


「去年です」


「わかった、調べてみよう。

 そこで問題を発見できなかったらとしたら、こちらの責任だ」


 1年も帰れないなんて思ったより長い。でも他に方法はない。

 それに先の賠償よりとにかく帰ることだ。



「エリーを通して連絡できるので、出来るだけの調整をカーライル社でしてくれる。僕自身もこのままじゃ困るから協力は惜しまない。どうだろう、僕と一緒にこのゲームをクリアしてもらえないだろうか?」


 否という選択肢はなかった。

 アルフォンス・レッドグレイブは悪役だが、話した感じではこの人がおかしなことはしなさそうだ。運営に連絡できる小さな妹もいるし。

 それに味方がいるといないとでは大違いだ。


「わかりました。協力します」


「ありがとう、川原君。君のことはこれからリアンと呼びたいんだけどいいかな?」


「はい。あの……あなたのお名前は?」


「僕はアル。オーストリア人だ。アルフォンスの略名にも聞こえるし、そう呼んでくれ」


「オーストリア?」


「フフフ、日本にシャーマンがいて、他の国にいないわけないだろ。そのおかげでゲーム内に入れたんだ」


 なるほど、カーライル社もイギリスの会社だしな。



「さぁそろそろお茶にしよう。エリーのお茶はとても美味しいんだよ」


 そう言ってレッドグレイブ、いやアルはカップにお茶を注いでくれた。

 魔法で温めたのか、冷めてはいなかった。


 エリーちゃんはと言うと、俺らのテーブルの側におままごと用のテーブルを用意して、こぐまと子猫とスライムと赤ちゃんあざらしとおやつを食べていた。

 なんだろう。俺の危機感と正反対の緊張感0さ、このほのぼの感。

 シル〇ニアファミリーってこんな感じなんだろうか? 見たことないけど。


 紹介してもらうとこぐまはやっぱりモカで、子猫はケット・シーのミランダ、ふるるんと震えるスライムのモリー、あざらしはセルキーのルシィというそうだ。

 みんなエリーちゃんを母として慕っていた。

 彼女はウフフと笑う。


「エリーが卵をかえしたり、育てたりした子たちなんだよ」


 なるほど、3年の間にそんなことをしていたのか。俺を慰めてくれた感じからもわかる。エリーちゃんは世話好きで優しい子なんだな。



「それともう1つ気になることがある。君がリアンに憑依していることだ」


「それは俺も気になってました」


「僕がアルフォンス君に成り代わったことを考えれば、リアンは死んだ、あるいは意識不明という可能性が高い。つまり肉体はギリギリ死んでなかったか、死んですぐだったってことだ」

 

 そしてアルに問われるまま、初日の様子や体調について話をした。


「ふむ、具合が悪かったのは頭痛と筋肉痛のような全身の痛みだけなんだね。それなら意識不明ということもあり得るけど……」


「ゲームのシナリオ通りなら、俺がこの時点で死ぬなんてありえないんですけど」


「そうだけど、ここは現実でもあるからね。

 現にアルフォンス君は死亡しているから」


 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 それはリアンに何かの危険があったってことだ。


 アルはしばらく考えていたが、情報が足りなすぎると首を振った。



「この件についてはもう少し様子を見よう。君は自分の周りの人間についてよく気を付けておくように。案外君の美貌に夜這いをかけた男が逃げた時に殴られたのかもしれないよ。もしそうなら次のアクションを取ってくるだろう。とりあえず部屋のカギはしっかりかけておくように。

 もし危険な目に遭った時のための連絡手段を用意しておくから、少し待っていてくれ」


 いや、そんな夜這いいりませんけど。てか俺、囮っすか?


「それで今後のことだが基本的に今回のカイルは、ギャルゲーの方しか興味がないんだ。だから彼が生徒会入りしてリリーを攻略している間に、君のレベル上げも兼ねてダンジョン攻略を僕とエリーたちとで行く。君には魔王城へ行けるくらいレベルになってもらうからね」


「わかりました。

 でもカイルが勇者にならないと魔王城に行けないんじゃないですか?」


 確か勇者パーティーになって初めて行けるはずだ。


「その点なら問題ない。

 とにかくカイルは学園編が済めば、次に王宮へ行って女性を口説くだろう。その間にこのゲームを終わらせる」


 つまりその後の冒険者編、勇者編は完全無視するってことだな。

 まぁアルには運営側とつながりがあるんだから、何とか出来るんだろう。



「ダンジョン攻略の間、僕はこの姿に戻ることにする。アルフォンス君の容姿は目立つし、動きにくいからね。攻略の時に学生証を提示すれば成績になるからこっちの学校のことは心配いらない。だから敬語でなくていいよ」


 どう考えても明らかに年上だろうけど、ゲーム設定は同じ歳だからいいか。


「わかった。でもキャラとしておかしくないか?」


「それもそうだな。ではそれは内内だけにして、外では虐げられている僕の手下ってことにしよう。それならテンペスト卿も声はかけてくるだろうけど、手を出しにくいだろう」


 とりあえずこれで俺は元の世界に戻るための味方を得て、男だけのハーレム入りは免れたのであった。



お読みいただきありがとうございます。

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