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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした
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第66話 錬金術がない世界


 話し合いの後は夕食だ。エリーちゃんは俺が来るとわかっているときには大抵白ご飯を炊いてくれている。ダンジョンで腹をすかせた俺は山盛りの唐揚げにテンションが上がっていた。


「こっちはしおあじで、こっちがしょうゆあじよ。ほかにもあるし、レモンもどうぞ」


「俺、鳥の唐揚げが一番好きなおかずなんだ。嬉しい!」


「うふふ、よかった。メニューかいはつちゅうなの。たくさんあるからいっぱいたべてね」


「メニュー開発って、お店みたいだね」


「これ、おきゃくさまのリクエストなの」


 エリーちゃんはいろんな世界を行き来するお店、『深淵の魔女の店』を持っている。普通は魔道具などのアイテムを販売しているんだけど、時々料理を買いたいって言われるんだそうだ。


「もとのせかいのあじがどうしてもたべたいって。よやくのおきゃくさまのいるところはあぶらがきちょうなの」


「そっか、塩味ならできそうって思うけど、油が貴重なら揚げ物なんて無理だよな」


 大好きだけど自分で揚げたことがないって人が多いらしい。確かに俺もそうだ。揚げ物文化がないと料理人にも頼みにくし、教えるのも難しい。そんな時に頼られるお店なんだそうだ。


「ファストフードやカレーもおおいけど、あげものやにものもおおいのよ」


 それで塩味や醤油味以外に、甘辛味にしょうがやにんにくを利かせた物や衣に卵が入っているなど、いろんな味の唐揚げが出た。俺としてはどれもおいしいのでいっぱい食べられて満足だ。どれがいいと言われて、定番の塩と醤油味を勧めておいた。


「でもエリーちゃんが揚げた唐揚げなんて贅沢だよな。だって女神様なんだから」


 俺もてんこ盛り食べた後だけどな。


「エリーはまだみならいだし、おきゃくさまにはまどうぐとスキルでつくるよ」


 彼女は錬金術師なので、スキルと組み合わせると材料を用意すれば一瞬で出来るそうだ。

 ただしレシピは完成していないとダメなんだそうだ。それでこんなにいっぱいお試ししてるんだな。



「そういえばここって、錬金術師がエリーちゃんとアルしかいないよな」


「れんきんじゅつを、せいれいにわかってもらうのがむずかしいの」


 エリーちゃんの説明では、錬金術とは魔力と魔道具を使って小規模ながら世界の理に手を加えることになるんだって。錬金窯の中だけのことだけど、材料を入れるだけで行程をすっ飛ばして完成させるのだから。しかも料理のような食べ物は、出来たものに魔力や神力を残さないために特別な魔道具を使う。

 この世界は精霊の力を借りて魔法を行使するため、その全てを精霊に理解してもらわなければならない。材料から料理を作るだけでなく、何の力も残さないようにする意味が分かってもらえないのだという。


「力って残っちゃダメなの?」


「つよすぎるちからは、どくになるの」


 人間はヒト族の中でも弱い生き物なので強すぎる力に負けて体が変化したり、時には死んでしまったりすることもあるのだそうだ。


「体が変化するってマズいの?」


「とてもこわれやすくなるし、いたいよ」


 筋繊維がズタズタに裂けたり、神経細胞が潰れてしまったり、体の一部が肥大化したり良い効果は少ないんだそうだ。よくラノベで料理を食べたら強化されるってあるけど、それには特別な加護を得ていなくてはならないそうだ。それに加護なんて初見の客にホイホイあげるものでもない。そういえば俺、肉球スタンプで加護もらってたわ。あれがないとそうなるのか……。


「エリーのりょうりは、かごがなくてもだいじょーぶ。ぜんぶてづくりだから」


 そうだよな、前に刺繍の会でサリーとチェリーにお菓子配ってたもんな。ちゃんと配慮してくれていた。

 そんなわけでこの世界に錬金術は定着しないのだという。それでちょっと思い出した。



「チェリーの刺繍ってさ、普通の布や糸みたいなんだけど、それってスキルとかの関係なの?」


「ううん、ちょっとちがうよ」


 この世界に錬金術はないけど魔法紙はある。これは俺たちが普段勉強や仕事で使っている植物の紙ではなく、ダンジョンドロップのモンスターの皮だ。魔法用のインクなんかないからこれに普通のインクで描かないといけない。


 でもチェリーは普通の素材を使っている。その違いが古い刺繍方法なのだ。今の刺繍は必要な糸を必要な本数を合わせて針に通して使う。古い方法だとただ合わせるのではなく自分で好きな太さに糸をるのである。そのときに魔力を添わせているのだという。


「せかいはまそでできていて、どんなものでもまりょくがあるの。そこにチェリーのまりょくがたくさんよりあわさるのよ」


 なるほど、その方法だと撚らない糸はほとんどないそうだから、しっかり魔力を帯びるって訳か。


「じゃあその刺繍方法を学べば誰でもできるのか?」


「どうかな? たぶんチェリーはおばあちゃんにいっぱいおそわったとおもう」


 それがちょっと違うのちょっとなんだね。相当な修練の結果、スキルに近いものになったってことか。


「魔法紙に刺繍したらもっと効果的かな?」


「かわのまりょくとあいしょうがよければ」


 ドロップの皮には属性があって、チェリーのような全属性ならいいけど、例えばサリーは土魔法しかできないから土属性の皮しか使えない。使いたい属性の魔法を使うには起動するための魔法陣がまた必要になるのだ。つまりとってもお金がかかる。


 全属性で刺繍が出来て魔力量も多いなんて条件に合う人間はほとんどいないだろう。これで彼女の身代わりをすぐに立てることは出来ないな。まぁヒロインの1人だからそれは無理だったかもしれないけど。


いつもお読みいただきありがとうございます。


刺繍についての説明します。


今の刺繍として想定しているのがフランス刺繍です。刺繍糸はすでに撚りのかかった細い糸の6本組で1本の太い糸になっています。これを1本ずつとりだして(このとき撚りはほぐれます)好みの太さになるよう何本かを合わせて使います。さらに撚って使うことは技法によってはあるかもしれませんが基本的には合わせるだけです。


古い刺繍として想定しているのが日本刺繍です。こちらはまっすぐな糸を撚って使います。撚りの強さで色の濃淡を出したりもするので、すごく奥深いです。私は1日体験ぐらいしかやったことがないです。

チェリーの何が特異なのか書いてなかったなぁと思っての補足回でした。

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