第69話 調査の結果
中間テストを無事に終え、アイリスは夏に魔王討伐に行くことと俺たちが参加することを発表した。彼女と打ち合える俺はともかく、あとの2人はものすごく驚かれた。家族が代々魔法士なのに最低の成績しか出せなかったチェリーと、手柄を独り占めにしていたラルフやノートンのせいでただのお囃子をしていたサリー。こんな彼女たちが何の役に立つのだとみんな思ったのだ。
だが遺書を書いたサリーと婚約が決まったチェリーの真剣さは本物で、訓練を真面目に取り組みメキメキと実力を上げ始めた。あとは肝心のカイルなのだが、そちらはどうなっているのかわからない。
俺は毎日の報告をアイリスではなく、アルにするようになった。こっちの方がいいよ。食堂の残ったメニューを1人で食べるより、エリーちゃんのご飯をみんなで食べる方がおいしい。
それに調査の結果が出たそうだから、食後にいろいろ質問することにした。
「それにしてもサリーの家にあんなに宝石売ってよかったのか?」
「ああ、いっぱい余っているからね」
「あんな高価なもの、余るほど男爵家には財力があるのか?」
「いいや、あれは全部ダンジョン産だよ。エリーが宝箱を開けたら、いつもいいものが出るからね。宝石や金貨は僕らから言わせればハズレなんだ」
「ハズレって、両手で掬いあげるほどの量のダイヤモンドだぞ?」
すると彼は小さくため息をついた。
「僕たちはもう3年以上ここにいるんだ。この世界のダンジョンというダンジョンはすでに何度も巡っている。もう飽きるほどにね。
理由はダンジョンには悪魔の罠を仕掛けやすいので僕らが攻略することで、一般の冒険者が引っかかる可能性を下げているんだ。そうすればダンジョンでの死者が減り、悪魔に力を吸収されることも防げるからね。
あとはこの世界の人間に分不相応なアイテムを与えないためでもある」
つまり罠を仕掛けられてもアルたちが攻略するので、一般の冒険者がその罠で死ぬことを防いでるってことね。
「分不相応なアイテムって何?」
「ダンジョンの宝箱は運だ。だからごくごく稀に勇者でもないのに聖剣やエリクサーなどが出る。資格がなければ聖剣なんて、見た目の派手なただの重すぎる剣だ。持ち主に力がないのにそういったアイテムは持っているだけで消耗するんだよ。もちろんそれらはこの世界の魔素によってつくられているから、悪魔を討伐し終えたらそれを魔素として返還するんだよ」
「今すぐに返還するのはダメなのか?」
「悪魔を倒してからでないと返還した魔素の力を利用されてしまうだろ。精霊女王たちには話をつけてある」
なるほど、それがこの世界を守る活動ってことね。
「だから僕たちは人より大量の宝箱を開けている。そんな危険なほど良いアイテムが出ることは女神の運を使ってもなかなか出ない。全体の1%を満たない量しかないからね。そしてそれ以外の99%以上は宝石か金貨なんだ」
ちなみにこれはエリーちゃんが開けての話だから、普通の冒険者だとハズレの方がうんと多くなる。
「それじゃあ、そのまま換金すればいいじゃん」
「1回や2回ならともかく、毎回大量の宝石や金貨を持ち帰る冒険者……すごく目立たないか?」
うん、すごく目立つし、なんか悪い方法で手に入れてるんじゃないかって勘ぐりたくなる。何だったらおこぼれ欲しさに付きまとわれるな。
「僕がアルフォンス君の振りをしているのは秘密だし、下手に探られるのはマズいんでね。元々僕らの容姿とエリーの薬のおかげで注目されてしまったから、あまり売れなかったんだ。
これらも終わったら魔素に変換しようと思っていたのだけど、この地の魔王討伐に使えるならいいかなって思うんだ」
アルがアルフォンスに変装しているって、誰も思ったことないと思うよ。それだけ印象が違い過ぎるから。
でもこれならサリーの奮起にも役に立つし、この世界を守るためのものにいらないもの(宝石だけど)が使える。一石二鳥だ。
「サリーがさ、毎日アクセサリーのデザイン描いてるんだ。高価な物は受注生産だけど、小さいものは先にいろいろ作っておくんだって。今が一番店の手伝いを頑張ってるみたいだよ」
この学園は王都の隣町になるので毎日帰れないけど、自分のデザインのアクセサリーを売りたいようだ。やっぱり彼女は魔法士より商人向きなんだろうな。
「かわいそうだけど追い詰められて初めて、自分のやりたいことが見えたのかもしれないね」
「うん、絶対生き残るんだって、張り切ってる」
「それでカイルの方はどうだ?」
「あれから一緒にダンジョンへ行ってない。さすがにあの素人臭い剣技のままじゃないと思うんだけど……」
そこでアルはカイルの過去情報をかいつまんで説明してくれた。
カイルはこの国の南西部の村デュクルの生まれだ。代々農家兼猟師の家で腕っぷしが強い家系だそうだ。村の安全を守るのも仕事で、その流れで剣も扱えるようだ。
転機になったのは5年前、祖父と父親が狩りに出た時に1人の傷だらけの少女を拾った。それがプラムだ。元は南部の村に住んでいたが魔王の手先に村を焼かれ、カイルの住む村の祖父を頼ってやってきたが森で力尽きていたのだ。
2人が村に連れ帰るもすでにその祖父はすでに他界。それでカイルの家に住み込むようになる。
「だったら世話になっている家の息子と家出したってことか」
「うーん、あんまり考えたくないけどあの美貌だ。家の男どもが放っておかないだろ。そうなると女性陣からは嫌われただろうし。それから3年前のハリケーンだ。南西部はあまり被害が大きくなかったろうが、森の恵みなどは失われただろうね」
そっか、貴族ですら身売りするほどの被害だからな。平民にだって影響は少なくないだろう。
「だったら猟師の方の収入がなくなったってことか?」
「たぶんね。そういう時は使用人や居候は追い出したり、売り飛ばしたりすることが多い。それがイヤで家を出たのかもしれないね」
うわぁ、でもリアン君の記憶もその意見に同意のようだ。北部のように女性に不埒な真似をしないって決められているならともかく、血のつながらない世話をしてやってる年頃の美少女と寝起きしていたらちょっとぐらい……。なんてこともあったかもしれない。でもプラムは聖女だからきっと拒否しただろう。可愛さ余って憎さ百倍で辛く当たられていた可能性が高い。
「家を飛び出たのも3年前だ。そうしてレッドグレイブ男爵領に入ってきて、アルフォンス君とアイリスに出会っていると思われる」
その後の3年間の足取りはまだつかめていないそうだ。アルは冒険者で食いつないでいたと見ている。
「冒険者ギルドは冒険者の過去を聞き出したり、逆に他人に聞かれて話したりすることはない。だから地道な目撃情報を探すしかないんだ」
つまりそこで調査が止まっているってことね。
「ただカイルの性格なんだが、正義感が強く勇敢でよく笑う快活な少年だったそうだよ。当然今のカイルのすぐに怒鳴って虚勢を張る姿とは大違いだ」
それならゲームの性格通りだ。剣を使えてなおかつ明るい少年なら、アイリスの好みに合いそうだし、不遇なプラムを助けて家出するのも頷ける。
「次はプラムだ。南部のアケーラ村が5年前に魔王の手で焼き討ちに遭っている。そこには彼女と同じ髪の色で、デュクル村に祖父のいる女の子がいたそうだ」
「そっか、実在するんだ」
「だけど名前はアウラって言うそうだ。一体あのプラムは何者なんだろうね」
そう言われて背筋がぞわりとした。カイルの中の人が変わっているのは知っていたけど、いつも目立たないようにしているプラムもすもも様と違い過ぎる。彼女は一体何者なんだ?
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